「支那人の擧動」

last updated: 2019-09-08

このページについて

時事新報に掲載された「支那人の擧動」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

支那人の擧動

支那の運命は往く往く遂に歐洲文明の風に化せらるゝに相違もなく随て今の帝國は到底今のまゝ永續すべきものになるまでとは世界の人の共に疑う所にして我輩も亦其中の一人〓るなり併しながら永遠の運命は目下の事に關係少なく目下の事は矢張り目下の事情に支配されるゝものなるがゆえに永遠未來の事を想像して目下の事を等閑視し目下に手當を怠るが如には智者の事にならざるなり今より五年前の支那はいざ知らず又今より五年後の支那も亦いざ知らずとして目下支那の實勢を察するに次第に其眠りを覺まし次第に其活〓力を増し次第に其自身の心を厚くし四隣を〓〓して大膽に其運動を始めんとする形跡なるは誠に奇〓千萬の事なりと云わざるを得ず

去年以來支那佛蘭西兩國間の爭論攻防正に烈しき時に當り世人は皆此爭論の支那帝國滅亡の機を早くする手始めなからん〓とを恐れたり〓然るに思いしよりは支那も〓がらず思い〓よりは佛蘭西も強〓らず戰うが如く又戰わざるが如く遂に勝負なしに双方交〓したるが如く姿〓終りたり此一戰佛國の爲めに甚だ不面目不利益なるが如くに思われ外人は佛人を罵詈〓佛人は當局者の不始末を憤り遂に内閣の更迭とも促したる程の事を〓ども氣を鎮めて事の次第を察すれば此一戰必ずしも佛人の爲めに大不面目不利益の事にあらず何となれば佛人は此一戰にて支那十八省を席巻する事をよそ爲〓得ざりしなれども此一戰にて佛人が是迄〓に手を着けて未だ大に勢力を得ず支那政府よりも公然我属邦なりと斷言せられてこれを爭う工風〓うりし彼の安南國を世間晴れての佛蘭西共和國の属邦に改めたるに天晴れの手際なりと云わざるを得ず安南國土の廣き殆んど我日本國と伯仲するのみならず其境を支那帝國に接する地形上の便利は朝鮮を除く外亞細亞極東に又と有るべからざる形勝の一大王國なり此一大王國を買うが爲めに數千萬の金を〓ちたりとて戰略上や商略上に毫も佛人の面目利益を損する所なきなり左れ〓にや佛人も一旦は時に當局者の失策を鳴らして内閣の更迭とも命じざれども後の新當局者をして折角落手したる安南國を棄てざらんとするにもあらず依然として東洋侵略策を〓續せしめて自から喜び居る有様を見れば佛人は決して世人の想像する如く情の爲めに利を忘るゝ人にあらざることを知るに足るべし斯の如く安南事件に關し佛清〓藤の落着方は決して佛人の不面目に歸せずといえども從來世人が支那を輕蔑する〓との甚だしき佛人の爲めに一嚇せられなば一も二もなく國郡を明渡すならんと思いの外戰の勝敗は兎も角も敢て俄かに降を軍門に乞うが如き卑怯〓者にあらずとの覺悟を示したるを見て漸く恭敬の意を表すると同時に支那人も大に自から恃む所を知り又大に自から悟る所ありて漸く意を兵備擴張、中央集權、文明輸入、進取示威の方向に傾け新に海軍省を設け、軍艦を造り、電線を各地に通じ、軍兵を境上に屯駐し、朝鮮の國事に干渉し、國債を起し、鉄道を布設せんとする等皆近來の著るしき事蹟にして世人の共に見る所なり若し支那全國の實力を實用し支那人の自信の決意を變ぜそして此儘に進行することもあらん〓は數年ならずして支那帝國の面目を一新すべきは勿論亞細亞極東の國交際上に大變化を起すべ〓やも知るべからず殊に我輩の最も關心する一事は今回支那政府がジャーヂンマゼソン商會の手を經て英京倫敦にて新に五千萬ポンド(二億五千萬圓)の公債を起したりとの風説ある事是れなり此説の眞〓は我輩これを今日に明言する〓と能わずといえども風説にては此二億五千萬圓は兵備擴張鉄道布設等の用に供するものなりと云うがゆえに若し此説を〓て眞なら〓めんには實に由々しき支那政府の英斷なりと云わざるを得ず假りに二億五千萬圓の内一億萬圓を〓ぎて海軍を擴張するとせんか大小軍艦百艘乃至百五十艘を得るは容易なり又其残額一億五千萬圓を鉄道の資金に供せんと〓るう三四千英里に鉄道を布設するは容易なり斯く容易に鉄道を布き容易に軍艦を造り内國の兵事商事の整頓繁昌と共に二三十艘の軍艦に〓龍旗を翻えして常に日本海を周航し日本港に碇泊し沿岸の測量等に無事の日を消するなどに時節到來することなしとも云うべからず斯る時節に至り我々日本人は隣国の爲めに目出度し目出度しと祝詞を呈するのみにても濟むまじく随分心配なる事ならん兎に角に我々日本人も早く時に及んで少しく隣国の事に眼を配るも亦無要の事にならざるべき〓