「支那談判に付き文明諸國人は必ず我意見を賛成す可し」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「支那談判に付き文明諸國人は必ず我意見を賛成す可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

支那談判に付き文明諸國人は必ず我意見を賛成す可し

朝鮮の事變に付き支那へ問罪の事は今更其當否をを論するにも及ばず去年の十二月六日朝鮮の京城に於て支那の兵が日本の兵に向て暴發し又隨て日本の人民を殺傷したるが故に如何なる趣意にて斯る不法を働きたるやと其罪を問ひ其賠償を求ることなれば理由の明白なる世界中風癲白痴に非ざるより以上の者は我日本の問罪を無理と云ふものはなかる可し又この賠償要求の序に支那兵をして朝鮮の地を去らしむるの掛合ひもある可きは我輩の信して疑はざる所なり如何となれば支那兵は朝鮮事變の主動者なるが故に今後事變の再發を預防するには其原因を除くこと大切なればなり是れ亦甚た〓易き事例にして三歳の童子にしても之を聞けば成る程とて合點することならん然るに〓問或は説を作す者あり云く支那人とて他に負るを惡むの情は普通の人類に同しかる可きに今其隣國の日本より問罪の掛合を受けて之に閉口するは殘念ならん况して己が属邦視する朝鮮の地方より兵を引揚ぐるが如きは日本に促かされて運動するの〓なれば最も不愉快に思ふことならん尚その上にも支那は大國にして歐米諸國共に支那の商賣を大切に思ひ、其商賣が大切なる故に其國も亦自から大切と爲り、何となく支那に氣負するの情もある可し殊に英國の如きは最も支那に厚き權主なれば日本より支那へ問罪などは餘り快よしとも思はずして支那兵引揚の事に就ても日本の説を賛成することなかる可し云々とて心配する者なきに非ず此説は一寸尤もの樣に聞えれとも世界各國貿易の事情を知らざるものゝ皮相論たるに過ぎす本來日本を始めとして米國にても英國にても朝鮮に條約を結びたるは修好通商を名つくと雖とも修好は條約の主眼に非ず畢竟するに今の交通至便の世に在て各國物産の有無相易へ、過不足相辨するは双方共に利益なるが故に此利益を空うせざらんとするには双方の政府相互に通商の條約なかる可らず通商の條約を結ばんとするには其人民と人民との間にも親睦の交際なかる可らざるが故に修好の事も生することなり故に世界各國の條約は唯貿易商賣のためにするのみにして修好とは通商に要用なる丈けの儀式に止まり左まで深き意味なきものと知る可し左れば今朝鮮に貿易の條約を結びたる日本米國英國獨逸等に於て其條約の目的に從ひ朝鮮の國民と貿易商賣の事を行はんとして朝鮮國か如何なれば最も便利なる可きやと尋るに多辨を費すに及ばず第一に其國の人民が文明世界の有樣を了解して諸外國人を友視し文明の文物を國に容れて改進を謀る事と第二には國に變乱の沙汰少なくして其朝野の人心一致調和する事ならん斯の如くして朝鮮國の人文も次第に開けて隨て其殖産の道も次第に進み始めて東洋一方の貿易國と爲り始めて締盟諸國の目的も達す可きなり然るに今其隣國の支那なるものが横合ひより手を出して其内治に干渉し朝に夕に朝鮮人に教るに固陋守舊主義を以てして自大の精神を養成し一歩も改進の針路に向はしめざるのみか偶ま其朝野に文明改進の徒あれば之を蛇蝎視して其運動を妨げ喬木より呼び卸して幽谷に移らしめんことを是れ謀るのみ、國民何を以て文明世界の有樣を了解す可きや何を以て開化の道に進む可きや凡そ事を學ぶ者は之を學び得て其先生にこそ似る可きなれば朝鮮國は支那を學んで第二の支那國たる可きのみ文明開化は思ひも寄らぬ事共なり加之在京城の支那兵は常に國乱の根本にして此兵の在らん限りは朝鮮國に事大黨の盡ることある可らず、事大黨のあらん限りは獨立黨の消滅することある可らず、事大獨立の兩主義は支那兵と共に存在して無窮なる可きは我輩の明知する所、又世界各國人の合點する所にして在京城の支那兵營は朝鮮變乱の製造所と云ふも敢て誣言には非ざる可し

以上所記は餘り入組たることにも非ず支那人が朝鮮の内治に干渉して剰さへ兵隊など京城に屯在せしめては既に固陋なる朝鮮人に固陋の上塗を掛け、恰も既に酒に醉へる者に阿片烟を勸るが如き有樣にして迚も文明改進の成果を望む可らず唯時々變乱の沙汰を聞く可きのみとのことなれば斯く睹易き道理にして文明國人の解せざることあらんや例へば支那に厚しと云ふ英人にても既に朝鮮と貿易の條約を結て條約の目的を達せんとするに態と其國人の不開化を悦び間接にも直接にも其國の進て貿易國たるの道を妨るの理はなかる可し况や其國内に時々變乱の起るを見て愉快を覺ゆるものあらんや貿易の條約を結て却て自から貿易の道を妨るが如きは文明國人の爲さゞる所なり故に今回我日本より支那に談判して其兵の引拂ひを促かすは西洋諸國人が貿易を重んずるの精神に訴へても日本政府の意見を賛成す可きは更に疑を容れざる所なり