「開墾地の鍬下年期」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「開墾地の鍬下年期」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

開墾地の鍬下年期

凡そ新事業の起るや其〓益在來の事業に比すれば多かるべしとの見〓あるが故にして若し其〓益寡き時は云うに及ばず假令へ新舊同一なるも容易に之に着手する者はなかる可し按ずるに政府が専賣特許條例を制定して發明者に専賣の權を附與するも必竟この理に基づくものにして〓年歐米諸國にては發明者に専賣の權を附與するより却て製〓工業の〓歩を支駐することありと論ずる者も少なからざれども専賣の權を附與するに非ざれば發明者に充分の刺衝を與える能わざるのみならず資本家をして〓んで發明品に其資本を投ぜしむること能わざるべしとの議論は依然與論の勢力を占むるものゝ如し而して右反對論者の論據とする所も亦多くは専賣權を其根底より〓撃したるには非ずして學術及び製〓の最早今日の如く〓歩せる時に當りては別に専賣の利を附與せざるも自ら好んで發明工風に身を委ねるものある可きに〓々たる發明工風にまで之を附與するは現行専賣特許條例の弊害なりと云うに〓過ぎず即ち論者の望む所は専賣の權を全癈するに非ずして單に其弊害を〓〓するにも在るものと知るべし

抑土地は天然物にして人口品に非ざれば土地の開墾を器械及び製造品の發明とは大に其趣を異にし政府が之を保護する點も素より同一樣なる可からず即ち専賣特許條例を其儘に持出して土地の開墾に〓用せんとするは少しく不都合なるに似たれ其土地の開墾に鍬下年期を許して所有權を與えると製〓工業の發明に専賣の權を與えるとは均しく經濟の同主義より出でたることにて充分に〓益を保護して新事業を起さしめんとの獎勵より外ならず左れば政府が専賣特許條例を制定して製〓工業の發明者を獎勵せんとするも専賣の年期短くして其〓益以て發明者を刺衝するに足らざれば條例は獎勵の形體を有するも其〓神なき者と云わざる可からず土地の開墾に鍬下年期を許すに就ても亦然り明治十七年三月發布の地祖條例を視るに其第十六條に開墾をなさんとする時は地方廰の許可を受くべし開墾地は十五年以内の鍬下年期を許可す但年期中は原地價に依り地祖を徴〓すとあり又其第十八條に鍬下年期明に至り開墾の成功に至らざるものは更に十五年以内鍬下〓年期を許可すとありて政府が地祖條例中に斯の如き箇條を加えたるは其〓神蓋し開墾の獎勵に在ることならんと思わるゝなれ其條例は果して其〓神を貫徹し得べきや否や蓋し開墾すべき土地に山林沼地あれば荒〓不毛の原野もあり殊に日本〓四面〓〓の〓國にして〓〓たる〓淺の海面も尠なからず土地の種類甚だ多くして人家を距る距離の〓〓、〓輸の便否、工事の難易等より開墾の勞費自ら一定ならざれば鍬下年期十五年以内の外に塲合によりては更に又十五年以内の繼年期を與える約束なれども抑も事業の獎勵は資本家をして安心せしむるより大切なるはなし左れば十五年又十五年と區別して期限を曖昧に附せんよりは寧ろ始めより三十年となすに若かず例えば良家の主人が多年召使いたる奴僕をして別に一身獨立の生計をなさしめんとするに當り今汝に與えるに百五十圓を以てすべし時の事〓の如何によりては更に又百五十圓を與えることもあるべしと云わば奴僕たる者の身に於て安んじて業に就くことを得べきか未來の目算確かなれざれば先ず落手したる百五十圓のみを私有と心得、曖昧に約束したる後の百五十圓は無きものと覺悟せざるを得ず獎勵の策にあらざるなり抑も政府が新開地の鍬下に充分の餘裕を與えざるは必竟租税徴〓の一點にありて土地あれば〓に課税せんとの旨に出るものなるべし我輩も亦之を思わざるに非ざれども鍬下免税は唯政府の會計に地祖を得ざる不利あるのみ深く惜むに足らず若しも〓業者が新開に由て利する所あれば以て所得税を課すべし又間接に其〓穫の利得を資本として他の業を營むこともあらば以て營業税を課す可し政府の歳入何ぞ必ずしも地祖の一項に限らんや然るに今免税年期の短きが爲め資本家をして開墾の業に斷念せしめ永年末代荒漠たる原野、〓〓たる海面を眺めて國の爲めに利す可き利を空うするが如きは智者の事にあらず本來一國の全體に利益とあれば政府内部の經濟に利する所なきも之に滿足す可き〓理なるに今や所得税營業税その他間接に課税の目〓ありとすれば何れの點より見るも躊躇す可き塲合にあらざる可し故に我輩は鍬下免税の機嫌を五六十年にせんとて其冀望の次第を陳べたることもあれども一歩を〓め海面の如き開〓以來全く不生産の地を開く者へは其安心を得せしむるが爲めに百年を期して地租を免ずるも尚妨なきを信ずる者なり