「日本商人は金銀貨の價を知る事肝要なり」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「日本商人は金銀貨の價を知る事肝要なり」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

日本商人は金銀貨の價を知る事肝要なり

明治十八年十一月二十八日第三十六號第三十七號第三十八號は布告と以て米商會所條例株式取引所條例を改正し其税則と制定したるに付ては米商仲買人の税額、約定代金高千分の五なりしものが千分の二となりて半異常を減じ、株式及び公債證書に付き千分の一なりしものが公債は萬分の三、株式は萬分の六となり是も平均して半以上の減税〓り抑も從前は税則は明治十五年十二月の制定〓して當時俄に増税となりたるは我輩それ趣意を知らずと雖も税を増して國庫の歳入を助るの目的を然らざれば世に相塲あるものありて之に狂奔〓るい宜〓からずとて半ば經濟、半ば道徳の主義に基き重税以て之を禁止する目的〓何れよ〓此二様の外ならざりしことならん然るに活世界の人事は徃々人の意想外を出るもの多く十五年増税の規則一たび定まりしより所の賣買俄に減じ税金の収納甚だ少なくして國庫は恰も歳入の一目を失いたるものの如し左れども政府の目的は歳入以前に在らずして唯相塲投機なるものの性質を惡んで之を禁止せんとするに在りと云うも其實に此重税を以て禁止の〓約に達するに足らず所謂袂相塲の方便を用いれば會所に依頼するに及ばず殊に横濱の銀貨賣買の如きに靑天白日に大道に極めて騒々しくて〓〓て秘密なる取引と行わざるものにして禁止の實の行われ〓る〓〓か斯つ秘密の塲所に出没する商人の目から商人中の下等なるが故に銀貨の賣買を下等商人の手に渡したるものを異ならず左れば十五年十二月改正の税則は歳入を増す目的も投機を禁ずる目的も両極ともに之を達するを得ざるものにして我輩に於いても徃々これに論及したる〓とありしが政府も〓三〓年の實〓を經て前の法律の不完全なるを悟り今回の改正に至りし〓とならん斯くなる上は彼の袂相塲大道賣買の醜態を拂うのみならず税の割合を減じて其れ収納の正味を増し國庫歳入の一助たることある可し我輩の大に賛成して竊に悦ぶ所のものなり

然るに同日三十九號の布告を以て東京大坂横濱神戸各株式取引所に於いて金銀貨幣取引は明治十九年一月一日より禁止すとなり是れは同年同月同日より紙幣交換の事も始まり金銀貨賣買の要用も〓〓處へ之を賣買しては或は其賣買の〓〓無實の相塲を生ずる〓もあらんなどの趣意にて禁止したる事ならんなれども公然たる取引所の賣買は兎に角も我輩の所見を以て〓れば今の日本商人社會に金銀貨幣の賣買は甚だ要用の事なるが故に取引所の外に於いては兩替屋又は仲買の手を以て活溌に取扱いて然る可〓事と信ずるなり十九年一月一日より〓銀貨の一圓も紙幣の取扱の便利なるがために少〓く價の上る〓とあれば格別、先ず以て賣買の要なしと雖も金銀貨幣の關係は唯紙幣に對するのみに止まらず金貨と銀貨との關係ありて然かもこの關係は單に日本國中に限らず外國貿易の盛〓る今日に於いて〓日本の金銀貨と外國の金銀貨と其釣合を視察〓て常に毛髪の差違をも等閑に附すべからず例えば目下日本にて金銀百圓は銀百十八圓に當るとして此百に付き十八の差は正しく世界中の相塲に比較して至當なるもの〓、數月前又數月前より外國の市塲に於いて金銀の間に云々の變を生きたる其變は既に日本金銀貨の價に影響を及ぼしたる〓、これを詳にせざるべからず又貿易輸出入の模様其外の原因に由りて外國爲替の變化も其實は金銀貨の價の變化とも云う可きものなど〓其價は月に日に變じて一日中に幾度の髙下を現わす常なるが故に凡そ我商人として金銀貨を所有する者は自家に商賣の都合に從い外國市塲に状況を察〓時と〓くは銀を賣て金を買い、金を賣て銀を買い、又時を〓ては何月の後に請取り又拂出す可き金銀貨を何月の前に約定賣買する要もあるべし商人の最も意を注ぎ眼を配る可き所にして若しも此邊の注意薄くして漠然たるときは外國の貿易〓意外の不利を被る〓とあるべきや疑を容るばからずと雖も全國無數の商人等は毎人に外國の新聞紙を讀むにもあらず又金銀價格の電報を請取る可きにもあらず何れにも横濱神戸等の貿易塲を中心と仰き此中心の相塲は頴敏の上にも頴敏を加え正しく外國の市塲と相對して恰も天秤の平衡を失わざること肝要なるべし故に今回は法律にて株式取引所にては金銀貨の賣買を禁止せらるゝも東京大坂横濱神戸等にて諸商人は決して其相塲を漠然の間に〓遇すべからず殊に近來は歐米諸國にて金と銀と價格の變動は甚だしきものにして時として乱髙下さえある其最中に獨り我日本〓金銀貨の賣買なき國なりとて世界中も同様ならんと思い金貨百圓は銀貨百十八圓に當り五年も十年も動かざるものなりと盲信なるが如〓なりては外國商人より幸なれ日本人の相塲外に午睡なる其間に或は銀を授けて金を取り金を賣て銀を掠る奇變を運らすべきや疑を容れず我輩の最も恐るゝ所のものな〓ば開港開市の諸商人は取引所に賣買を禁止せられたるこそ是非なき次第なれども金銀貨價格の事は商人の本文として頴敏に之を知りて又國中に之を知らしむる方便を求めざる可からざるなり