「朝鮮人自から考ふ可し」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「朝鮮人自から考ふ可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

朝鮮人自から考ふ可し

朝鮮人は未開國人の常として倨傲自尊、只管他國人を輕蔑するの風なりしが外國と交通を

始むるに及び自から國力の足らざるを悟りて他に依賴するの心を生じ最初は支那に親んで

殆んど屬國の姿を成し次で日本に依て國を維持せんとして國事を改革し獨立の實を勉めた

るは一昨年より昨年までの事實なりしに近來に至りては遽に發明したるものゝ如く日本は

竊に野心を懷き朝鮮を併呑するの志あり决して依賴す可きの國に非ず左ればとて支那も賴

むに足らず露國も面白からず世界の中にて公平無私、眞實賴み甲斐あるものは米國のみな

れば此國に依賴して立國の計を爲す可しとの説を唱ふるよし一見或は其知識の進歩を認む

可きが如くなれども今更ら野心云々を以て他を怖るゝとは驚入たる新發明と云はざるを得

ず今の世界に孰れの國か野心なきものあらん表面にうつくしき外交の其裡には恐ろしき心

を藏むるの常にして若しも國内の始末不行屆にして兵備の用意もなく恰も開放し同僚の國

あらんには他の呑噬は免る可らず即ち各國共に競ふて海陸の軍備に怠らざる次第なり左れ

ば日本も素より野心なきに非ず否な野心たつぷりにして折さへあれば世界を征服するの大

壯圖も敢て絶無と云はず朝鮮の如き日本の力を以てすれば一箇月を出でずして全く取るを

得べし誠に容易の談なれども取ると取らざるとは吾々日本人の考にして眞實自國の利害に

訴へて取らざるを利益と認めたればこそ今日までも手を出さゞる次第なれ若しも日本にし

て朝鮮人の恐るゝ如き心あらんには鷄林八道は既に已に我所領に歸したること疑ふ可らず

决して今日を待たざるに然るに彼等が今更ら新發明の如く日本の野心を云々するとは何事

ぞや抑も古代の歴史を見るに西洋にては亞歴山東洋にては成吉汗など云ふ如き單に他國の

征服を目的とし無益の師して自他の國民を苦しめ以て一個人の野心を滿足せんとするの氣

風も行はれたれども世界の進歩は非常のものにして今代の國民は無益の征服を企てゝ自か

ら損するの愚を爲さず和戰共に靜に利害を考へて冷に判斷する其目的は只自國の利益のみ

例へば米國の如き獨立以來の發達は驚く可き程にして今は世界屈指の富國と爲りたれども

若しも其當時英國が飽くまでも壓力を加へて自由を得せしめざらんには今日の發達は到底

見る可らざるのみか英も収支相償はざるの困難に陷りて始末に苦しみたることならんに獨

立の一擧偶然にも其發達を促して英國との商賣貿易も盛に行はれ之が爲めに双方共に大に

益するは實際の事實なり左れば英人の中には今の加奈陀拿陀の如き濠洲の如きも米國同樣、

獨立の自由を得せしめ商賣貿易の利を利するこそ本國の利益なる可しとの説を唱ふるもの

さへある程にして今の時代に利益もなき他國の征服などは賴まれても應ずるものはなしと

知る可し、今日本が朝鮮を取るは誠に造作もなけれども扨これを取りたる處にて其始末を

如何す可きや假令ひ無氣力の國民とは云ひながら自由を得せしむることは到底叶ふ可らず

全國の人民を奴隷視して絶えず壓力を要すること勿論なれども一方に壓力を加ふれば一方

に膨脹するなど種々の面倒多きのみならず精々搾取て自から益せんとするも彼の通りの貧

乏國、高の知れたることにしてますます搾取ればますます衰弱せしむるのみ収支相償ふの

見込はある可らず自から損して斯る厄介物を取込むは日本人の斷じて欲せざる所なり之に

反して兎に角に彼をして自から支へしめ相當の軍隊も備へ警察の仕組も略ぼ整へて國内の

治安を維持せしむるときは殖産興業の道次第に開けて自から外國貿易の發達を見る可し我

國の如きは開國以來三十六七年の間に輸出入の額、百倍以上に增加したり朝鮮の貿易額は

現に千萬圓内外なれども其人口は少なくも二千萬は確なる其上に本來豐饒の土地なれば一

旦發達の氣運に向ふときは其進歩は必然なり日本の例には到底及ばずとしても今の十倍に

十倍の增加を見るときは其利益は非常のものなる可し而して其利益を受るものは地理より

云ふも人情風俗より云ふも是非とも我國人なる可きは事實に疑なき所なれば我々日本人は

此利害の點より熟考して朝鮮の土地を取るが如き愚策に出でず彼をして自から支へしめ其

發達進歩を促して以て自から利し又他を利せんとするの胸算を定めたるものなり即ち彼の

國事に助力して其改良を謀らんとするは决して野心あるが爲めに非ず又義侠慈仁の名を好

むが爲めにも非ず只自利々他の目的を成すの一心のみなるに彼等が頻りに日本の野心を

云々して他國に依らんと放言するは更らに解す可らず其他に依るも依らざるも勝手次第に

して吾々の關係せざる所なれども試に彼等の願通りに米國に依賴したる其成行は如何なる

可きや米は實際に無慾淡泊にして東洋などに野心を懷くものに非ず朝鮮國の如き熨斗を付

けて進上さるゝも眞平御免を蒙ることならんなれば米に依賴するときは國を取らるゝの心

配は萬々なかる可しと雖も其代りには一旦何かの事件を生じたる塲合にも之に立入りて朝

鮮の爲めに力を致すの氣遣はある可らず自から倒るゝも他に取らるゝも米人は一本の指も

動かさずして高處の見物するは請合なり彼等は是れにても尚ほ他に依賴する積りなるや否

や凡そ世界を見渡したる處にて日本ほど朝鮮の事に利害を感ずるものはある可らず左れば

こそ日本人は其國事を改良せしめて一方には彼等の望む通り自から支ふるの實を成し一方

には商賣貿易に自利々他の目的を達せんとするものなるに然るに漫に野心云々を唱て我國

人を疎外するとは彼等の生物知にも呆れ果てたる次第にして其淺墓さ加減は測量の限りに

非ず我輩の只憫笑に付する所なれども茲に念の為め一言して彼等に告げ置かざるを得ざる

ことあり抑も日本人が朝鮮の發達進歩を促し自から利し他を利せんとするは全く數理の勘

定より出でたるものにして其目的は只利益の一點のみなれども人間には數理の考の外に別

に感情を存して一旦その感情を激せしめて堪忍嚢の緒を切るに至れば數理の域を逸して如

何なる意外の珍事を引起すやも圖る可らず朝鮮人等が漫に日本人を疎外するのみか恰も盗

賊掏兒の如くに認め不親切者なり否な國を窺ふ不屆者なりなど吾々を敵視して種々の手段

を運らし商賣その他の自由運動を妨害するにも至らば日本人决して無感情の人間ならずい

よいよ憤怒の曉には永遠の利害を別にして自から非常の决斷を斷じ或は彼等が現に云々す

る其想像を實際に實にするが如き塲合を見るやも知る可らず若し萬一かゝる次第に至るも

自から招くの災にして訴ふる所はある可らず朝鮮人たるものゝ宜しく自から考ふ可き所な