「・通商報告公示の方法を改む可し」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「・通商報告公示の方法を改む可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

・通商報告公示の方法を改む可し

日本と取引を爲す世界各國の諸商業地に駐剳する領事よりの報告を商賣に縁もなき役人等の爲めに出版する所の官報に載せて商工業者に示さんとするは俗に所謂門違の甚しきものなれば從前の如く月に四五回づゝ官邊に集りたる通商上の報告を民間の書林等に渡して印刷發賣せしめ廣く實業社會の便利を謀るは今日の急要なる可し當時報告一部の代價を二錢と限りて印刷發賣の事を請負ふたる書林は發賣の部數多きを加ふるに隨ひ印刷の費用を減じて其手に落つる收入も少なからざるに由り自然に其賣捌方に盡力すると同時に購讀を望む商工業者は貴重なる商況を報する册子の價僅に一月十錢にも足らざることなれば雙方の便利相投じて發行の部數も次第に增加し前途の望み甚だ乏しからざりしを何故にや其筋にて俄に右の趣向を改めて毎日官報紙上の一欄に登載することゝ爲し爾來通商報告を見んとする者は官報の代價毎月金五十錢を拂はざる可らず即ち從前に比して五倍の金を費すの勘定にして商家の爲めに面白からざるのみならず其發行者たる官衙の熱心は迚も民間の營利商人に及ばざることなれば實業社會に領事報告の普及は復た昔日の如くなるを得ざるや明なり人或は曰く通商報告の發兌毎月僅に四五回とあれば發兌より發兌に至るまでの間は數日を經て爲めに商機を空ふすることなきを得ず是等の利害を考えれば月刊の官報を買ふに價の高きを云ふ可らずとの説もあれども西洋より橫濱に郵船の入港は凡そ毎月四五度なるが故に其便にて報告の到來するものを直に印刷に附すれば丁度毎月四五度の發兌こそ却て正確にして迅速なるものなり且目下毎日官報に登載する所は僅に其一部分にして時としては之を載す可き餘白なきが爲めに月末に至り別册として一時に發行することさへある程の次第なれば其政府に達して世閒に現はるゝまでには多き日子を經て舊聞に屬するものも亦少なからずと云ふ左れば普及の點は勿論、速達の方より云ふも通商報告發行の趣向を前例に復するは實業社會の利益と云はざるを得ざるなり同じく物産を輸出輸入するにも賣買の巧拙如何に由り大に實際の損益を異にするものにして外國貿易の高を進むると共に巧みに商賣するの術を講じて駈引に勝を制せんとするには外國の商況を明にするの大切なること恰も戰爭に審敵の欠ぐ可らざるが如きものなれば商工業者の間に領事の報告を普及速達せしむるを以て外に對する商略の一大要事と言ふも決して過言に非ず近來輸入諸品の元値或は數量などが入船と同時に直に世間に公にせらるゝよりして在橫濱の外商は東京の問屋に對し、東京の問屋は田舍の商人に對し恰も手元を見透かさるゝの姿と爲りて復た以前の如き意外の利を博すること難しと云ふ即ち田舍の商人の上より云へば安く買ひ得可きものを他の商況に暗きがために高く引取るの損を免るゝものにして其利は商賣の高を增したるにも等しかる可し言語風俗を異にする遠き外國の商況は殊に知れ難きものなれば領事派遣の數を增して適當の人物を撰ひ萬般の報告を怠る可からざるは無論、其報告中に之を公にして貿易商賣上に利す可きものは速に印刷に附して普及速達を謀り以て外國と商賣の戰爭

に不覺を取らざるの工夫こそ今時の急務なれ我輩が特に當局者に向て通商報告公示法の改正を望むも其微意蓋し此邊に存するものなり