「外國貿易の前途」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「外國貿易の前途」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

外國貿易の前途

近年直輸出入の必要を唱ふる者甚だ多く政府も種種の工夫を運らして奬勵を謀れども實際内地の貿易商にして外國の商人と直接に取引を試むる者は極めて稀にして輸出入の七割以上は居留地外商の手を經る始末なり商賣上に於て最も肝要なるは成る可く中間の手數と費用とを省くの一事にして我國の貿易の如く居留地の外商が内外貿易商の間に立ちて一切の媒介を爲すときは啻に多額の手數料を貪ぼらるるのみならず賣買の掛引も自から彼等に左右せられざるを得ず現に外商が三ケ月以上の信用を以て輸入したる物品も内地の貿易商が引取らんとする塲合には現金引換に非ざれば應ぜざる由にして輸出品の如きも内地の市塲に於て價が下落するも外商は依然高價を唱へて利益を壟斷し從て輸出品の販路を擴張す可き好機會を失ふなどの塲合も珍らしからずと云ふ要するに現在の取引に伴ふ弊害にして假令ひ輸出入の數量が大に増加したりとするも取引の實際にして右の始末ならんには决して貿易全體の進歩として喜ぶに足らず或は今日貿易上の弊風は居留地制度に因るものなれば改正條約實施の曉に其制度を撤去せんには直輸出入も次第に盛大となりて自から貿易上の面目を一新するに至る可しとの説あれども抑も此弊風の由來は一朝一夕の故に非ずして今後外國人が内地雜居の自由を得るとするも居留地に留りて内外貿易の媒介を以て己れの利益なりとして容易に居留地外に出でざるは必然の勢なれば居留地の制限撤去せらるるも容易に直輸出入の發達を見る能はざるは勿論商機に敏捷なる外商は内地にも續續商店を設け居留地と相應じていよいよ貿易上の利益を壟斷するなどの始末を見るに至る可し貿易商が大に奮發して多年の弊風を破り貿易擴張の實を收むるは今日の急務と云はざる可らず從來我國に於て貿易に從事する人は多くは小商賣より成上りたるものなれば開港の當初居留地の商館に雜貨類を賣込みて利益を占めたる舊習容易に脱する能はず居留地の繁昌に連れいよいよ此風を助長して貿易を以て恰も一種の投機業の如く思ひ込みたるは畢竟其輩に充分の資産と智識なきが爲めに外ならず相當の智識ありて前途の危險を豫防し又相當の資本ありて多少の損失に堪へ得んには居留地の外商と競爭して直輸出入を試みること難きに非ず今日まで直輸出入業が兎角捗捗しからざるは全く此點に於て欠くる所あるが爲めにして大資本家が自から事に當るか又は從來の貿易商が信用を〓にして資金の融通を謀るか孰れにしても右の欠點を〓はざる可らざるに今の富豪と稱せらるる輩は動もすれば株式の賣買を試み一時の奇利を博するを以て能〓〓れりと爲し又實際直輸出入に從事する者も只管目前の利益にのみ汲汲として信用の大切なるを思はず外國の注文品に對して期日を〓へ、見本に異なり〓〓〓〓〓輸出し、一旦外國に注文しながら妄りに拒〓〓〓〓と賣買上の〓〓を顧りみずして自から外國人の不〓〓を招くの〓〓〓〓〓〓ずと云ふ斯の如くなれ〓〓〓〓〓の發達を〓〓〓〓〓るのみか居留地は永く貿易上の中心となりて外商の跋扈を制するの時なかる可し當業者が直輸出入の利益あるを思ひ大に信用を重んじて事に當らんには實効を擧ぐるに於て區區たる政府の保護奬勵の比に非ざる可し我輩の一言する所以なり