「『福沢諭吉朝鮮・中国・台湾論集』の逐条的註」 その3

2013-01-23

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1・6「第二章 朝鮮・中国論 イ、甲申政変」に関して

(8)90頁16行目「甲申政変(解題)」

さて甲申政変の場合、壬午政変の場合と異なり、福沢は金らにクーデター(要人暗殺)のシナリオを授けたばかりか、日本刀(五〇振りもしくは八〇振り)の他、ピストル・ダイナマイト等の武器を提供した当事者である。そして福沢は、金らを補助するために井上を関与せしめ、クーデターの直前まで井上と暗号電報でやりとりを続けている。

上条の註

福沢は朝鮮の甲申政変の黒幕か

これは面白い。私としても福沢関係の文献にあたること、大学に入学して以来およそ30年、特に研究対象としてからも既に15年ほどになるが、かつて「政変前に日本刀を朝鮮に送らせた」との記述を石河の『福沢諭吉伝』第3巻341頁で目にしたことはあったものの、これほど甲申政変への具体的な関与に言及している記述は初めてである。本当ならすごい。甲申政変と福沢の関係については、都倉武之が「福沢諭吉の朝鮮問題ー「文明主義」と「義侠心」をめぐって」(寺崎修編『福沢諭吉の思想と近代化構想』2008年1月・慶應義塾大学出版会刊)という優れた論文を発表していて、その件は井上角五郎による与太話にすぎず、信憑性に乏しいという結論が出されている。

もとより無関係の証拠などは提示できないから、甲申政変は福沢が仕組んだ政治謀略だ、と杉田が主張し続けることは可能である。しかし、現在の甲申政変研究をフォローしようともせずにそうした与太話を吹聴する杉田の姿は、かつて、『学問のすすめ』の冒頭の一文は東北古代王朝の実在を証明するとされた偽書『東日流外三郡誌』が起源であり、福沢はそれを盗作したと、自著『福沢諭吉の戦争論と天皇制論』(366~371頁)で主張し、さらに後日その見解を撤回した安川寿之輔の姿と、どうしてもダブって見えてしまう。甲申政変と福沢諭吉の関係については私自身も興味があるので、調査のうえ公表するつもりである。