「言論自由の説」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「言論自由の説」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

言論自由の説

國會爰に開て黨派政治と為るときは兩黨各其主義とする所を守て相互に駁撃辯論を天下の人心其一方に歸するもの多ければ其政黨は即ち多數を得たる者にして政府に地位を占む可し然りと雖とも凡そ政治の主義に完全無斷缼のものある可らされば仮令ひ甲の黨派が政府に昇るも乙の黨派も亦決して消滅するに非すして駁撃辯論は到底止むの日ある可らず黨派政治は永久無限主義の爭論なりと知る可し抑も政治の主義は其施政の跡を見るに非されば之を知る可らず而して其跡の直に外面に顕はれて天下公衆の耳目に觸るゝものは今の政府に於て唯公布の文のみなれとも公布の文は至極簡單なるものにして此白文を見るも其主義の在る所を詳にするに足らず例へば政府にて租税の事に付き又宗教の事に付き向後地税地方税は云々神官僧侶は云々と公布することもあらんには預め諸省諸局にて商議の喧しきや推て知る可し一たび提出したる議案は

廢案と爲り旣に廢したるものは復た重て出現する等時日を費し精神を勞して始めて一片の布告文を作り出たすことにして數行の公文も其草案は五厘に滿ると云ふも可ならん政事を慎むには斯くこそある可きことなれ決して怪しむに足らずと雖とも其發令を斯くのまでに鄭重にしながら人民の耳目に觸るゝものは唯數行の公文のみにして其令を發布せさる所の理由は之に告けさるの風なり之を告けされば之を知るに由なし之を知らされば唯推測の見解を下らず可