「製糖會〓株式の賣買」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「製糖會〓株式の賣買」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

製糖會〓株式の賣買

此頃株式の市塲は秋聲と共に一體に淋しき折柄製糖株のみ獨り時ならざる春色を催おして落葉枝頭に狂花を附くるが如き奇相を呈したるより取引所員は其終に〓約の變を生じて賣買擔保の責を所に歸せられゝこともあらんかと其邊の豫防の爲め先ず證據金を割合を引上げ尋で一時賣買を中止し以て十月限丈の受渡は難なく局を結びたり取引所の爲めには先ず以て目出度き次第なれども我輩は此一事を目撃してますますブールス論の不利を明にするものなり今回の事にても内實心配する者は所の役人なれどもいよいよ〓約と爲りたる上にて賣買の商人には毫も危險ある可ある可からず何となれば取引所と名くる一中心が賣買雙方の中間に立ち資本二十萬圓の中より損害を償うことなればなり故に賣買當局の者十人なれば十人ながら皆各々二十萬圓の身元ある姿にして雙方共に掛念なく取引を約すること得れども若しもブールス論を俟たずして明なる可し或は會員組織にても其役員は必ず賣買上に確實を重んじ夫れ夫れ取締の工風もある可しと雖も不時の事變に由て越る所の損失は結局賣買雙方の一個人に歸して會所の與り知らざる所のものなれば其責任自から輕くして彼の證據金を高め賣買を中止するが如き心配もなく偶ま取締の法を施すとて唯市塲全體の利害より商人の〓意を促がすに〓ざる可し之を株式組織の役員が會所の利害即ち其私の損益に〓られて苦心するものに比すれば固より同日の論に非ず若しも斯る取引をして其行かんと欲する所に行かしめ傍より制止するものなくんば強氣も弱氣も勢に乗じて銘々の資力意外に賣買を約し損得の高いいよいよ大なるに隨て〓約の變もいよいよ多く扨大變に至りて損害の償を求る〓は甚だ窮屈にして唯相手の一個人あるのみ取引の安全と云う可からざるなり左れば商人等は賣るにも買うにも常に其相手を擇ぶに忙しくして取引上〓に活〓圓滑の妙を缺き一朝相塲の變に〓えば忽ち〓約の災に罹りて市塲全體の信用を破ることある可し目下東京株式取引所に製糖株取引の事あるこそ偶然なれ、取引に關係する商人等が試に二樣の想像を〓き相塲所を株式組織にするとブールスの會員組織にすると其利害安否如何を考えたらんには其優劣を發明すること難からざる可し