「海員の兵役免除」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「海員の兵役免除」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

海員の兵役免除

政府が海員掖濟會に充分の補助を與えて國家の急要に備えざる可からずとは〓に前號に〓べたる所なれども更に〓海員を養成する方針に就て立言すれば我輩は海員に許與する兵役免除の特典を以てする必要を認めるものなり假りに掖濟會がいよいよ政府の補助を得ることゝすれば由て以て海員の養成法及び保護法等にも〓憾なく斡旋するを得べきに似たれども文明世界の航海業は全く昔時の船頭舟子の業に異なり掖濟會等の〓るも畢竟それが爲めにこそあれば唯志願者の出るに任せて多少の技倆を授けたればとて未だ稱して〓海員を得たりと言う可からず眞に養成の好時機は靑年の時にありて十六七歳より豫定の修業を積み漸く二十歳前後に至りて始めて海員たる資格に〓し敏捷活〓萬事に甲斐々々しく物の役に立つ可しとは其〓に親しく實驗ある人の談にして洵に左もある可きなれども如何せん男子二十歳に至れば徴兵の義務に服せざる可かざるが故に海員たらんと欲するも自から修業の時を空うし又は盛りの時に後れて爲めに其資格に大欠點を生せざるを得ず今後假令ひ掖濟會が其規模を大にして百方養成に盡力するも此故障を除く能わざる限りは〓當の季〓を看す看す不如意に經〓する外なく隨て其結果も〓に完全を望む可からざるに至る可し實に海國に有るまじき〓〓の談ならずや一旦緩急あれば海員は取りも直さず〓〓船を〓轉する兵士にして其軍事に大切なるは〓ほ陸軍の下士卒の如く又海軍の一部の如し即ち法律上の兵役ならざるも實際上兵役同樣の任務を盡すものなれば之に對して敢て徴兵の字義に拘泥するを須ゐざる可し〓に〓時に於て航海業の必要に應じ又戰時に於て明に兵役に服する實ありとすれば之をして宜しく〓海員〓海兵たらしむ可く〓して其養成發〓を沮害す可からざるや復た疑を容れざる所なるに然るに今日の徴兵令は正しく路に横わる障害なりと云う我輩は〓豫なく之を排除し國家の爲めに海員の龍門を開放せんこと希望に堪えず或は單に海員の課業を修めたるのみにて兵役免除とありては徴兵忌〓者の侵入如何も計り難ければ彼の兵士と同樣三年以上を束縛し凡そ海員の〓を修めたる者は必ず三年以上の實業に就かざるを得ずとの法を設けて不取締を防〓其手續は〓今行いつゝ〓る如く〓〓の〓〓により各地の官廳に〓て登録をなし〓〓事業の者は是亦兵制に〓いて豫備員となす可し盖し〓時は船主も餘分に海員を雇い置く可きに非ざるが故に戰時に際し俄に多數を〓募せんとするも中々容易ならざるは現に今回の事件に於て經歴したるが如く軍機を〓らざりしこそ寧ろ意外と云う可き程のことにして當時者は今〓ほ之が爲めに苦心煩勞一方ならざるよし其關する所實に大にして〓時は兎も角も一旦緩急の塲合に臨み必要次第隨時に召集するを得るに非ざれば軍國の用は辨ず可からず即ち兵制に同じく豫備員の設なかる可からざる所以なれば旁々以て海員の兵役免除は事理に照して頗る妥當なるを信ずる者なり此事たる徴兵令改正の一絛として政府より來期の議會に提出せんことを望むものなれども議會に於ても亦政府案の有無に拘わらず其實行を目的として海國の事業を成さんこと我輩の窃に〓る所なり