「外國人民は日本人民の親友なり」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「外國人民は日本人民の親友なり」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

外國人民は日本人民の親友なり

條約改正中止の原因に就ては其責全く我日本に在りと云う者あり事の外形のみを聞見して正面より論ずれば斯く云われても其〓答に困る事〓なきにあらずと雖も我輩の見る所を以てすれば此中止や中止の日に中止したるにあらず其原因は數月數年の前より積り積りて始めて中止の日に外形を現われたるまでにして有力なる〓因は久しく中に伏して會て消散したることなきが故に中止の其日に在て考えれば多年の談判は到底成る可からざる談を談じたりと云うも不可なきが如し此邊より公平に觀察を下したらば諸外國の政府も或は心に思い當ることある可し然りと雖も多言の世の中には唯その外面の形を見て内實の〓を問わざるものもあらん我輩は今更これに向て辨論するを好まず他の言うがまゝに一任して獨り自から自國の本分を守り以て世界の定論を待つのみ即ち改正の談判に付き滿足を得るまでは謹で現行の條約確守と覺悟を定めたるものにして〓日來の時事新報紙上にも聊か意見を陳べたれども尚お念の爲めに一言を要する其次第は他に非ず本來我輩が條約確守と立論したれども其目的は今の在日本の外國人に向て毫も敵意を懐く者に非ず數多き居留人の中には隨分面白からぬ人物もある可し時としては不正不品行の者もあらんと雖も是れは雙方同樣のことにて我國人の中にも言後〓斷なる人物は甚だ少なからず今の人間世界に免がる可からざる事相として之を差置き全體を平均したる所にて日本に在る外國人は〓して日本に對して惡意を挟む者にあらず否な人〓の厚きものにして開國以來漸く我國の事〓を明にして彼の學者上流の士人は我〓德の薄からざるを知り、我智巧の淺からざるを悟り、我風俗の淳きを欣び、我技術の高尚なるに驚き、日本を稱して東洋絶倫の一帝國と認め之を筆にし之を口にして西洋の社會に報〓し以て彼の社會に我重きを爲したる事實は我輩の常に忘れざる所なり又我内地に在て其厚〓の事實に現れたるものを擧れば其地方に如何なる不幸の者ありて偶々〓行外國人の目に觸れ金〓を惠與せられて本人は感涙にむせびたりなど云う新聞は毎度我輩の耳にする所にして又或は内地に水火の災あれば其罹災人の爲めに外國人の義捐は毎々のことなり〓くは磐梯山の天變に就ても横濱新聞紙の取次を以て外國人の惠みたる金員は甚だ少なからず我日本の人口三千七百萬の中に外國人の數は僅に七千内外にして極めて少數なるにも拘わらず其慈善の實際に見る可きもの多き〓以て彼等が我國に對する厚〓を證するに足る可し又金錢の談を離れて高尚の域に〓み外國人が日本人を教えんとする好意も〓して容易に看〓す可からざるものなり就中彼の宣教師の如きは我少年の男女に有益なる文明の學藝を教えるのみならず身に一毫も利せずして却て自から財を費し以て斯民を不文不德の苦界に救わんとする其熱心は徃々我内國人をして〓死せしむるもの多し左れば我輩は今の在日本の外國人に對して厘毫の不平なきのみか常に其好意厚〓に報いる所あらんとて怠る所なく雙方の交〓日に密にして月に〓む有樣なりと云う可し然るに不幸なるは彼我の政府が條約改正の談判に就き滿足なる成跡を得ずして中止の姿と爲り〓に吾々日本國民をして冷淡なる條約の文面のみを守らしむる今日と爲り政府の談判の調わざるが爲めに此親密なる彼我人民の交接までも影響を蒙らんとするこそ〓憾なれ其趣を喩えて云えば比隣の子女が相互に徃來して睦じく談笑〓戯する折柄雙方の家の差配人等が何か相談して其相談の調わざるが爲めに子女の附合までも冷淡ならんとするものに異ならず其責の歸する所は雙方の子女に在らずして差配人に在り、差配人の職分は比隣の附合を圓く治むるを以て専一とし政府の外交政略は彼我人民の交際をして自由ならしむるこそ其本色なれ、吾々日本人民は在日本の外國人民と共に改正談判の不調に付き聊か不平を懐くものなり就ては我輩は日本国民たるの本分を以て我國權の許す限り我榮譽の損せざる限りは我政府に勸告して談判の結了を促さんとするものなれば在留の諸外國人に於ても我輩と同樣の針路を取り各その本國の政府に向て日本國〓の眞面目を明にし談判中止の〓因を言うのみならず年來久しき〓因をも説示して其反省を促し以て雙方の人民をして其交際を全うして舊時の交〓を維持せしめんこと我輩の中心より祈る所なり外國の政府素より我れに對して惡意あるにあらず惡意なくして扨實際に臨むときは我政府に苦しむ所多きは何ぞや我輩を以てすれば唯外國の政府が我國〓の眞實を盡さざるに坐するのみと斷ずる外なし故に此眞實を明にして恰も日本國の樣を外国政府の眼に寫す者は唯在日本の外國人あるのみと信ずるが故に我輩は特に此一事を以て君等を煩わさんと欲する者なり