「後藤板垣二君の洋行を餞す」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「後藤板垣二君の洋行を餞す」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

後藤板垣二君の洋行を餞す

名は實の實なり其實なけれは其名なし實なきの名は忽ちに顯るゝと雖も亦忽ちに隱る久傳の名は虚ならず之を百摩し之を千拭するも其名〓顯るは盖し其?む所の實〓其光輝を發するなり若し夫れ久傳の名も朝に夕に其實を變し或は腐蝕し或は壊乱するを以て時々刻々之を試験し果して其實体に腐蝕壊乱なきを確認し始て其名を信すへきと云ふに至らば吾人の世に居る粉々擾々に堪へさるなり然りと雖も余輩は容易く其名を信せさるものなり曰く某は慷慨憂世の君子なり某は卓越豪勇の丈夫なりと甲傳乙唱一時其美名を喧傳するも其據る所一言一行の故に出て未た年月を〓〓百千の言行よりして之を傳ふるに非されば妄りに之を信せず他日を〓て其美名の〓して虚ならさるを証せんと希ふものなり試に久傳の名にして苟も一言一行より〓らさるものは〓〓〓〓がす之を〓〓さるも必す其實あるを信し容易く人の毀譽を以て忽ちに好みし忽ちに惡むを爲さゝるなり

後藤板垣の兩君は明治維新の元勲なり幕末より今日に至るまで二十年來世人の〓仰する所にして其言行の世に耳目に觸るゝもの豈〓百行千言ならんや故に之を〓るも之を譽るも各其根抵する所ありて唯其人の一言一行を以て空く其名を喧傳するものとは大に逕庭あるの一事は余輩の辧解を須ひさるなり是以て二君の名は縱令之を美と爲すの人に在ても亦之を醜と爲すの人に在ても苟も一朝一夕に故に非さる可きは亦信して疑はさる所なり二君の名は久傳のものにして所謂千摩百拭を歴るものなり所謂其實に生するの光輝なれは之を醜と爲すも之を美と爲すも今回洋行の一事を以て其美忽ち醜となる可らず亦其醜忽ち美となる可らず若し其人の經歴を信せす唯目前の一言一行の吾意に適すると否とを以て其人の心事如何を評し忽ちに之を美と爲し忽ちに之を醜と爲し其言行の終る所を審にせざる〓は時々刻々人の心事を試験せざれば以て其腐蝕壊乱なきを保す可らず斯の如く粉々擾々の心を以て世の人事を審判せんと欲せば世に交る可き人なきのみならず人も亦斯の如き粉々擾々の人と交るものなかる可きなり

余輩は二君の二十年來の言行を聞見し其名の實に空しからさるを信するものなり二君を以て忘身憂世の君子と爲すなり然りと雖も其言行一々余輩と所見を同ふするものと云うに非ず人の思想は其耳目鼻口の不同あるが如く相似さる所多しと雖も二君の忘身憂世の君子たるは殆と世を舉て之を信ずと言ふも誣言に非ず唯之を譏る者は忘身憂世の志厚きに過きて或いは時弊を矯正するの大〓なんと恐るゝに過ぎず然るも退て二君の地位を一省せよ外に在て時弊を矯正せんと言うものは古來其言を激にせざるもの無し盖し激ならざれば人多くは之を聞かず外に在て太急なるが爲め内に在て事を〓るの日も亦此に同しからんと言ふは盖し過慮なり或は氣質の偏する所矯正の太急なきを必す可らざるも他に之を緩和するの人を得は未た必ず其太急を恣まにすることあるを憂ひず況んや目下の時弊之を矯正するの太急を要するは殆と〓〓の輿論なり是以て余輩は二君の從來の言行を信し今回の洋行も亦時弊を矯正するの一手段にして從來二君の〓る〓の〓〓中の事なるを信ずれば〓に人と同しく一言〓〓の〓て〓を忽ち疑〓を生ずるを〓とせず

二君の洋行は〓しては世論〓〓或は〓〓〓は〓〓の〓〓に〓り〓〓守る所の〓〓を〓ちたりと之を非難するもの其〓〓〓多く一は〓〓〓〓〓人〓〓て一〓〓〓〓むの人に出をり君を親むの人に在ては君が主義を〓〓せりと疑ふことはあらざれも疑似の間は〓子の愼む所なれば縱令其目的正しければ手段を問ふに暇あらずと爲すも手段も亦正々堂々〓ならんと欲す百分中の一分も其手段〓〓〓ある〓〓政壇場中旗色明ならざるを憂へ〓〓の禽を〓んよりは無乃範の〓〓するの禽を獲ざるを尚ふの意なるべければ洋行を不可とするの議必しも不當なりと云ふ可らず然りと雖も此流の人は本來板垣君を信じて之と思想を同ふし唯其名を聞くのみに非ずして其實に就を見る所ある者ならん若し夫れ果して然らば今回の洋行の一事を以て忽ち君の心事破壊せりとするが如きは速了の甚しきものにして其信厚からずと云はざるを得ず何となれば縱令洋行費の出處万ケ一青天白日ならさることあるも僅に二三万圓の黄金を以て君を買ひ得たりとする〓何そ夫れ君を信ずるの厚からさるや君は丈夫なり金を以て買ふ可らざるなり或は君が一二〓〓の甘言を信し第二回〓〓會議に臨まんと思へる乎大坂會議の辛酸は君の飽くまて知る所なり欺くに其法を以てすれば君子は欺かるゝものとは云へ再三すべきものに非す故に余輩は之を信ずる能はず唯君の此行は主義を施すの一手段なるを信ずるものなり又從來君を景慕し君の恩顧を蒙り而して自今君と黨議を異にするが爲に君を惡むものが〓に此行を誹謗するが如きは卑劣も亦甚しきなり君が買う可らず又君の再三欺かる可らざるは応中既に之を知るならん而して論鋒を其私行上にまで及して之を〓傷せんとするは己れが志操を變換するの易きより人も亦斯くあらんと推察したるもの〓〓く他黨を〓問して以て巳れが地歩を進るの意乎若し然らすして板垣君が此天歩艱難に際し遠く洋外に遊ふを爲さば自由黨の爲めにも幾分の聲援を殺き延て民間政黨の樹立に〓ありと君が此行を思ひ止らんことを希ふの眞意ならば何そ論鋒を愛惜の點に立てさる〓〓〓の〓政黨諸新聞中往々君が此行を喜ぶ如き〓氣あるは果して何の爲そや其敵視する所の黨員〓〓其〓〓ち〓ふを以て其瓦解を見んとする乎余輩は自由黨の〓士其總理の〓行あるも必す能く其堅〓〓〓〓〓其〓〓を〓るを希ふものなり又或は君が〓〓の〓〓〓〓〓自由黨の聲援を殺きたりと爲すか君を〓〓す〓は帝政黨新聞記者の如く容易く禽獲すへきに非す抑も之を喜ふものは人の不幸を喜ふの心を以て人の不幸ならさることを不幸として喜ふものなり唯君の洋行は其主義を施すの一手段〓着手したりと見るの他なし其成敗に至ては國より〓め期す可らざれども〓た此を以て君が主義を變したりとするは久傳の名は實に生するの確言を知らさるものなり然りと雖も古語に棺て盖ふて其人定ると云ふことあれは或は余輩が前の確言を妄信し後の格言を輕視するの誤りに居るもの乎余輩は刮目して二君の洋行を終て後日我國の幸福を加ふることあるを待つものなり一言以て君の洋行を送る