「朝鮮交際の多事に処するの政略如何」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「朝鮮交際の多事に処するの政略如何」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

朝鮮交際の多事に処するの政略如何

本年三月一日より時事新報を發兌して以來我輩の主義は全く獨立にして敢て官に附かず又民に偏せざるの旨は讀者も既に之を知る所ならん三五年前より官民の針路次第に背馳し殊に去年十月□頃より一入其形跡を現はして物論日に〓ならざるを〓し我輩は唯其調和の道を求めて嘗て一日も之を怠ることなく共これを〓めて義心の甚しきは鄙見を〓るに〓〓〓に〓〓〓は〓〓〓〓〓〓〓〓の〓に〓ふたる〓〓こともあり又或は官の〓に屬しとて大に〓へられ〓ることもあり誠に心〓しくして實際には誠に煩はしきことなれ〓〓て考れば是亦人間世に處するの義務にして徒に世論を恐れ又又官譴に萎縮狼狽しては遂に我が所思を述ることも叶はず去〓は今日我國の爲に官民不調和の不利たるを心に知りながら又眼に見ながら黙々に附するものなれば心に於て甚た慊からず寧ろ拙劣を顧みすして滿腹の所思を吐露するこそ本意なれと覺悟して今月今日まても獨立の主義を推立を只管調和の論に忙はしくたることなれ〓明盲相半するは古今免かる可らさるの世態にして未た世人をして大に悟る所あらしむるの塲合に至らざるは我輩の深く愧る所なり

然るに今回朝鮮國の變あり彼の頑冥なる士民が宇内の形勢の如何を知らず守舊退歩を以て報國盡忠と誤り遂に暴擧して我が在韓の公使舘を襲撃し我が日章旗を汚したる其罪は決して許す可きものに非ざるを以て一時日韓の交際は將に破裂せんとして未だ破れず其危きこと?卵も啻ならさりしが幸にして平穏の談判を以て其局を結ひたるは我輩の滿足之に過ることなし然れ〓こは唯日韓交際の一段落にして八月三十日濟物浦の締約は僅かに過去の局を収めて大に後來の塲面を開き日本國民に負はしむるに政治上にも商業上にも昔日に十倍するの重任を以てしたるものなるが故に若し因循姑息一日の安を偸むを以て今の世に處するを得策なりとするの人士を〓評せしめなば天下これより多事ならんとて大に之を憂苦することなる可し人士の云ふ如く是よりして天下多事なる可きは疑もあらずと雖も我輩は天下の多事を恐るゝ者に非す天下多事ならざれは文明富強望む可らず天下の多事は多々益之を辨ず可きのみ天下多事の第一若は自今支那朝鮮の交際我外交上の第一緊要事と爲り當局の外務大藏陸海軍省の如きは直接に其衝に當て大に従來の政策の充分ならさることを感し之を襲用す可らさる塲合もある可く其困難想見る可し果して然らば我輩又困難に際して爰に我内國の官民に告る所のものなかる可ならず

抑も民權の貴重なるは我輩飽くまでも之を知れり人權主張せざる可らず政權喋々せざる可ならず之を喋々して國政の改良を促かし富國強兵以て國威を海外に〓かして他の侮辱を〓さんとするは我輩も世上の民權論者も又我政府も正しく同説にして符節を合するが如くならん然りと雖も人生如何せし鬼神に非されば各其守る所の主義に熱心せさるを得ず之に黙して其〓度或は中を失ふなきを期す可らず或は其〓度は無限に高きを要するも必事此の一方に偏して他の一方を等閑に〓遇するの弊なきを期す可らず方今〓〓〓〓の〓を見れば民權論者の〓に論せさるもの多からん我輩とても決して〓に之に感服して〓に之を〓〓せんと欲する者には非され〓外交の利害得失に比較したらば瑣末にして論するに足らさることならん地方に演説會を催ふして巡査に中止せられたるは實に立腹に堪へざることならんと雖も其巡査が今回仁川に於て韓人の爲に命を落したりと聞て如何の感を爲すや演説の中止は日本國にて日本人が日本人の爲に咎められたることなれども仁川の被害は巡査の被害に非ず我日本國が朝鮮國の爲に害しられたるものなり事の大小軽重日を同ふの語る可らさるものならん又政府に於ても今の所謂民權論者の〓を聞けば耳に逆ふことも多からん西洋説の糟粕を甞めたる者歟或は糟粕をも未た甞めざる者が喋々奇言を吐て世間を騒然たらしむるは誠に悪む可きが如くに思はれ或は憤怒に堪へさることもあらんと雖も末流の無學不文は官民共に同様の事にして深く咎めるに足らず墻に閲くの小議論政府の全力を盡して防禦するにも足らさることならん況や民權論者とて悉皆輕躁者のみに非ず隨分才德に乏しからざる者も多し之を敵にするは政府の上策とも思はれず良しや之を敵とするも日本國内の敵にして彼の朝鮮の斥和黨が我公使舘を襲撃したる者に比すれば同日の論に非さるなり今回我政府は平和の談判を以て日韓交際の一段落を了り昔日に十倍の重任を負擔したり而して此任を尽すに當り政府は内外の政畧を如何するや依然内の民權黨の制御に忙はしくして兼て又外の朝鮮支那の交際に力を尽すことならん歟或は此好機會に乗して大に内國の人心を収攬し昨日の政敵を變して今日の國友と爲し朝野協力共に國の富強を計り國光を海外に〓及せんとするの策に出る歟天下多事當務困難の時期に際し之を福に轉し之を福に轉するは唯當局者が一決断に存するのみ我輩は刮目して其孰れに出るやを見んと欲するものなり