「支那貿易を擴張すること甚た緊要なり」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「支那貿易を擴張すること甚た緊要なり」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

支那貿易を擴張すること甚た緊要なり

支那は世界の大國にして其土地の廣く人民の衆多なる古今万國これに比類すべき者極めて少なし殊に我日本とは僅かに一葦帶水を隔つるのみにして蒸氣使役の今日に在ては往來交通亦甚だ便利なり社會上に、政治上に又商業上に、日支両國の關係の洪大なるは盖し明々白々の事實なるべし支那にて執政大臣の更迭あれば其影響必ず日本に及び、支那にて陸海の兵備を擴張すれば其影響必ず日本に及び、支那にて饑饉又は豊作あれば其影響必ず日本に及び、支那にて生糸の豊作又は不作あれば其影響必ず日本に及び、支那にて砂糖の豊作又は不作あれば其影響必ず日本に及び、支那に〓〓〓〓〓〓あれば其影響必ず日本に及び、支那にて銕道〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓響必ず日本に及ぶが如く支那國民の〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓民に及ぼさざる者なし而して〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓其區域頗る狹隘に〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓日に在ては〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓の〓係漸く其面目を改め影響の襲來するも迅く、及ぶ所の區域も廣く偶ま他の一擧動を見て對岸の火炎視する者あれば忽ちに一身一國の禍を招き〓きの油断を後悔するの事例甚た多く両國人事一切の關係日に益緊急を加ふるの勢を成したり今日以後此勢の進歩する速力は必ず又今日以前のものに幾倍するの實あるべく我日本人が支那を知るの必要なるは東京横濱の人にして神戸大坂を知るの必要にも譲らざるものあらん

然るに我日本人が支那の事物を度外視するの甚しき社會上に、政治上に、又商業上に、今の支那帝國の實情を明かにして以て我家國に益せんとするの熱心甚た薄く坐して己れを知るを要す徃て彼れを知るを要せずと云はん計りの顏色を爲す者多きは我輩の悦ばざる所なり偶ま支那の事情に志さす者と云へば左傳史記の如き二千年前の古書類を諳誦して我れ能く支那を知れりと爲す者滔々皆然らざるはなし甚たしい哉我日本人の迂に陋なる耳目の及ぶ所蓋し扶桑洲外に出ることを好まざるならん

試に我日本の外國貿易表を見るべし輸出入品〓總額一ケ年六千六百万圓此内支那との貿易に關するもの輸出五百三十万圓輸入六百三十万圓合計千百六万万圓にして我外國全貿易の凡そ五分の一は支那のために成立するものたるを知るべきなり即ち英國、米國、佛國を除くの外は我外國貿易の關係は目下支那の右に出るものなし殊に我國産て彼れに輸入消費するの点に於ては英國と雖とも尚ほ一歩を支那に讓るの實あるに於てをや支那貿易の大切なる固より我輩の多辧を要せざるなり然るに我日本商人は日本産物を賣り支那産物を買ひ此大切なる貿易を營まんがために果して幾人の支那に徃く者あるや上海の一港を除くの外は四百餘州中其〓影だも見ずと云ふも敢て其實を失はざるかの惑なきにあらず殊に此一港の在留日本人數百名の中其過半は卑賤の婦女子にして人の婢妾と爲りて生計を營む者多しと云へり果して然らば我日本の髭髯男兒は両隣の支那帝國に徃て我日本國民を代表し我貿易を助成するの重任を取て一にこれを〓〓の婦女子に委し恬として〓ることを知らざる者と云ふべきなり豈に亦木甚たしからずや日本に輸入する砂糖の價額一ケ年四百五十万圓此内四百四十万圓は支那より來るものにして支那の砂糖の本塲は台灣島なり然るに該島の開港塲、台灣府なり又打〓なり日本砂糖商人の出店あるを聞かず日本領事の在勤するを聞かず斯る有樣にして爭かで毎年甘〓の豊凶を知らん地元相塲の高低を知らん、供給の多寡價格の高低の如き端座して以て他人の成を〓たのみ又日本より支那に輸出する産物は一品にして數百万の價額〓〓〓〓〓〓品なしと雖とも〓〓〓〓が多數なるがために價額の〓〓は〓りて五百万圓に〓〓〓すること〓〓〓〓なるなり〓〓品中〓〓昆布、鮑、〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓適す〓〓〓〓〓〓〓き〓出〓〓の大〓〓〓〓〓〓〓〓り然るに日本商人中偶々此〓の〓〓〓〓〓出することを〓たる者あるも僅かに上海にまで〓送するに止まりて上海以外は何れの處に向て飛散するか〓に其行く處を知る者なし哀れと云ふも實に愚かなりと云ふべきなり揚子江は支那の内地に通する大道にして其〓〓江〓に〓するの處江蘇、安徽江西、湖北、〓〓等の地方の如きは支那軍一等の富庶の地にして貿易の〓塲と〓〓すべき〓〓〓〓〓なり揚子江〓て西に溯りて先つ〓江の貿易塲〓〓〓〓〓過ぎて雜商あり九江あり漢口あり更に溯て又〓品あり中〓〓き漢口の如きは人口六十万の太〓〓、揚子江畔第一流の中心市塲にして最も緊要の塲所たるなり日本海産物の如きも〓なに此地に來りて販路を求めんには其成果の大なるべき毫も疑を容る可らず然るに今日に至るまで漢口市内に日本商人の開店するものあるを聞かず又日本領事の在留することをも聞かざるは我輩が常に全國人民のために〓〓して〓の〓むざる所なり獨台灣、漢口のみならず〓〓、〓〓〓門又〓〓〓等の諸府の如き一も日本商人が貿易を營むの地に適せざるはなきに未だ嘗て其沙汰を聞かざるは何ぞや〓〓〓日本人の怠惰なり油斷なりと云はざるを得ず文明の〓界は人の怠惰油断を許さず速かに其過ちを悔ひて改めて憚ることなからずんは他日臍を噬まんとするも得べからざるべし