「相塲所の改革は君子の改革たらんことを祈る」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「相塲所の改革は君子の改革たらんことを祈る」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

相塲所の改革は君子の改革たらんことを祈る

今度東京に共同相塲會所が將さに起らんとするに付き從前の東京株式取引所〓に米商會所の處分は如何す可きやとは昨今商人社會の一問題にして我輩は都て我日本國の相塲所を改良するに異議なき者なれば今度目論見の共同相塲所も此改良の目的を達すれば〓喜に堪えざる次第なれども徒に舊株主の資産を空うせしむるが如きは我輩の取らざる所なり云々の旨は前號の紙上に其大意を記したり今その諸に續て尚お鄙見を述べんに從前の相塲所即ち株式取引所〓に米商會所は其規制も完全ならず之に關係する役員又商人等も其人品甚だ高からずして塲所の弊害少なからず無智無識破廉恥の素町人輩が時に或は見るに忍びざるほどの醜を働くこともありとは誰れもなき事實なるが故に之を改良するは今日の急用なりと雖もいよいよ實際の着手に至りて如何す可きや西洋諸國の相塲所に倣い其規則の原文を其まゝに〓釋し又は其大意を取捨して我日本流に完全なる新規則を作るが如きは最も容易なれども其規則を取扱う塲所の役員は矢張り日本人にして從來今の塲所に居る者も新設の塲所に現われ來る可き者も大抵同様の人物ならざるを得ず如何とすれば從前の役員とて全くの凡庸に非ず先づ官邊に在れば官吏か又は御用達商人くらいの仕事は出來る人物なるが故に新來の役員に人物を得たりと云うも人の耳目を驚かすほどの相違もある可らざればなり又今度は三四百名の仲買を撰んで其人品も其資産も大丈夫なる者に改るとあれども從前の仲買悉皆小人にして今度の仲買悉皆君子なる可きにもあらず極々好く出來たる處にて今度は規則改まりて身元金の高も少なからざるが故に微力も者は近づく〓らず何れにも相應の財産を所有し又借用する信用あるものなれば從前に比較して〓々品格を高くするならんと冀望するに過ぎず三百の多き仲買中には君子もあれば小人もある可し或は從前の仲買等も少しく身元さえあれば何れの道より〓して新塲所にに入る者ある可きは事の勢に於て期する所ならん左れば今度共同相塲會所の新設に付き大に面目を改む可きものは第一完全と稱する規則と第二壮大なる新築とにして塲所の事務を取扱う人物は大に改まるを期す可らず唯新規則を實〓すれば塲所の品格は次第に〓進し下等商人の出入りは〓〓に淋しくなりて次第に相塲所の光を放つ塲合に〓る可しとの事〓にもあらざれば傍觀者の眼を以て見れば〓〓の相塲所を如何様にか改革して〓に其目的を達する〓〓もあるべしと思へども世間に専ら共同相塲會所の〓〓論を聞くは何か別な因のあることならん或は舊〓〓〓の宿〓は朽たる家の如く手を付けられぬほどに〓至りたりと云うは、若しも事實は〓て然るときは新〓も甚だ尤なる次第にして我輩も賛成なれども〓くの朽たる家を〓つ方法は如何す可きや從前の株式取引所〓に米商會所は其創立のとき政府より格別の許可を〓て〓を營み此二ケ所の外に東京中同様の營業を許さずとの法は取りも直さず塲所の特典にして即ち其株にも特別に信用ある由〓なり但し營業は五ケ年の期限なるが故に其期限の終るを待て之を解わしめ他に起るものへ特典を與うれば法律の約束に於て中分ある可らず即米商會所は明治二十年八月株式取引所は同二十一年十月を期して消滅せしむること甚はだ易しと雖ども人間社會に行わるゝものは唯法律のみに非ず別に慣行なるものありて世人の之に依頼する心は却て法律を信ずるよりも厚きを常とす例えば農民が官地を拜借し漁民が水面を拜借するが如き大抵この拜借の年限はあれども期限の終にいたりて繼續拜借の義を出願すれば願の通り聞届けらるゝ慣行なるが故に人民は期限の終に返上する法律をば心配することなく繼續願の慣行に依頼して農漁に安んずる事例は日本國中に珍しからず故に今の東京の株式取引所も米商會所も其營業法律上には五ヶ年の期限と云うと雖ども慣行は則ち然らず繼續又繼續にて五年又五年際限なきものと信じて營業するは謂れなきにあらず即ち不言の間に政府を信じたるものと云う可し例えば其株券の價にても積金の有無多少より計算すれば原價百圓か百三四十圓ばかりのものが賣買には四五百圓を價するも配當金の豊なるが爲めなりとのみ云う可らず畢竟は其營業が今後十年も二十年も斷絶することなからんと口にこう言いざれども所謂不言の間の約束を信じて賣買の勢を生じたるものより外ならざるなり然るを今法律上の約束が云々なりとて期限終れば忽ち解散せしむるが如きには處分の穏なるものと云う可からず況んや其期限さえ尚お未だ到らざるに別に同様の相塲所を新設するは相塲所に易るに相塲所を以てするものにして官有地の拜借に喩えて言えば其地を引上げて官の用に供するには非ずして甲に取上げて又乙に貸す事情に異ならざるに於てをや尚お況んや今度新設の相塲所とて規則と建物とは完全壮麗なるも其建物の中に居て其規則を取扱う人物は矢張り日本國の士人、新令〓も舊令〓も大抵同一様の品格にして天淵の相違なかる可きに於てをや然らば則ち頓に舊を亡ぼして新を立るなど荒らき處分するよりも何とか熟談の上にて改革の手段こそ願わしけれ此邊に工風を運らすは老成人の事なる可し商人の僥倖にして暴に富み不幸にして暴に〓るは其業体に於て是非もなき次第なれども天下經濟の大主義に照らし視れば兩様共に目出度きことに非ず今相塲の宿弊を除くとの一言を以て株式取引所と米商會所とを公然一時に解散さしむる欺又は陰に其勢を示して滅亡の期近きに在りとの奥氣を放つときは兩所株券の價は忽ち下落して株主等は何十萬圓の巨額を失う不幸に陥り随て起る所ろの共同相塲會所は間接に其何十萬圓を利するの僥倖に遭うことならん誠に以て無益の惡戯と評するも可なり左なきだに投機流行の世の中、勉めて其機を少なくして人に正業を〓るは長者の當さに〓任を可き責ならずや然るを故さらに其機會の門を開いて之に投せしめ以て商人社會に大なる浮沈を作りだすが如きは長者の爲めに惜しむ可し我輩は素より從前の相塲所を悦ぶ者に非ず特に其改革を冀望して止まずと雖も唯其改革をして君子の改革ならしめ金錢の利害に至りては一點の不公平なからんことを祈り特に兩日の社説を草したるのみ