「山林の監督法」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「山林の監督法」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

山林の監督法

今の官有の山林は癈藩置縣の際に各藩の所有又は〓寺の所領を政府に〓めたるものにして從來各藩の中には林政の案外に行届きたるものもなきに非ざれども多くは其地方の〓慣に任せて所謂御大法に附し去りたるものを其儘に〓めて中央政府の有と爲したるが故に其混亂は一方ならず全國の中には其境界線さえも一定せざるものもある程の次第にして監督の法も未だ盡さざる處あるが如し即ち今日は夫れ夫れの規則もあり大小の林區を置て其監督、頗る密なれども一般の調査行届かず隨て大體の計畫定まらざるよりして其法の密なるは〓ま〓ま以て事の繁雜を招くのみならず下級の小役人などが善くも規則の〓〓を解せずしてますます事を繁にする弊も亦甚だし即ち山林所在地の人民に下草の苅取を禁じたるが如き從來の〓〓に反するものにして或地方に於ては官林内の積雪を取りしが爲めに罰せられたる奇談さえもありと云う山林の雪を掃いたりとて官にも尚ほ規則の拘束を免れざるは畢竟小役人共が規則の精〓を解せざるが爲めにして地方人民の感〓を損して却て監督の法を困難なりしなること少なからず從來の〓慣にては官林(即ち藩林)の立木こそ人民の私伐を許さざれども薪の爲めに枯枝を折り肥料もしくは牛馬の飼料の爲めに下草を苅るは公然の黙許にして或は宮寺又は堤防橋梁の建築修繕など地方公共の用に供する爲めとあれば特に官林の伐木を許す等の事もありしより地方の人民は官林を見ること恰も私有の如くにして自から保護も行届きたる次第なるに今日の規則は全く之に反して一枝一草の〓と雖も他の手に觸れしむることを許さず取締の嚴密なるにも拘わらず盗伐等の患常に絶えずして隨て犯則者も多きが如し而して其〓入の點は如何と云うに日本の山林は海外諸國に得易からざる財源たるにも拘わらず又その監督法の嚴密なるにも拘わらずして殆んど〓支相償うか或は差引して些少の〓益あるに〓ぎずと云う一國經濟の上より見れば不利の甚だしきものと云う可し是に於てか其始末に關して種々の議論ある中にも全國の山林を擧げて民有に歸せしめんとする〓あり其〓に據れば國中の官林を人民に與えるか又は賣却して郡村の有と爲し從來の〓〓に從て其維持保存を計畫せしむる其代りに水源の涵養又は國土の保安に關する大體の規則は政府にて定め之を遵守せしむることゝなさば事に於て差支なく今日の煩勞を免る可しとの趣意にて〓き得て〓快なるが如くなれども我輩は此〓に賛成すること能わざるものなり如何となれば山林を民有に歸せしめて眞に人民の有と爲り一般に利益を受ることならば素より異存なけれども目下の〓態を以てすれば其民有とは眞實人民の有に非ずして所謂有志者の有と爲り單に少數のものを益するのみならず之が爲めに種々の事〓を引〓して言うに〓びざる弊害なきを得ず一國の財源とも云う可き山林をして少數人の私利に殉せしむるが如きは我輩の欲せざる所なればなり然らば其始末は如何にして可ならんやと云うに大に費用と勞力とを抛て全國の山林を測量踏査し〓密なる林圖を〓りて其境界を確定し又林産の經濟に就て〓支の計算を爲し全體の計畫を定むるは實に林政上の必要なれども此事たる十年二十年の歳月にて成功す可きものに非ざれば此大計畫を別にして更に臨機の處置なきを得ず即ち今日の不便は其規則に在らずして之を施行する手加〓の如何に存することなれば目下の〓は何は扨置き其手心を寛にすること肝要なるのみ聞く所に據れば彼の〓酒小賣等の檢査に人民生活の程度殆んど同一樣なる兩縣下に兩人の官吏を派出せしめたる其結果を見るに一方にては百名以上の犯則者を出したる其反對に一方にては僅々五六名に〓ぎざるが如き例もありしと云う即ち其派出官吏の手心如何にして山林の取締の如きも之と同一のものなれば規則を笠に着て漫に犯則者を多くするが如き輩は暗に懲戒の意を加えて之を警しめ以て後を謹ましむるは勿論、畢竟規則に拘泥して人民の〓惑を顧みざるが如きは下級の小官吏に多きの常なれば今後山林の〓〓等は成る可く高等の官吏にして事に〓ずるものに任じ其取締を寛にして人民の苦〓を安むるを目下の急として深く〓意せんこと我輩の當局者に望む所なり