「鐵道許否の方針」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「鐵道許否の方針」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

政府は今度の鐵道會議に第一に目下の經濟事情に於て鐵道許否の方針如何との諮問を發したるよしにて議員の中には其諮問の案外なるに驚き即席に問題返却の説もありたれども兎に角に委員に附托して一應調査することに决したりと云ふ不審なりと云ふ可し請願の許否は政府の責任にして鐵道會議に諮問して之を决するは當然の處置なれども今日に至りて殊更らに許否の方針を經濟の事情より云云するとは解す可らず抑も鐵道の敷設は正當の營業にして人民が法律上の手續を經て請願したるものは政府に於て漫に之を拒むの理由ある可らず或は前説に述べたる通り單に他の計畫を妨ぐるの目的にて請願し〓〓は却下を望むものの如き又は實際に敷設の考なく只許可の聲を利して權利株を賣却し以て私利を謀らんとするものの如きは恰も詐僞賭博の類にして當局者の責任として斷じて許す可らざるは勿論なれども其請願をば十把一束にして單に經濟の事情に向ふて許否を决せんとするは如何なる精神なるや唯空漠と云ふの外なし盖し當局者の考にては目下經濟社會の有樣は頻りに金融の逼迫を告げて何となく面白からざる折■(てへん+「丙」)、若しも鐵道の敷設を請願の儘に許したらんには國内の融通資本は其一方に吸收せられて容易ならざる成行を見る可しとの掛念より自から許否の决斷に躊躇して鐵道會議にも從來に例なき數名の臨時會員を實業家の中より命じて殊更らに其方針を諮問に及びたることならん如何にも念の入りたる處置にして當局者の老婆心を見る可しと雖ども其の老婆心こそ入らざるお世話にして事に益なきを如何せん經濟社會の大勢は殆んど天爲とも見る可きものにして淺墓なる人類の智能にて容易に推測す可き所に非ず當局者の如きは勿論、實業界の事に通ずる實業家と雖も今後の成行如何との問題に至りては恰も天氣の陰晴を豫言すると同樣の次第にして之を斷言すること能はざる可し左れば經濟の事情に徴して許否の方針を云云するが如き苟も常識あるものならんには何人も敢てせざる所なれば委員の調査なるものも其結果は自から知るに難からず然らば政府は其請願に對して如何に處置す可きやと云ふに其計畫の確實にして苟も詐僞賭博に類するの嫌なきものならば之を會議に問ふて直に决す可きのみ如何となれば政府たるものの注意す可き點は其請願の正當なるや否やを確むるの一事にして分りもせぬ經濟の事情を漫に推測して許否を决するが如きは取りも直さず餘計の世話を燒くものなればなり或は實際に於て目下出願中なる幾百の線路を一時に許可したらんには其金額は盖し幾億の額にして當局者の掛念の如く國中の資本を其一方に吸收して融通社會の圓滑を妨ぐるの結果も知る可らずと雖も是れぞ即ち取越苦勞にして假令ひ之を許可するも經濟事情の如何に由りては自から思ひ止まるものもある可きのみならず彼の詐欺賭博〓〓して正當に〓〓し得べきものも少なからざること〓〓んなれば〓〓〓〓計畫を〓〓〓〓ものは案外に多か〓〓と見て〓〓〓〓〓〓の保〓〓〓〓にして此點は〓し〓掛念に及ばざることなり然るに經濟事情云云など漠然たる諮問を發して會議をして方針を定めしめ之に由て許否を决せんとするが如き自家の無定見を表するものにして我輩の斷じて取らざる所なれば此塲合には當局者自から責任を執り其請願にして不正當と認むるものは一も二もなく拒絶すると同時に正當確實と信じたるものは颯颯と許可するの决斷に出で餘計の世話を止めにせんこと敢て希望に堪へざるなり