「講和の覺悟如何」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「講和の覺悟如何」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

講和の覺悟如何

支那政府が容易に和議を申出すことなかる可しとは我輩の前號に〓べたる所なれども若しも彼が戰爭の不利を悟り前非を悔いていよいよ和を〓うに至らば如何なる條件を以て之を許す可きや朝鮮の獨立軍費の賠償の如きは彼が先頃外國に仲裁を依頼したる際に申出したる絛件にして或は今日に至りても尚ほ此邊にて局を結ばんなど妄想することもあらんかなれども斯の如き絛件は開戰の當時と雖も之を認むること能わず〓んや目下の塲合に及んで誰れか耳を傾くるものあらんや朝鮮の獨立は〓定の問題にして世界の表面に一人も之を疑うものとてあらざれば殊更に支那の認定を待つ必要を見ず目下の疑問は寧ろ支那自國の獨立如何にして其獨立を買わんとするに單に償金の一事を以てせんとは抑も國交際に優勝劣敗の大主義を解せざるものと云う可きのみ左ればいよいよ彼の和議を容るゝに當りては相當の賠償金を〓むる上は土地の分割は是非とも欠く可きのみ左ればいよいよ彼の和議を容るゝに當りては相當の賠償金を〓むる上は土地の分割は是非とも欠く可からざる絛件なりとして扨その要求の程度は如何と云うに戰爭の局面次第に擴張して我勞費の少なからざるに隨い要求の程度のいよいよ大なる可きは當然の數にして例へば〓壤陥落の當時に和を容るゝと旅順占領の今日に於て兵を〓むるとは其程度に非常の差異なきを得ず或は支那人の考にては旅順は海口の一港のみ其得喪は中國に於て何かあらんなど之に重きを置かずして〓氣に見ることもあらんなれども試に兵略上より觀察すれば〓に旅順を失うときは威海衛は用を爲さず〓〓海峡の防禦は最早や破れたることなれば太〓山海〓の攻撃も甚だ易く北京〓に我掌中に歸したるを同樣にして此際に當りて和を〓わんとならば〓に北京を陷れられたる覺悟を以て大に考える所なかる可からず彼に果して其覺悟あれば妙なれども或は然らず旅順の陷りたるを以て單に旅順を失いたるものと心得、漠然たる〓和の絛件を申出すが如きこともあらば和議は到底養わずして自から最後の大失敗を招かんのみ今や天候次第に〓を催ほして直隷灣も氷結の季〓に〓づき海陸共に〓軍に不利なるが故に我兵が北京に侵入するには或は來春を待つやも知る可からざるが故に彼は其天候を利して暫時の安を偸まんとする姑息心もあらんなれども我兵は唯その占領地に於て冬籠に火を消するのみなる其反對に敵は冬季の間に於てあらゆる力を盡して防戰の準備を整えざる可からざる其準備も明春氷解けて我兵の一蹴に〓う曉には忽ち粉微塵と爲りて全く骨折損に歸するものと知らば寧ろ今より首府を失いたる覺悟を以て和を〓うこそ彼の爲めに謀りても得策なれども憐む可し北京政府の當局者中には斯る成行を考えて〓め謀を爲すが如きものは一人もなかる可し或は止むを得ずして和議を唱えるも其〓和の申出は到底聞くに〓らざるものにして我軍隊は〓に北京侵入の必要を認むことならん而して其〓軍は來春を待つや待たざるや軍機は我輩の知らざる所、又言う可からざる所なれども疾雷或は豚尾兒の耳に〓うに暇あらざる快活事もある可し我輩は愼んで口を閉じて今後の成行を見るのみ