「斷じて非奬勵法たらしむ可らず」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「斷じて非奬勵法たらしむ可らず」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

斷じて非奬勵法たらしむ可らず

政府が從來實業奬勵の目的にて施したる處置は一にして足らざれども實際に效を奏したる

の例は甚だ稀なり然るに今回發布したる航海奬勵法は未だ實施の期に至らざるも其奬勵に

應じて續々外國の航海を企つる者を生じたるは其效能の著しきを證して充分に目的を達す

るの見込あり國家の爲めに謀りて大に喜ぶべき所なるに當局者は今更ら豫算の齟齬に狼狽

し無理に造船規程を面倒にして法の精神を殺し以て其目的を空ふせんとするは何事ぞや最

初百萬圓内外の見込のものが實際には其十倍以上の支出も圖る可らずと云ふ政府の財政計

畫に差當り餘裕はなきことならんなれども其餘裕なしと云ふは單に政府の事にして國力に

堪へざる次第に非ず豫算の齟齬は當局者の見込違ひにして之が爲めに狼狽とは聊か氣の毒

なれども本來航海奬勵の一事は海國の人民たる日本國民の一般に希望したる所にして奬勵

法の發布の如き實際は多數の聲に促されたるに外ならざれば國民は决して費用の支出を吝

しむるものに非ず當局者にして果して自から窮したらば何ぞ一般の國民に訴へて其處分を

求めざるや今日の有樣にて奬勵法の實施を凡そ十年以上も繼續したらんには我國の航海業

は夫れこそ非常に發達して歐洲米國濠洲等の線路は申す迄もなく日本船を以て世界に橫行

し以て眞成に海國の實を収むるは决して難事に非ず今その奬勵費を一年に千萬圓とすれば

十年にて一億圓十五年にて一億五千萬圓なり一億餘の金を投じて斯る結果とあれば其負擔

は國民の必ず甘んずる所なれば當局者自から責任を負ひ更に税源を求めて費用支出の工風

を案ずるこそ正當の手段なるに然るに事茲に出でず二重底の船舶に非ざれば奬勵金を授く

可らずなど云ふ如き無理の制限を設けて法の精神を抂げんとするが如きは恰も奬勵法を非

奬勵法に變化せしむるものにして實際には之を全廢するに異ならず本來造船規定の如き細

則は本法の精神を活動せしむるの必要に出るものなるに今や其細則を以て法の精神を抹殺

せんとするは是れぞ眞實無法の擧動なれ立法者たる議會は果して其無法を看過す可きや否

や甚だ覺束なく思ふ所なれども當局者にしていよいよ非奬勵の實を成さんとするの心なら

んには恰も蛇の半殺しの如き女々しき擧動は止めにして斷然男らしく法の全廢を决するに

若かず國民に於ても自から覺悟あればなり抑も奬勵法は國民年來の希望に成りて其一發は

既に外國人の心までも動かさしめたる程のものなるに當局者の小〓無識よりして假令ひ斷

然廢止するの勇氣なきも無理なる制限など設けて實際に廢止同樣の成行もあらんには左な

きだに近來威信を失ひつゝある政府の信用は全く地に墜ちて存立の覺束なきは自から國内

の事にして差支なけれども外國人の眼を以てすれば政府も人民も區別はある可らず其失態

を以て直に國民全體の〓〓〓氣力に歸し日本人は果して猿〓〓人に非ざる〓〓〓〓の皮の

〓〓〓〓〓の不體裁を〓〓とて擧動〓〓〓〓〓〓の心を〓〓〓〓〓も日本人の〓〓とあれ

〓〓〓〓〓〓く〓〓〓〓〓〓〓〓々の〓〓に〓〓の不〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓勿論、

或〓外〓〓上にも妙ならぬ影響を見るに至る可し左れば造船規定の制限云々の説にして果

して眞實ならんには容易ならぬ次第にして斷じて取らざる所なれば奬勵法の如き既に發し

て國の法律と爲りたるのみならず然かも實際に效能空しからずして前途の望充分なりとあ

るからには當局者たるものは今更ら遲疑躊躇するを休め斷然自から責任を執り費用支出の

道を講じて飽までも最初の目的を達することに勉む可し我輩の敢て勸告する所なり