「第四期議會の開會」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「第四期議會の開會」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

第四期議會の開會

帝國議會は本月二十五日に召集せられ愈々明後二十九日を以て開院式を行はる可しと云ふ

今回の議會は第四回にして開設以來足掛け三年を經過したり一瞬の如くなれども英國など

にて政治社會の形勢は平均凡そ三四年の間に一變するの例にして政治上に於ては三年の日

月决して短しと云ふ可らず抑も我國の政治は二十餘年來長足の進歩を爲したりと云ふ其進

歩は固より氣運の然らしむる所とは雖も自から人力の助なきを得ず即ち維新以來政府當局

者の苦心經營は一方ならずして其間に失策も少なからざれども兎にも角にも今日までの成

跡を見れば其人々の勳功亦大なりと云ふ可し而して國會の開設は國民一般の力を政治上に

致さしむるの精神にして從來の寡人政府が少數の人にて萬般の政務を處理したるに引換へ

衆人一致して事を賛助することなれば政府の力は一層大ならざるを得ず二人の力は一人よ

りも強く貴衆兩院六百人の賛助は其力の強大なること數に於て明に知る可し然るに開設以

來の事態を見れば議塲の風光動もすれば空に走りて實際の議論少なく國家の進歩に必要な

る事業費さへ彼れ是れの苦情多くして議决に至らず甚だしきは立國の根本とも申す可き地

祖に輕減を試み又は地價の修正を行はんとするなど兎角進歩の思想に乏しく一昨年も斯く

の如く昨年も斯くの如くにして本年も亦斯く如くならんには三年の歳月は空しく消過した

る姿にして二十餘年來長足の進歩も茲(玄+玄)に全く停止するのみならず或は退歩の實

を見るに至るも計る可らず若しも此有樣にして改むる所なく國會の爲めに却て國事の停退

を致すとありては或は人をして憂しと思ひし寡人政府の當日を慕はしむることもあらんか

と我輩は國會の爲めに謀りて竊に取らざる所なり然りと雖も一方より考ふるときは政治の

進歩は自から社會の大勢に隨ふものにして其大勢の赴く所は留めんと欲して留まらず區々

たる障害は恐るゝに足らざるを知る可し喩へば今日の有樣は恰も山に登るに異ならず山路

の峻險なる或は中途にして疲勞を催ほし茲(玄+玄)より降らんか登らんかと聊か躊躇す

ることなきに非ざれども既にして絶頂に達すれば大に愉快を覺えて自から前の躊躇を笑ふ

ものゝ如し國會の前途も亦これに等しく今日こそ萬事消極にして恰も山を降らんとするも

のゝ如くなれども數年ならずして顧みて前日の因循を一笑に付するの時あるや疑ふ可らず

我輩の敢て期する所なれども目下既に其消極主義の非を悟りたらんには之を自然の成行に

一任して甘んず可きに非ず直に其是とする所を行ふて昨非の笑を他日に遺さゞること智者

の事なれ殊に其擧動に關心するものは單に日本人のみならず海外諸國の人々も皆注目して

窺ふことなれば議員たるものは國會の議塲を晴れの舞臺と覺悟して大に勉強し寡人政治に

勝る可き進取活動を逞ふして果して國民多數の意志を代表し以て日本の國會たるに恥ぢざ

るの實を擧げんこと希望に堪へず開會の初に當りて聊か一言を呈するものなり