「窮民の末路を如何せん」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「窮民の末路を如何せん」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

窮民の末路を如何せん

社會の事物整頓〓歩するに隨い窮民の數次第に〓加するは東西各國ともに〓命を同いし何れの國に於ても人口の大半は所謂勞働者にして日々の勞働に衣食する者なり然るに人口の多きを加えると同時に器械利用の便も亦大に開けて總ての仕事に人力を要すること昔日の如くならざる事〓あるが故に勞働者の賃錢は次第に低下して之を使用する者の爲めには誠に都合よけれども被用者は益々窮せざるを得ず即ち今の世界に貧富懸隔の相を現し窮民の多きを致す由〓にして社會の大勢と云うも可なるが如くなれども此勢の儘に任せたらんには多數の窮民は到底浮ぶ瀬ある可からず彼の西洋諸國に流行する社會主義共産主義の如きは即ち此窮民輩の爲めに氣を吐くものにして〓來は其勢〓頗る盛にして著しく社會の表〓に出没して時に大に世の耳目を〓かすことなきにあらず思うに此主義の〓動果して能く貧富懸隔の勢に抵敵して終に窮民の爲めに其屈を伸すことを得べきや否や知る可からずと雖も貧富の競爭とも云う可き此現象の成行如何は今後經世家の注目を要する一大事件なる可し幸にして我國の有樣は貧富懸隔の度未だ西洋諸國の如く甚だしからず隨て窮民の數も割合に少なしと雖も〓年來人口の〓加は事實に疑う可からずして且器械利用の便も日を〓いて開くるのみならず從來日本の封建政治は恰も社會主義の政略とも名く可きものにして土地の〓併を制し貸借の私事に干渉し甚だしきは貸主に命じて其權利を〓棄せしむること勉めて富者を抑え貧人を扶くる趣意にして政府自ら社會主義を行う〓ありしを以て自ら貧富懸隔の勢を中和して甚だしきに至らしめざる事〓もありしなれども今日に至りては是等の事もなく全く社會自然の成行に任ずるが故に其勢は益す益す〓かならざるを得ず而して彼等の末路は終に如何なる可きや音もなく〓もなく窮路の〓命に安ず可きや若しくは反動の勢、一種の〓動と爲りて其成行に〓することを試む可きや否やは今後の一疑問なる可し人或は曰く日本の下等人民は性質從順なる上に其の知識の如きも西洋諸國の窮民と同日の驗にあらずして一致結合の〓動を爲すなどは思いも寄らざる所なれば斯る心配は無要なりと云うものあれども我輩の所見に於ては然らず日本の窮民は西洋諸國のものに比して幾分か事〓を異にするに相〓なかる可しと雖も窮して而して濫せざるは之を君子以外の人に望む可からず貧富懸隔の成行いよいよ急にして其勢、眼前に〓るときは多數の窮民は〓に濫せざらん事を欲するも得べからず其〓動の方法如何は兎も角も早晩競爭の有樣を現出するは止むを得ざる勢なるが如し而して更に此勢を促して急ならしむる事〓あるは外ならず目下我國には此多數の窮民の外に更に一種の窮民あり即ち世に所謂〓士なるものにして今日の處にては政治上偶然の特發症に似たれども其病根を尋ぬれば〓く封〓の餘弊に由來して畢竟は其〓傳の教育今の社會の成行に〓せず〓〓の目的と生活の實際と相反對して其〓を得ざる結果なれば不〓の要〓は寧ろ社會上に在るものと云わざるを得ず故に今の政界多事の塲合に處する彼等の擧動を見れば恰かも政治上に不〓を抱くものの如くなれども其所謂不〓なるものは實際政治上に關するものにあらず例えば他日日本の政治に非常の變革ありて今日の政弊と認むる所のもの全く一新する機會ありとするも到底彼等の不〓を滿足せしむること能わざるは我輩の敢て斷言する所なれば今後我政治上の有樣は如何樣に變ずるとも〓士輩の不〓は到底慰むる期なく〓には其本相を現わして社會に對する不〓と爲り更に一歩を〓むれば此の〓士なる一種の窮民は彼の多數なる社會の窮民と一致結合して〓動を共にするにも至る可し其曉こそ即ち日本の社會に社會共産主義の〓動を見る日にして今日の事〓より推測するに早晩この事あるは免れざるものゝ如し盖し歐洲諸國の如きは目下正に窮民の處置法に苦しみ或は人口の〓殖制限す可しと云い或は教育の方法を改良す可しと云い或は又殖民移住を獎勵す可しと云い學者政治家の苦心一方ならずと云う我國の有樣は彼と同日の論にあらずと雖も今日に於て〓に前〓の兆候ある以上は〓して之を輕々に看〓す可からず我輩は今より〓來の成行を推測して聊か世間の注意を促し世の識者と共に此〓題の研究に從事せんとする者なり