「日清貿易」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「日清貿易」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

日清貿易

境域殆んど七十萬方里に跨り人口四億を計ふる支那帝国は實に世界に於ける東洋貿易の集

中點にして毎年各國よりの輸入額は二億圓を超え輸出額は一億五千萬圓に達せり就中英國

より輸入する綿布阿片等は年々六七千萬圓以上にして北米合衆國の輸入品も殆んど之に匹

適せり然るに隣邦なる我日本より支那に輸入する品物は僅に八九百萬圓に過ぎず我輩は今

日支兩國の貿易に關して聊か世人の注意を乞はんが爲めに先づ前數年間に於ける輸出入貨

物の原價を對比し其如何に進歩をなしつゝあるかを示す可し

    日支兩國間輸出入貨物原價對照表

      日本より輸出    前年に比し   支那より輸入    前年に比し

                △增▲減              △增▲減

           圓        圓        圓         圓

二十二年 五四四二四〇七           九一九九六九八

二十三年 五二二七四六五 ▲ 二一五〇一二  八八四九六八五  ▲ 三五〇〇一三

二十四年 五八二五八五二 △ 五九八四五七  八七九八四二八  ▲  五一二三七

二十五年 六三五八八六〇 △ 五六四〇〇八 一四四〇六四一〇  △五七一〇九八二

二十六年 七七一四四二〇 △一三五六六六〇 一七〇九三九七五  △四五八六三六五

二十七年 八八一三九八七 △一〇九九五六七 一七五一一五〇七  △ 四一五五三二

二十八年 九一三五一〇八 △ 三二一一二一 二二九八五一四四  △五四七三六三七

此表に據れば明治二十四年以來は常に進歩の勢にして即ち二十三年を二十八年に比すれば

輸出に於ては六割餘、輸入に於ては一倍四割餘を增加せり若しも戰爭の不幸なかりせば二

十七年及び二十八年には必ず一層の增加を見たりしことならん更に支那貿易に最も關係多

き日本と香港との間に於ける輸出入額を見るに左の如し

    日本香港間輸出入貨物元價對照表

      日本より輸出    前年に比し   香港より輸入    前年に比し

                △增▲減              △增▲減

           圓        圓        圓         圓

二十二年 七三三七八九六           四一〇三七〇五

二十三年 九三六六四〇六 △二〇二八五一〇  五四九五九一五  △一三九二二一〇

二十四年一二五七八六九七 △三二一二二八九  五〇八九〓〇八  ▲ 四〇六五〇七

二十五年一三二八九五四〓 △ 七〓〓〓〓〓  六九八〓〓〓〓  △一九〓〓一一七

二十六年一五六八八八七〓 △〓〓〓〓〓〓〓  八二六八〇七一  △一二八二三四八

二十七年一六一九九四八一 △ 〓〓〓〓〓〓  八九九九七一九  △ 七四〓六四七

二十八年一〓〓六二八〓〓 △〓〓〓〓〓〓〓  八〇七八一八九  △ 九二一五二九

〓〓此間の貿易〓〓〓〓〓以來常に進〓の一方にして二十三年と二十八年とを比較すれば

輸出一倍五割餘輸入九割餘の增加なり只其各年に就て見る時は二十三年二十八年の兩年に

於て輸入に少量の減少を認むるのみ然れども二十八年の減少は戰爭に原因するものにして

固より怪しむに足らず又同年我輸出品が彼の輸入に比して著るしき增加は從來日本より清

國へ輸出したりし品物の戰爭の爲めに多くは方向を變じて香港を經過したるに依るなりと

云ふ又更らに日支兩國輸出入物品中の重なる者に就て其如何に增減をなせるかを調査する

に左の如し

    日本より支那への輸出重要品

     二十三年  二十四年  二十五年  二十六年  二十七年  二十八年

          圓      圓      圓      圓       圓      圓

綿織絲      八三二    一五二六     一四七   四八四九二   八七六八〇五  六八三〇八七

洋 傘   一〇二七四五  一四〇一〇五  二五七一三三  二九七五三〇  四〇一〇〇六  三四二七一五

摺附木   二六一二四七  三三三〇三四  四一五九一五  六三五六九二  八三一七六四 一二六六八九二

石 炭  一〇七四四七八 一二一八二五二 一一六四九一〇 一一一八六七七 一四八七九〇二 一六三六九八〇

綿フラ子ル    一五八二    一三三二六   六二八一五   一九六七一八  一〇六五一〇  一四〇二七五

諸綿布類    一九〇三九    二一八八〇    五九七三二    六九二七一  一〇〇三九三  一七五〇六三

玻璃器類    六〇一六八  八〇七八六   九八二七〇   一一八一四二  一二九九三二  一〇八二五六

椎 茸  二三五二〇四   一八二〇六一  二〇四一〇六   一九九一九五  二〇〇二八〇  一五六七二七

昆 布 六六〇一七七   七四六九九七  九二九四四六   九〇二一八三  五八〇八四〇  四八九二四七

寒 天   二〇六九〇一   二五六四七六  二七八九九〇   三一九九六三  二六八六六三  一九六八五五

〓     二二八九六三   一一〇一五八  一三二八八四 二二九六六〇  一七〇一六六  一〇六四〇〇

海 〓   二六四六七二  二五七六九二  二六五五二一   二六八三九五  二七二五九二  二八八二一八

此表を見れば日本より支那への輸出重要品たる綿織絲外十一種は何れも年々多少の進歩を

なしつゝある其中に就ても精製品に屬する綿織絲洋傘摺附木綿フラ子ル諸綿布類玻璃器類

は之を他の椎茸昆布寒天等の半製品とも稱すべき諸物品に比すれば殊に著るしき增加を現

はせり即ち二十三年を以て二十八年に比すれば綿織絲洋傘摺附木等の精製品は五倍三割六

分七厘を增加したるに椎茸昆布寒天等の半製品は七分六厘の增加に過ぎず又輸入品中の重

要なる者に就て其の增減を調査すれば左の如し

    支那より日本への輸入重要品

     二十三年  二十四年  二十五年  二十六年  二十七年  二十八年

          圓      圓      圓      圓       圓      圓

繰 綿 二六六五四六六 二五七一六六六 四八二〇〇七二 七八〇六〇〇〇 八一二〇四一七 一三七八六一〇一

實 綿 一〇九九〇九三 一一二五三七五 一二四三八四六  八一六三三五  四四一五一八   三七四二〇〇

赤砂糖 二五九七五四六 二二七九一六二 二三二八八四〇 二九五一三八四 二六〇七六三八  二三〇九八四七

豆    五一二九九七  八一一四九二 一六二五三三一 二六〇二二七二 二二一三二九八  一三八〇二六五

苧麻類   五三八七七   八〇七七四  一二二四三一  一八五〇六一  二七六七一一   三五九六六三

油 糟  一八九三九七  三三〇八一六  八二一二一五  五九二〇三〇  八一六九一〇   九三九九四八

熟皮類  一一三三五三   八四四五五   八四二六八   四九七七八   六七〇九四    九二八五三

羊 毛   三二九一五   一四四〇三   三二四七九   五七五九四  一一九二八八    三四九八六

米    三二〇〇二一   八五六五七   五五一〇八  一四二一八五  七一九八〇五  一九一七六三  

種子類    三三〇五    一八九六   五〇六三〇  二七九三二六  三一九八九四  五一〇七〇八

支那より我國に輸入する重要品は繰綿實綿赤砂糖豆苧麻類油糟熟皮類羊毛米種子類等にし

て何れも我内地に輸入されたる後、製造の原料に供す可き粗製品に屬せり而して是等の諸

物品中最も著るしく增加したるは繰綿にして二十三年を二十八年に比すれば實に四倍餘の

增加なり此增加は一に我内地に於ける紡績事業進歩の結果として見るを得べし又赤砂糖は

清國より我邦への輸入する諸物品中價格の最も大なるものなるが此赤砂糖の製産地は我新

領地と爲りたる臺灣なれば此輸入は今後貿易表中より削減さるゝに至る可く啻に削減を見

るのみならず上海等にて精製する白砂糖は其原料を臺灣より供給するもの多きが故に輸出

入の關係全く地位を轉ずるに至るべし以上の事實に據り日支兩國間の貿易に就き輸出入の

關係增減を仔細に觀察し來れば我邦の支那貿易は年々進歩の一方にして前後多望なるを知

る可し從來日本人は支那に於て通商條約上歐米諸國と同一の權利を有せざるのみならず

種々の關係より直〓〓取引〓〓めて少なく多くは支那もしくは西洋商人の手を經て輸出す

るの常なれば〓て其利益も他に占められて爲めに我商人は利す可きの利を空ふしたる次第

なり〓か〓も今や馬關條約に由り沙市重慶杭州蘇州の市港及び重慶蘇襲杭州に到る内地の

河江に日本船舶の自由に航通往復するの權利を得又一般の内地に於て品物を買入れ又は輸

入するに當りて釐金税を免除せしむる等の利益を収めたる其上に近日正に締結されんとす

る通商條約にも貿易商賣を保護するの條項少なからざる可ければ我商人の便利は非常のも

のにして從前と比較の限りに非ず此際大に奮發して彼の内地に直輸出の道を開くときは人

種文字を同ふし彼に接するに諸種の便宜に乏しからざる我國人にして他國人の後に落るが

如きことある可けんや今日は實に我商人の奮發を要する時機なりと云ふ可し