「讀横濱ジャツパンメール」

last updated: 2019-09-29

このページについて

時事新報に掲載された「讀横濱ジャツパンメール」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

讀横濱ジャツパンメール

我輩が過般加奈陀太平洋線路の通したるに付き英國の勢力は東洋に一層の盛大を致す可し云云を記したる其文中に(前略)東洋諸國と西洋との交通の斯く次第に便利と爲りたるは悦ぶ可きの至りなれども又一方より考れば我門外に敵の一歩を近つけたるの思ひなきにも非ず我輩の甚だ掛念する所なり」と記したるを横濱のジャツパンメール新聞紙は之を英文に譯し

 Yet considered from another standpoint,it can scarcely fail to suggest the reflection that an enemy has come a step nearer to our gates.It is to us a subject of great uneasiness.

と記して扨こそ時事新報は英國に敵意を抱きて之を敵視するものなりとて苦苦しき筆鋒を差向けられたるに付き新報は早速これを辨じて左樣なる次第にあらざる旨を紙上に記したりしが(去年廿七日の時事新報)昨日復たメール新聞より再應の説を記し時事新報の原文は左の如しメール新聞の英譯は斯の如しと原譯兩樣の文を示して飜譯に誤りはなし外に正誤の仕樣もなけれども新報の意味が云云ならば夫れにて宜しと云ふ其語氣を見ればメール記者の心中尚ほ未だ釋然ならざるものの如くなれば此上は我輩は廣く天下の公評に附せんと思ひ態と和英二樣の文を掲げざるを得ざるの塲合に及びたり盖しメール記者は敵の字に重き意味を附し敵は兵馬戰爭の敵なりと認めて斯る間違ひに陷りたることならん元來この字の意味は甚だ廣くして怨敵〓敵など用れば惡む可き文字なれども敵手匹敵など云ふときは相手の意味にして平生の文に用るもの甚だ少なからず碁將棋の好敵手と云ひ競馬の敵と云ひ商賣敵と云ひ技藝の匹敵と云ふが如きは毫も惡意あるにあらず唯單に相手方と云ふに過ぎず今一歩を進めても油斷のならぬ相手方と解するより外に意味ある可らず左れば新報が西洋東洋の時勢を記して英の本國より東洋に達するの路を短くしたるは商賣上に兵略上に我相手方を近つけたり中中以て浮か浮か油斷す可らざるの事共なりと聊か我自國人を戒しめたるまでのことにして此文章を何樣に見るも英は我敵國にして我敵我門外に來れり我日本國は之が爲めに〓に防禦を嚴にす可しなど云ふ敵の字の意味に解するものは無かる可し我輩は决して字義に據て爭はんとする者にあらず唯願くばメール記者が今一〓過般の〓文を見て其心中釋然たることもあらば幸甚のみ

又メール新聞紙が英文新聞紙にて〓りながら日本の事を云云と時事新報の記したるは本論に餘計のことなりとの次第は明白に了解せり本論に縁なきは固より知る所なれども其〓にも記したる如く日本内國の事に付てメール記者より新報へ容〓駁論あるも大抵の所までは答辨もせずと覺悟して久しく捨置きたる所へたまたま外國の談に及び珍らしく新報が之に答辨するゆゑ其次第を記したる序事の文たるに過きず左まで妨げにも爲らざる可し左なきだも文章と申すは隨分色色に枝〓を生ずるものにして例へば先日メール新聞紙が前件英敵云云の論文中に時事新報は亞米利加心〓云云とて徹頭徹尾本論に縁なき旨を記されたるが如きも其一例なり併し是れ〓メール記者の行文筆端の餘勢なりとして我輩は深く心に〓することもなきのみ