「 全嶋の醜氛を一掃す可し 」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「 全嶋の醜氛を一掃す可し 」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

 全嶋の醜氛を一掃す可し 

此程來薹灣の中部には又も匪徒の蜂起を見て守備兵の中にも若干の死傷者を生じたり割譲の新領地に是種の騷動は尋常普通のことにして怪しむに足らず今後とても必無を期す可らずと雖も昨年の大剿討後既に二回の騷動を見れば彼の嶋民のなかなか御し易からざるを知る可し我輩は嶋民の制御法に付き最初より強硬の手段を主張し苟も不穩の形迹あるものは嚴重に處分して一歩も假さず以て彼を威服せしむるは勿論、一般の施政に就ても内地同樣の法律を施行して自由自儘の擧動を許さず之に堪へざるものは颯々と境外に放逐して差支ある可らず割譲匇々單に恩を以て懐んとするが如きは决して彼等を御するの道に非ずとの趣旨を幾回か陳述して注意を促したり當局者の方針果して如何なるや嶋治の實際は委しく知らざれども彼の阿片の處分の如き其=(ルビへい)害明白にして結果の恐る可きものあるにも拘はらず斷然嚴禁の决斷を敢てせず政府自から其毒物を製造販賣して彼等の嗜慾を恣にせしめながら若干の歳月を期して漸次に禁烟の目的を逹するなど外より見ては如何にも堪へ難き程の姑息手段に出でたる其筆法よりすれば其他の始末に就ても或は同樣の手段を免れざることもあらんかと我輩の竊に掛念する所なり抑も新領地の人民を御するの方法は自から一ならず在昔薩州にて琉球を手に入れたる時の如きは一切の武器を取揚げて其取締法は非常に嚴重にしながら政治を始め風俗習慣その他の事は全く自由にして毫も干渉せず只その背叛を豫防して商賣の利を收むるの目的なりしと云ふ彼の英國が海外の土地を切從へて之に處するの政略も凡そ此筆法なれ共薹灣の始末に至りては决して同一に視る可らず琉球の如きは人民も從順なる其上に本來孤立の孤嶋にして當時に於ては他の交通も甚だ不便なりしが故に其人民に兵器さへなければ掛念するに足らざりしと雖も薹灣は全く反對にして嶋民の頑迷御し易からざるに加ふるに土地は支那大陸に接近して兵器などの密輸送も甚だ容易なり現に今回の騷動にも或は其邊の疑もあるよしにて實際の取締頗る困難ならざるを得ず况んや本來の目的は嶋民を相手に商賣の利を謀らんとするに非ず既に我版圖に歸したる上は一切の商賣企業は内地人の手に握り大に富殖の道を講ずると共に國防上には南門の鎖鑰として其守備を嚴にするの必要さへあるに真實心の底より歸服せざるのみか動もすれば反抗を逞ふせんとする彼の島民等を其儘に差置きながら如何にして目的を達す可きや明白の次第なりと云ふ可し左れば彼等に對するには飽までも威壓の手段に出でて形迹の嚴然たるものを嚴重に處分するは勿論内地同樣の法律を敷て苟も之に從ふ能はざる輩は一歩も假すことなく颯々と境外に放逐す可し馬關條約に割譲地の人民は二個年間を猶豫して去就を决せしむるの明文あれども其猶豫は彼等が我政令に服したる上のことにして苟も不從順の輩は即刻放逐して差支なきものなり近來内國の人々は續々彼地に入込みて商賣事業に着手するもの少なからず現に彼の内地に鐵道敷設の計畫さへある今日に當り嶋民の反覆常なくして生命の危険さへ圖る可らずとあれば自から好んで其危険を冒すものはある可らず拓殖上に容易ならざる障害にこそあれば今回の騷動の如き寧ろ好機會として文人流の姑息手段は一切止めにし飽までも剿討して彼の醮=を殲し一般の嶋民と雖も苟も不從順と認めたる輩は容捨なく放逐して全嶋の醜氛を一掃するの决斷あらんこと我輩の敢て希望する所なり