「ご發輦近きに在り」

last updated: 2019-09-08

このページについて

時事新報に掲載された「ご發輦近きに在り」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

ご發輦近きに在り

天皇陛下豊前國行事村近傍に於て廣島熊本兩鎭臺諸兵號令實地大演習御觀閲として行幸御出されたるは去る十一月廿五日の事なりしが尋て御発輦日限は本月十日に決定せられ大山陸軍卿は去る四日、山形内務卿は去る六日孰れも御先禦として演習場に出禦したり尚來る十日御觀閲の択には皇族貴顯群臣百僚の陪從供奉せらる可きは勿論、兼ねて行幸護衞艦と定められたる比叡、筑紫、日進、孟春、第二丁卯の五艦も首尾相謹んで陪從し〓〓堂々、威儀堂々、海上〓然に馬〓に者御、輒ち大演習場たる行事村近傍に行幸せらるゝことならん所に聞く今度大演習の御觀閲は程遠くより御内定ありたることにして一隻不意に仰出されたることに非ずと蓋し〓上春秋に富の鋭意治を圖りて爰數年以來西南に來牝に〓に行幸當時の發輦あり今又〓に居て乱を寫しず目下〓〓類〓し新兵事の〓〓にす可らざるを敷慮せられて〓〓から鎭臺兵の大演習を閲覽せらるゝ、此風を聞くもの誰れか威奮興起せざらん我輩臣子の衷情窃かに昭代の盛事を聞て感涙の轉た縱横たるを覺ふるなり

又右行幸の一事は我陸海軍の武風を振起し我臣民の志氣を作興するのみならず威は偶然にも我國威を海外に示すの一端とも爲る可しと思はるゝ其次第は他の儀に非ず我國に於ては昨年十二月の朝鮮事變に就き支那政府に向て談判する所あるが爲め是に參議兼宮内卿伊藤博文伯を以て遣清使特命全權大使と爲し其一行は既に北京に入り尋て天津に引き返し北京政府の談判全權大臣たる李鴻章呉太徴に相會して本月三日より談緒を開き今正に其談判最中なるが如し然りと雖とも彼の朝鮮事變に就き日清双方の曲直は喩ば婦人女子の美醜の如く世界自から定評あり特に支那の李大臣は平和一偏を以て外交主義と爲す人なり伊藤大使も亦平和主義なりとは人の知る所なれば我要求する所も充分に滿足され早曉日清の和議整ひ伊藤大使は平和と榮譽を〓(手偏に環の旁)き得て夢穩に天津を發するに至らんとは我輩日本國民の〓(彳(ぎょうにんべん)に遍の旁)ねし企望する所にして今日とも云はず明日とも云はず談判成れりとの天津電報に據するなる可しとは思へとも或は談判の都合次第にて日又一日を遷延し今後尚數日を費す樣の事あるときに當り我が天皇陛下に於て偶然にも福岡縣下に行幸せられ鎭臺兵大演習御観閲ありとの報道世界萬國に響くと同時に支那の北部にも通達することあらんには之を聞くもの我天皇陛下の赦聖文武にして時に及んで六師を習練し精勤勞働を以て下を率ゆるの美風に對して煉然として感動せざるを得さるべし但し此度の行幸は程遠くより御内定ありたることにして一朝不意に仰出されたることに非ざれば固より其然るを図て然るものに非ざれとも其御發輦の日限の偶然にも今日に際したるを以て或は遙に我國威を海外に示すの一端とも爲らんかと察せらるゝなり我輩草莽に在て窃かに盛事を聞き今度行幸の一事の大に内外に感動する所あらんことを信して獻斧の微誡、一言を今日に披露するものなり

呉太徴 (原文サンズイに徴の旁)