「國家の大事、元老の合同」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「國家の大事、元老の合同」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

國家の大事、元老の合同

昨日の號外にて報道したるが如く上海特發の電報は驚く可き警報を傳へたり佛獨露三國合同して支那朝鮮及び臺灣の土地を略取す可しと云ふ其眞僞固より確ならざれども發電者は信用す可き筋より聞込みたりと云へば輕卒に無根の説を傳へたるには非ざる可し信ず可らずと云へば信ず可らざるが如くなれども信ず可べしと云へば自から信ず可きものあるが如し眞僞相半して孰れとも决する能はざれども果して事實ならんには非常の大事にして一〓唯茫然たるのみ或は斯る報道は容易に信ず可らずと云ふも局に當る者は迷ふの常にして日本人は自から自國の事に當りてまさかに斯る事もなかる可しと思ふことなれども外國人の見る所は自から別にして如何なる手段に出づるやも知る可らざるのみならず心を靜にして考ふるときは亦思ひ當ることもなきに非ず先頃來三國の皇帝大統領が互に訪問して親密の情を表したるは隱れもなき事實にして其間に於て自然東洋に對する政略の打合したることなしとも云ふ可らず我輩が前號に記したる如く歐洲の形勢は所謂武裝的平和にして互に睨合ふて其隙を窺ひながら寸分の隙を見ずして互に手出するを得ず目下列國の關係は只ありの儘の〓態を維持して互に手を拱するの外なしとすれば勃勃たる野心抑へんと欲して抑ふ可らず自から方向を轉じて〓に逞うする所あらんとするは自然の勢にして〓東の形勢日に急ならざるを得ず左れば彼の佛露獨が遼東半嶋の干渉事件以來東洋に於ける三國の同盟は常に其〓を存して隠約の間に形を現はしつつありたることなれば過般來その〓權〓政治家の會合に由てますます前〓を固め〓〓の力を以ていよいよ〓東に志を逞うするの〓を决したるものなるやも知る可らず〓東とあれば其目的は支那帝國にして盖し彼等の見る所にては支那は既に老朽腐敗、無主無人の野と見做して獨立國の存在を認めざることならんなれば其傍若無人の擧動、敢て怪しむに足らずとして扨我國に對する意向は如何と云ふに日本人は新強國を以て自から居ることなれども今〓膠州灣の占領に付き我に一言の挨拶さへなきを見ても彼等の眼中既に日本なきを知る可し况んや今度の電報に據れば沸は〓〓及び〓〓を〓る〓なりとあり〓〓〓〓〓〓〓〓〓の〓〓たるは〓〓の〓〓なるに毫も〓〓の〓なしとは〓〓至極、啻に暴〓の擧動なりと〓〓〓〓者もあらんなれども〓〓にても〓〓にても其〓力が實際に通用する世界には如何ともす可らず今の〓界の〓交際〓〓〓弱肉強食ただ腕力あるのみにして彼の〓〓の禮儀など云ふは其腕力を飾る一片の虚禮に過ぎず實際に力の強き者が自から其虚禮を脱して眞面目を〓〓すときは夫れ迄のことにして之を咎むるも其甲斐〓〓〓らず只弱者の泣言に止まる可きのみ我輩が〓〓〓〓〓切迫の〓〓〓〓〓〓〓一髮の間に在りとま〓〓〓〓で〓人の〓〓〓〓したるは昨年來〓度のことに〓〓〓〓〓〓に異〓〓〓〓〓〓たるものもありしなら〓〓〓〓〓〓危機〓〓〓〓〓〓に到來して或は〓〓中の〓〓をも失はんとするの塲合に迫れり我國人は如何なる覺悟を以て此塲合に處す可きや或は今度の電報は實際無根なるやも知る可らず我輩とても其眞實なるを保證する者に非ずと雖も世界の大勢に徴して凡そ此邊の成行は實際に疑ふ可らず否な膠州灣の占領事件は既に事の發端を認む可きものにして早晩この報道を事實に見る可きは明なるのみか文明諸強國の外交手段は甚だ迅速にして疾風迅雷耳を掩ふに遑あらざるの常なれば其徴候既に明白の今日に際しては最早や事實を見たるものとして之に對せざる可らず即ち全國一致の實を擧げ朝野と云はず官民と云はず國中最上の智力を集めて其事に當るも尚ほ力の足らざるを恐るる目下大切の時節に現政府の當局者は果して最上の智力を集め得たるものなりやと云ふに過般政變の次第を見ても政府の内外共に甚だ重きを置くもの少なきは實際の事實にして今日の大事に處しては何分にも不安心の情なきを得ず何人も認むる所にこそあれば政府は須らく速に在朝在野の老政客を會し一大會議を催ほして目下の大事を議し其結果に由りて更らに政府を改造するなり又は大に當局者を更迭するなり兎に角に國中最上の智力を集めて事に當らしむること肝要なり或は元老合同は到底行ふ可らずとの異論もあらんかなれども是れは平日の塲合のみ目前に親の大病を控へながら兄弟喧嘩の爲めに看病を怠るとは何事ぞや或は兄弟中には腹變りのものもあらん又は平生より氣の合はざるものもあらんなれども既に親の大病とあれば何は差置き其枕頭に集まりて看護に服せざる可らず平生の不平不如意を繰返しなどして喃喃愚癡を云ふ可き塲合に非ざるなり今の在野の元老と云へば差當り伊藤大隈の二人なれども伊藤の如き此塲合に悠悠閑臥して事を事とせず國事を視ること恰も他人の事を視るが如しとは甚だ解す可らず又大隈とても當局者と意見の合はざるが爲めに辭職したりと云ふも今の時節は單に一身を潔うして傍觀坐視の時に非ず或は在野の輩は今の當局者等が如何に躍起と爲りて事に當るも到底永持す可きに非ず早晩政變到來して詰り自家の番に廻ることならんとて恰も冷笑しながら他の失敗を待つの下心もあらんかなれども今日の塲合に斯る不親切の擧動は斷じて許す可らず又現政府の當局者も吾吾とても日本の政治家なり自から所見を行ふに何ぞ他の容喙を容れんやとて立派に遣て見せんとの决心ならん即ち昨今頻りに苦心して議員の操縱、人物の更迭などに畢生の智力を奮ひつつある所以ならんなれども果して議員を操縱し人物を更迭し得たる處にて其結果は只内閣維持の目的を達するに過ぎず國家の大事には毫も關係あることなく無益の苦勞を云ふ可きのみ左れば目下の大事に際しては藩閥と云はず民黨と云はず老論と云はず少論と云はず國内些末の議論は一切止めにし大に朝野の元老を會して速に國議を决し國中最上の智力を集めて國事に當るの覺悟を定めざる可らず我輩の所見を以てすれば其覺悟を以てしても尚ほ力の足らざるを恐るるものなるに在朝在野の政客共は一身の利害の爲めに意見を殊にし出所を殊にして國家の火事を坐視するとは何事ぞや我輩の傍觀に堪へずして敢て切言する所以のものなり