「騎兵を養成すべし」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「騎兵を養成すべし」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

騎兵を養成すべし

我日本の陸軍常備兵は一昨明治十六年の調査に據るに左表の如し

  兵種   人員

   歩兵   三三、一八五

   騎兵      四九〇

   砲兵    二、八八三

   工兵    一、二七一

   輜重兵     五九六

  合計    三八、四二五

此中に騎兵は唯近衞兵に一中隊東京鎮臺に一大隊あるのみにして其人員を合計するも僅に

四百九十名なり試に之れを同年英佛露三國の常備兵に比照すれば左表の如し

       日本      英國      佛國       露國

   歩兵   三三、一八五  六三、九七六  三〇一、六〇九  三七四、九〇二

   騎兵      四九〇  一一、一九一   六八、七三五   四四、二九〇

   砲兵    二、八八三  一五、八九七   六八、七六二   六二、九四八

   工兵    一、二七一   三、八二一   一一、〇三九   一九、六九八

   輜重兵     五九六           一一、八八九

   憲兵等                   五九、六〇八

    合計  三八、四二五  九四、八八五  五一八、六四二  五〇一、八三八

英佛露の三國共に其兵員の多く其兵備の盛なるは遠く我の及ばざる所なり今こゝに此照す

るは唯彼我騎兵の全兵員に對する割合を覓めんがためのみ我國の騎兵四百九十人は全兵員

三萬八千四百二十五人の百分の一強にして英國の騎兵は其全兵員の百分の十二弱佛國は百

分の十三強露國は百分の九強なり我は百分の一にして彼は百分の九乃至十三なり此の如く

我騎兵の特に擴張せざるは其意盖し内國の地勢山脈縦横に連り到る處に險阪あり丘陵あり

て騎兵を進退するの地なしとの謂なるか或は外寇來襲するも海防を嚴にすれば騎兵の備を

要せずとの謂ならん誠に然り日本國内には差當り騎兵の必要を感する事情なし然れども日

本國外には隨分之を要するの時なしとも云ふべからず仮りに一例を云へは今回の日支談判

こそ幸にして無事平穩に終局したれとも今の時節には何時何樣の事よりして再び支那と談

判することとなるやも知るべからず日支の談判は何回ありても毎時毎回必ず平穩に終局す

るものなりとの保障なき限りは〓年一日彼の一望千里〓滿たる中原の眞中に事なきを期す

べからざるべし此時に當りて若し騎兵なくんば何を以て四百餘州を進退往來することを得

べけんや騎兵の養成决して忽せにすべからざるなり

露國に於ては騎兵四萬四千の外に尚ほ〓サック兵なるものあり往古より其能く馬に騎り軍

陣の間に出没して勇猛の事績あるは史に徴して明なりナポレオン帝〓〓の雄を以てすを尚

ほコサツク兵に窘めらるゝこと此の如く甚し其兵馬に敏捷なる推して知るべきなりコサツ

ク兵は皆妻子を帶び田園を有して平時に在ては〓〓するものあり牧蓄するものあり〓〓或

は〓〓するものありて各生計を營み其間に朝夕軍事の調〓を勤め且つ常に兵噐彈藥を準備

し〓るが故に戰時若くは事變に際し一朝召集せらるゝに當り十日を期して隊伍〓〓命に〓

するを得べし方今〓サックハトン河畔に住するものあみにて人口四十四萬あり千八百七十

五年四月二十九日の勅令に據ればドン、コサックは男子年齢十五歳より六十歳に至る迄總

て兵役に服すべきものにして代人代料を以て免除することを許さず其常備軍は騎兵五十四

隊に編制して一隊の人員千零四十四名合計五萬六千三百七十六名なり尚ほドン河畔の外に

黒海濱〓〓〓シユス山麓等に住するものありて悉皆之を合計すれば人口八十七萬五千にし

て内兵役に服する者は十二萬九千人あり故にコサツクは其人口七に付て兵役に服するもの

一人の割合なり此の如く血税の負擔重き代りには地に地税無く家に家税無く又財産に課税

無し且つ大砲及び其彈藥は全く政府の支給する所にして一朝事有あり郷〓を出つれば食料

及び秣料も亦政府の給與する所なり但其身に携帯する所の小兵馬彈藥及び軍装は悉く自辨

にして殊に騎馬一頭は必ず之を飼養せざるを得ず

我國に於ては夙に北海道に屯田兵の設けあり此兵は數百年來代々武事の一方にのみ心身を

鍛錬したる偏〓の士族を以て編成したるものなれば其豪勇なることは露國のコサック兵に

優ることあるも劣ることあるべからず本年二月又更に陸軍省より甲第六〓を以て各〓〓〓

族の輩北海道移住志願の者は本年より徃き五箇年間に於て徴募し屯田兵に編成氣〓志願者

取調名簿を〓〓〓當省へ可差出との〓と府縣に達せり然るに此〓〓た〓に據れば爾来四月

中旬までに各府縣より申し〓〓〓志願者は合計二千餘人に及べりと〓以て全國に屯田を希

望する者の多きを知るべきなり士族は渾身〓〓〓〓〓立ち刀持つ手は算盤を執るに〓た今

日〓〓尚ほ〓〓〓て活路に窮するもの甚た多し此輩をして北海道に〓し得意の兵役に就か

しめんには〓を〓〓を警備し且つ〓〓を開拓し無用の徒は變して有用の〓となり眞に一擧

十全の策なるべし傳へ聞く北海道には多く良馬を産し體格は稍々小なれとも〓性は頗る慓

悍にして能く〓〓に堪ゆと其軍陣の用に適すること知るべきのみ今新に屯田兵をして各必

ず一騎の軍馬を飼養せしむるの〓を〓け平素其騎術を演習して東洋〓に一〓のコサック兵

を養成し〓んには當今東洋多事の日に當り何時か一度は必ず大に其用を爲すことあらん騎

兵養成の簡便法試みて可なり