「言論禁停の方法」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「言論禁停の方法」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

言論禁停の方法

古來各國の慣行に言論を自由にすると檢束すると別あり言論を自由にするとは一切の言論、論者の勝手次第にて張〓鼓腦何事を論ずるも之に干渉せざる風なり又之を檢束するとは言論の素性を吟味して朝憲を〓し治安を害する等の跡方あらば其害の〓重に随を之を中止若しくは禁止する謂なり今此二者の是非はごときを量き之を自由にすると檢束する便否は當初より慣行次第なりと申して可ならん若し當初より言論を自由にする慣行ならば血氣の論客が特として〓狂の説を唱え或は暴言を吐くことあるも人敢て之を奇とせず其暴言を〓すれば却って他人の嫌厭を來し言語問〓の狂人なりとて之と〓するを愧るが故に論者自ら心事を改め俄に筆〓口頭の圭角を収縮して其論鋒を〓滑にし漸く若實の風を装うを特論の〓斥を免るゝことを〓む可し乃ち言論自由の國に暴論詭説案外に寡少なる因由なり若し又言論を檢束する慣行ならば奇を好む人情其之を檢束する故を以て殊更に論鋒を鋭くし或は其所論に檢束を蒙ると蒙らざると間髪を容れざる際に出入して窃に其〓勇を〓るものあれば世人は其言論の決〓に〓れんとするを見て恰かも〓眠を窺うを珠を盗む〓を爲し樂んを其後に喝采する意味なきを得ず〓は〓〓の際に於いて〓に〓〓の意を寓すれば世人は論者が之を明言し能わざる苦心を窺し不言の〓に首〓して之を〓除する〓あり故に言論檢束の國には論檢の論言多くして其人情を〓〓するも亦基に有力なり乃ち一〓言論を檢束すれば〓虎の〓〓に之を自由にうる能はざる所以なり

〓〓〓〓〓〓〓〓説に言論〓〓〓〓にするを〓束すると説〓〓〓〓〓〓の〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓にては勢、之を檢束せざるを得ざる者あり何ぞや近時文明の流行より一種の狂客を生じたる一事即ち是なり嘗て我紙上にも論ぜし如く近時蒸氣電信の二力其勢を逞うしてより人〓〓に羽翼を生じ政治法律以下社會万般の事物苟も〓套を存するものは文明の眼より見て〓な迂濶の觀を呈し意先ず到りて事之に随う能はず是に於いてか血氣の論者人間の不如意に制さられて腦裏の實行するに苦み熱情煩悶論火〓にして自ら之を禁ずる能はず時に〓狂の説を發して其鬱憤を散することあり此論者こそ正しく一種文明の狂客にして尋常一様の政府にては此狂客の所爲に任じて其熱情の醒むるを侯ず能はざる可し盖し近時文明の一部分に就いて視れば其効力酒のよく人を〓はしむるものあるが如し酒の發明以前は世間に酒狂の沙汰もなくして之を檢束する法も無用なりしならんと雖も既に酒あり又之を飮むものありて爰に酒狂を生ずれば亦随て之を檢束せざる可からず今日血氣の論客が文明の芳醇に熟〓し眼華井に落ちて傍若無人の言語を放ち世間に對して無遠慮にして政府に向うても無作法なるが如きは即ち一種の〓狂にして一國公私の治安の爲めには之を檢束する法も亦甚だ大切もるものと云う可し

我政府は明治八年に始めて新聞條例を發布し此條例に照らして新聞記者の筆鋒を檢束せられたり盖し文明熟〓の劉伶をして興に乗して詭激の〓語を吐かしめざる意ならんと雖も其發布の時莭の當否は姑く閣き苟も爰に言論檢束の端を聞きたるからには世上の論者も亦其覺悟をなして或は奇妙に論鋒を鋭くし或は法網の〓隙を窺い或は〓刺の意を寓し又時としては陰險の語氣を含むこともなきに非ず孰れも好奇の人情にして誠に驚くに足らずと雖も世人は其言論に險束あるの故を以て論者の詭論を聞き〓に之を嫌厭せざるもみならず或は窃に之を〓味する情なきに非ず乃ち詭論の効驗ある所以なれば政府は何時迄も力を〓して之を檢束せざる可からず昨年四月改正新聞條例第十四條に新聞紙に記載したる事項治安を妨害し又は風俗を攪乱する者と〓むるごときは内務卿は其發行を禁止若しくは停止することを得とあるも又新に險束の一項にして一旦言論險束の端を聞きたる以上は條例中に此等の箇條を〓たるも決して怪しむに足らず我輩と雖も亦一概に之を非難するものに非ざるなり       (以下次号)