「共進會品評會の目的手段」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「共進會品評會の目的手段」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

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共進會品評會の目的手段

商品製作の伎倆を進めて與に其販賣の路を弘むべきの手段は一にして足らずと雖も就中貨物を一塲に蒐めて公衆の觀覽品評を縱まにせしむるの方案は最も効あるものと云はざる可らず西洋諸國に於て商品陳列所を設け或は博覽會共進會を開くの類は皆この目的に出るもの〓〓需要者供給者相與に利益を享け販路をして獨〓〓〓〓〓〓〓しめず遠く海外の諸邦にまで國産輸送〓〓〓〓〓〓〓〓法之に及ぶもの少しと稱して可なら〓〓〓〓〓〓〓博覽會の嚆矢とも云ふべきは明治十年の〓〓〓〓〓勸業博覽會にして是より前尚ほ斯る種類の設けありしならんなれ共此等は概ね古器物を聚めて往代の美術を今人に示さんとしたるまでの考案なれば謂ゆる好事の企てにて利用厚生の道に於ては關係極めて少きものなり然るに第一回勸業博覽會の開設以來は費用上の考を以て此會を開くもの非常に多く或は品評會と云ひ或は共進會と唱へ其他尚ほ名稱も一樣ならずして開會の規模亦大小種種の相違ありと雖も要するに其陳列の貨物は國民の衣食住に缺き難き日常品ならざるなく出品人が互に其優劣を鬪はせて隨て多少製作の伎倆を進歩せしめたるは蔽ふ可きに非ざるなり昨明治十九年中全國各所に開きたる共進會品評會の統計を調査したる人あり我輩に寄するに左の一表を以てしたれば掲けて讀者の參考に供す

開會府縣 各種回數   縱覽人員

 東京    八  一一六、三七一

 京都   一〇   五三、三九六

 大坂   一六  一一九、四六二

 神奈川   一    二、六五五

 兵庫    八   一〇、四九〇

 長崎    七   一九、八七九

 新潟    六   一二、二六九

 埼玉    三   一七、〇一九

 群馬    一    一、五二八

 千葉    七   一三、〇九九

 茨城    三   二三、五三九

 栃木    六   四三、七九六

 三重   一六   一一、一一九

 愛知    五    九、一四三

 靜岡   一五    八、三三五

 山梨    五   八六、〇六八

 滋賀    六   三二、二〇六

 岐阜    九   二一、九四九

 長野    三    七、〇八一

 宮城    一    二、三五〇

 福島   一〇   四四、九五九

 岩手    四   二一、四一五

 青森    一    六、五〇〇

 秋田    二    一四、七二七

 山形    一   一〇、八六四

 福井    二   二三、五九七

 石川   一〇   七四、〇四〇

 富山    一   一二、〇三七

 鳥取    三      七一七

 島根   一六   六〇、三六三

 岡山    六    六、八七八

 廣嶋    三   四二、九九四

 山口    五   四九、三三三

 和歌山   一     ――――

 徳島    三   五七、六三八

 愛媛    五   二四、六八七

 高知    二   一二、五六一

 福岡   一〇    九、三六六

 大分    六   七〇、四八二

 佐賀    二    一、八五〇

 熊本   二六   一六、六七五

 宮■(やまへん+「竒」)

       六   二三、四二八

 〓〓    四    六、三三九

 沖繩    一     ――――

以上の表に據れば昨年中全國各地に開きたる共進會品評會の其數は二百六十六回にして縱覽の人員一百二十餘萬人なり右の内最大の會と稱すべきは東京上野公園地に開設したる大日本水産共進會にして之より以下其小なるに至りては數郡區若くは幾町村の聯合に屬するもの多くして公衆縱覽の區域甚だ狹隘なりしならんと雖も兎も角も一百二十餘萬の公衆を招て之に其販路を廣告したるの利益は國の殖産を進むるの點に於て多少の効驗あるに相違なきなり且つ昨年の實况既に然りとすれば本年も明年も今後將來引續て斯る種類の會合いよいよ増加すること自然の勢にして其都度産業に保護奬勵を與ふるの功果堆積して遠からず見るべきの進歩を殖産社會に顯はすべきは我輩の期して待つ所なり

右の如く會の増加は多多倍倍悦ぶべき者なりと雖ども爰に鄙見を陳すれば今の共進會品評會に對しては聊か不同意なきを得ざるなり盖し會の目的の其一には貨物物産の改良を行ふを主眼とするは甚だ嘉すべき次第なれ共出品者が改良の文字を誤解して只管その物品の無類絶倫ならんことを希望し、徒に稀有珍奇を競爭して却て實用を忘却するものなきにあらず故に農産なり水産なり製造織物工藝手品其他總じて出す所の物品は果して精巧無比なるに相違なしと雖とも此れは唯出品其物が獨り精巧なるのみにして偶然にも斯る良品を〓たるを以て敢て公衆に其譽を衒ふと云ふに過ぎざる者の如し隨て内外公衆の注文委托を受け限りなく其精巧の物品を供給する能はざるは無論にして適適出品の見本通り更に一兩個の製作を依頼せらるるに於ても尚ほ當惑の姿なきに非ず是れ第一着の弊と云ふ可し次に我輩の不滿意なるは價の事なり出品者が其販路を擴張するに熱心せずして往往虚名空價を貪るが爲めに物品の價格を不廉ならしめ或は己れの伎倆經營を誇らんと欲して故さらに其出品を非賣物にするが如きは如何なる考なるや元來博覽會の目的とする所は其貨物を公衆の縱覽品評に任せて販賣の門を啓かんとするに在る者なれば何は兎もあれ其價格を相當にして需要者に注文の念を起さしむることこそ最も大切なるに出品者が之を度外に附して毫も商賣利益の實際に着目せざるは我輩の大に取らざる所なり然るに他の一方を顧みるに時としては其價格非常に廉くして人目を驚かすものあるが故に更に實際に就て尋ぬれば製造の元値にて賣る者なりと云ふもあり或は博覽會の出品なるが故に態態其値段を引下げ損失の覺悟なりと云ふもあり孰れも謂はれなき次第にして法外に安きも法外に高きも詰り實際にあるまじき價格を吹聽するは與に商賣の本旨に戻るものと稱すべきなり又今の出品者の目的を如何にと云ふに十中の九は公衆縱覽人を相手にするよりも專ら審査官の鑑定襃賞に與らんことを本願と稱し、需要賣口の廣からんよりも寧ろ品評評判の高きを以て譽とするの傾向あらざるなし人情虚榮に走るの致す所にして今日の時勢如何ともす可らざるに似たれ共實用の貨物を生じて其販路を擴張せんとするの本旨趣には大に戻る所あるを免れず注文の有無販賣の難易等には着目せずして唯絶倫無類なる一個の精巧品を作り當座の人目を眩ぜしむれば襃賞の望なきに非ざるが故に會一會に出品貨物の品質等級多少進歩の形迹なきに非ずと雖も之が爲めに販賣の路を開て世の需要を促したるの話は殆んど聞かざる所なり例へは出品人が其出品に附するに品質製造法の大要、其用法功能、卸賣小賣の直段等都て詳細の説明を以てして縱覽者の視聽を引く手段の如きも其物品を公衆に知らしめて注文を誘ふの便法なれ共何れの會塲に到り見るも其出品は單に塲中に羅列したる許りにして衆人の注目するとせざるとには聊かも關心せず唯會の終りに至り審査官の襃賞を得るを以て主願とするものの如し是れ我輩の最も不服なる所にして出品者は今後審査官の襃賞云云を目的にせず務て公衆の需要を相手にするの風を養はんこと希望に堪へざるなり

以上、品數の少き絶倫無類の貨物を撰むよりも需要販賣の廣くして容易なるべき物品を會塲に出すべき事、販賣の價格を故らに高下せしめずして實際の相塲を公衆に示し其需要を促すの工風を專一とする事、出品人は徒らに審査人の品評襃賞を主願にせずして直接に公衆縱覽人を相手にするの方案を運らすべき事、此三者は我輩が取敢へず全國各地の共進會品評會を開設せんとする官民一切の有志者に希望する所にして之と同時に本年一月閣令第一號の達を以て來る二十三年に開設すべき第三回内國勸業博覽會に對しては我輩少しく説あり乞ふ次號に於て之を述べん