「信書秘密の危險」

last updated: 2019-09-29

このページについて

時事新報に掲載された「信書秘密の危險」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

信書秘密の危險

讀者は去る十三日の紙上に記したる郵便物の統計を一覽せられたることならん明治二十年には一億四千三百二十六萬四千百五十三の數が廿九年には五億三百三十五萬九千六百八十二に増したり郵便の發達増加は取りも直さず文明進歩の徴候にして甚だ喜ぶべしと雖も次で去る十六日に掲げたる郵便物の危險に關する表を見るときは前の喜に引換へて忽ち悚然たらざるを得ざる可し即ち二十九年に郵便物の事故は盜難千五百八十八、遺失三百四、紛失四十五、抛棄六百五十八、隱匿五千七百二十八なりと云ふ驚く可き事實に非ずや或は郵便物の増加に隨て事故の數の多きを見るは止むを得ざる次第なりと云はんかなれども試に二十三年度の總數二億二千四百十二萬六千五百三十一の中にて盜難千二百六十三、遺失四百十四、紛失三十九、抛棄二百三十三、隱匿千二百五十九の塲合に〓照すれば〓〓の割合に比して事故の數の非常に増したるの事實は掩ふ可らず盜難又は遺失の如きは實際に免かる可らざる災難にして致方なけれども抛棄隱匿の事故に至りては全く有心故造の罪にして斷じて許す可らず抑も信書の秘密は憲法上に保證せられて法律に定めたる塲合を除くの外は何人も侵すことを得ざるものなり榮譽生命財産は人生の最も〓〓なる權利にして政府の職分は全く此權利を保障するが爲めに外ならず一片の信書小なりと雖も其中には〓〓く〓〓〓なる權利の消長輕重に關するの事項を含むもの少なからず即ち特に其秘密を重んじて苟めにも侵すことを〓さざる所以のものなるに然るに今や人民が〓〓の〓〓を信用して郵便局に託したる信書は集配人等の爲めに路傍に抛棄せられ又は隱匿したるものが〓なく他人に發見せられて如何なる人の手に渡り如何なる塲所にて開封せらるるやも知る可らずと云ふ容易ならざる次第にして斷じて看過するを得ず我輩は飽くまでも信書の秘密を等閑に付したる責任の所在を糺して速に斯る大惡害を妨遏するの處分を希望するものなり然らは其處分は如何す可きやと云ふに事の原因は經費の不足にして年年郵便物の増加にも拘はらず其増加に應ずるの集配人を雇ふを得ず或は永年勤續の集配人も目下の〓活に必要の報酬を得る能はざるが爲め去て他の業務に就くもの多きより止むを得ずして急に雇入るる其雇人は固より集配事務の熟練を缺く其上に給料は勞力を償ふ能はざるの〓〓なりとあれば本來無智〓の常として信書の大切なる理由を解せず單に自信の勞力を省くが爲めに抛棄又は隱匿の事を行ふものあるが爲めなる可し事の〓〓果して然りとすれば之を防ぐ甚だ容易なり即ち相當の〓〓を與へて熟練の輩を雇ひ其監督を嚴にす可きのみ或は當局の〓には經費は豫算の制限する所にして後に支出を〓〓など姑息の〓を爲すものあらんなれども信書の危險は實に人民の榮譽生命財産に〓〓る大事件にして尋常の規例に〓〓す可きに〓〓即ち〓〓の安全を保持し又は其災厄を〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓云云の〓〓〓〓〓〓〓正しく〓る〓〓に〓用す〓〓〓の〓こ〓〓〓〓〓〓〓經費の如き〓〓の〓に〓〓〓して〓て其〓〓〓〓〓〓危險を〓〓し〓〓に足る可しと云ふ我〓當局者が責任を執て緊急〓出を斷じ速に害惡妨遏の處分に出でんことを勸告するものなり抑も我郵便事業の整頓進歩は外國にも其例を見ること稀れなりなど自から誇りたるものが實際に斯る不始末とありては外に對して面目なきは勿論、明年何月の後いよいよ外人雜居の曉に至り其不始末を彼等の眼前に示すこともあらんには事業の不信用を招くのみならず隨て國の價値をも〓さざるを得ず信書不安全の一事は内外共に容易ならざる關係を有するものにこそあれば當局者たるものは自から責任を執り片時も早く處分に及ぶ可きものなり