「第二流政治家」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「第二流政治家」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

朝野聯立内閣の説は我輩の〓ば主張したる所にて政治社會今後の成行として政黨内閣に押移る其間にはぜひとも此道行を經過せざる可らざるのみならず事の實際に就て見るに今日の如く老政治家が一種の感情よりして互に朝野の間に睥睨する其内情は自から事實の上に現はれて或は政黨の隱謀と爲り或は議會の狂熱と爲りて事態甚だ妙ならず殊に昨今は其勢頗る切迫して一層の甚だしきを加へたるが如くなれども虚心平氣に考ふるときは其成行を推測すること決して難からず即ち時日を經るに從ひ其感情も次第に薄らぎて事を共にするの必要を感じて其間に聯立内閣組織の機運は甚だ遠からざるが如しと雖も是種の内閣は固より一時の策にして更に一歩を進むれば又一變して第二回の聯立なきを得ず今の老政治家は何れも五十歳以上の人々にして政治上の生活期も最早久しからざるが故に早晩政治社會に變ある可きは數に於て免れざる所なり或は其時期に至れば政黨内閣の實を見るならんとの想像もなきに非ざれども我輩の所見に於ては尚ほ未可なりと豫言するものなり老政治家の人々が悉く其地位を去るときは政府部内の情實は大に減じて今日の觀を改む可きも此時を期限として直に内閣の風を一新するが如きは實際に叶はざることなる可し熟ら熟ら政府部内の有樣を見るに老政治家を外にして有爲の人物少なからず即ち世に所謂第二流の人々にして此流の政治家は其勲功地位固より第一流の者に比す可らずと雖も年來政治の經驗に富める其上に當世流の新智識にも乏しからずして國會〓〓〓の舞台にも後れを取らざるの覺悟あるのみならず〓〓〓内に敢然の勢力を有し取りも直さず現政府の〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓自からも任ずるものなれば今後その進退擧動に就ては自から注意する所なきを得ず從前の有樣にして國會開設などの事もなければ新陳交代は單に政府部内に行はれて此種の人は坐して先輩の後を承く可きが故に成る可く鋒鋩を收めて只管政府の爲めに力を致し以て他日を待つこそ得策なれども今日は事情大に變化して政治上に政黨の分子を加味し既に彼の老政治家が朝野聯立の内閣を作るにも自から政黨を代表するの必要ある程の次第なれば他日第二流の人がいよいよ先輩に代らんとするときには事情次第に切迫して政黨に依ョするの外殆んど方便なきまでに至る可ければ今日に於て早く其謀を爲し現政府の部内に居て力を養ふと同時に外に對しても政黨の計畫運動こそ肝要なれ若しも然らざるに於ては一朝の政變に先輩と運命を共にして政治社會に落語の人と爲る可し先輩の去るは年齢の然らしむる所なれども第二流の人は有爲の日月尚ほ長し隨て畢生の長計もなかる可らず長老輩の組織す可き第一回の聯立内閣は朝野の聯立と云ふと雖も尚ほ依然たる功臣政府にして云はゞ維新の餘喘のみ其永久は人身の生理上に許さゞる所にして其二回こそ政府部内第二流の政治家と民間政黨中の名士との聯合にして茲に始めて朝野聯立内閣の眞相を現はし是れよりして漸次に政黨内閣の路を開くこともある可きか我輩は漫に未來を想像して政治社會第二流の人々に注意を促す者なり