「日米の條約改正」

last updated: 2019-09-29

このページについて

時事新報に掲載された「日米の條約改正」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

日米の條約改正

は去る十一月二十二日を以て兩國全權委員の調印濟のなりたる由なれば彌々正式の新條約を見るも其日〓きに非ざる可し元來米國政府の主義は條約を以て他國を壓制するものにあらずとて我絛約改正の要求に對しても毎度他に先んじて諾意を表したることあり其厚誼は我國人の常に記臆して忘れざる所なり今回は英國が築一に對等の新條約を結びて米國は恰も次に着きたる姿となりしかども是れは唯談判の順序の然らしめたる所にして其信義の淺深は歴史上疑もなく米國を推さざるを得ず現に彼國の與論は日米條約改正の英國に後れたるを非議し米國こそ日本を誘導して文明を促したる率先者なれば日本の熱望する條約改正に就ても多年心を盡し來りしに一〓他に先鞭を着けられたるは實に外交の手落なり云々とて彼のレパブリカン黨の如きは政府の地位に立てるデモクラツト黨を攻撃する一材料となし居るよし日本國人は〓して改正の先後を以て其厚意を上下する者にあらず唯兩國の交誼今後ますます親善ならんを希望するに切なるのみ

斯る事の輕〓なれば英國が對等條約の先例を示したると否とに關せず日米新條約の結果は必ず我國人に滿足を與ふるものなる可し萬々疑を容れざる所なれども各國〓の〓の其國是國政を異にするが故に隨て多少の相〓は免れざることならん例へば海〓〓の如き米國にては國定の普〓〓法を以てするが故に我國にても亦特に〓定するに及ばず自から普〓〓法を設けて之に應用することなる可ければ彼我の間に〓率の高低あるにもせよ毫も我國〓に妨げなきのみか寧ろ便利感ずるならん又日英條約にては互に雜居の自由を許して何等の條件もなけれども米國政府には移住條例又は契約勞働者〓〓等の成法あるが故に雜居に就ては依然として國法上の制限ある可し是れは特に日本人に限るに非ず歐洲諸國人に對ずるも同樣にして怪しむに足らず或る論者の如きは日米の新條約中に日本人の移住に制限を置く條件ある由とて頻りに之を憂う斯くては支那人と同一〓せらるゝ譯にして帝國の體面を如何せんと言う者あれども我輩は斷じて之を信ぜず若しも制限なるものの待遇を受く可きも〓して支那人放〓を同日の談に非ざるのみか條約の文面に於て此等特種の制限を設定す可しとは思われず或は米國にては勞働者の移住を〓うこと非常にして移住者問題に就ては恰も問題外の問題として是れまでも彼の勞働組と稱する輩が毎度日本人の排斥を企てたることありし由なれども〓來は大に其趣を〓め現に十一月の初より彼國諸州の總撰擧に際し常ならば一概に黄色人種を侮蔑する擧動を示すことなれども此回は日本人に對して毫も左る模樣なく殊に外來勞働者排斥の根據地とも云う可きカリホルニヤ州にてすら〓に然りとのことなれば其他は推して知る可し兎も角も日米新條約成る日には何事も歐洲諸國と同樣〓して其以下に墜ることなかる可きは我輩讀者と共に安心して信を置き以て米國の厚意を〓えんと欲する者なり左るにても日本の内地に外人の雜居を憂いたる我國の論者が今は他國に我國人の雜居權を喋々するに至りしは是れも日本國人の眼界を廣くしたる大〓歩の現象として我輩の〓賀する所なり