『比較国会論』 その12

last updated: 2013-01-23

第九章 国会の権利

今や国会の権利即ち国会の為すべき職務を述ぶるの時に到達せり、各国憲法を通覧するときは憲法上に於て国会の職務を規定するに二ヶの主義あることを知るべし、一は概括主義にして他は列挙主義なり、概括主義とは読で字の如く議会の職務を概括的に規定するものにして国会は立法権を行う或は国会は立法権に関与すと規定するが如き是なり、 概括主義の下に於ては国会は一切の立法事業に関与する権利を有するが故に、国会の行為が違憲なりや否やを定むるは其行為が立法権の範囲に属するや否やを見るに在り、 而して此行為が立法権の範囲に属するや否やは形式上及び実質上の二個の方法より観察せざるべからず、 形式上より見るときは法律なる形式を以て現わるるものは悉く立法権の範囲に属すれども、実質上より見るときは如何なる形式を備うるに拘わらず法律の本性に合せざるものは真の法律にあらざるが故に国会に於て此の如き法律を制定するは違憲行為と云わざるべからず、 而して実質上に於ける法律即ち法律の本性を論ずるは法理哲学の範囲に属するが故に、此所に於ては法律に実質上のものと形式上のものとの区別あるよりして、国会の違憲行為にも実質上と形式上との区別あることを知るを以て満足せざるべからず、 茲に注意すべきは仮令概括主義の憲法に於ても国会をして立法以外の職務を行わしむるには法文に於て之を列記せざるべからず、 例えば憲法改正の如き、条約承認の如き、弾劾の提起及び審判の如きは何れも普通立法権の範囲に属せざるが故に、憲法上に特別の規定あるにあらざれば国会は之に関与することを得ざるなり、 列挙主義は概括主義とは正反対にして国会の職務は逐一憲法の明文に於て列記せらる故に、正当の意義よりして国家の立法権に属するものと雖も法文に列記なきものは之を行うことを得ず、 各国憲法上に於て此二主義の分れたるは国家の組織の異なるより生じたるものにして、英、仏、日本及び伊太利の如き単一国家は概括主義を採り、米、独、瑞西の如き連邦国家は列挙主義を採れり、 而して国家の組織と此主義との関係に付ては各国国会の職務を述べたる後に於て詳論する所あるべし。

第一節 英国国会の権利

英国国会の権利を述ぶるに当り第一に定めざるべからざるは国会なる文字の意義なり、今日英国憲法を法律的に論ずる彼の国の学者は何れも英国の主権は国会に在りと断論し、 而して国会なる語を解釈して貴族院及び庶民院のみを意味するものにあらずして国王、貴族院及び庶民院の三者を以て組織せる一国体を意味するものと為し、国王が国会に関して働くときは之を「国会に於ける国王キングインパーリメント(注1)と称す、殊にダイシー(注2)氏は其著英国憲法論(注3)の第一編に於ては「国会主権」(注4)と題し滔々として英国国会の主権性を論究して百有余頁を費やすに至れるが、 氏も又国会なる文字を広義に用いたる一人なり、余は元来此等学者の所説に異議を抱く者なるが故に、左に其要部を抄訳して然る後に於て聊か論ずる所なかるべからず。

英国に於て国会なる語は普通談話の間には一種特別の意義に用ゆれども法律上に於ける国会とは国王、貴族院及び庶民院を総称するものにして、三体相合して、運動するときは之を称して「国会に於ける国王」と云い、此三体を合して国会を組織するものなり、抑も国会主権は法律上英国制度の主要なる特性なり、 而して国会主権とは如何なることを意味するやと云うに、国会主権とは英国憲法に依りて国会が総ての法律を制定、変更及び廃止する権利を有し、其他如何なる人又は如何なる団体と雖ども国会の立法権に超越する権利を有せざることを意味す、 而して法律とは裁判所の強行する規則なれば国会主権なる原則は積極消極の二個の方面より観察することを得べし、 即ち積極面より云うときは国会が其議決を以て新に法律を制定し又は現行法律を変更廃止したるときは裁判所は其議決に服従せざるべからず、 消極面より云うときは英国憲法の下に於ては如何なる人又は如何なる団体と雖も国会の制定法律を変更廃止する規則を制定する権利を有することなし、尤も此原則には一二の例外なきにあらず、 例えば高等法院の判事が国会制定の法律を変更廃止する規則を作る場合の如し、然れども此の如きは国会が直接又は間接に従属的立法を承認したる場合にして之を以て国会以外に独立の立法権を認めたるものと解すべからず、 ブラックストン(注5)氏は説明して言えり、 「夫れ国会なるものは宗教、俗事、内政、航海、刑事等苟も名称を附し得べき一切の事項に関する法律を制定し変更し停止し廃止する最高無限の権力を有するものにして、英国憲法は政府ある以上は必ず何れの処にか存在せざるべからざる絶対無限の専制権を挙げて国会に与えたり、 故に通常法律の及ばざる事項を定むるは総て此非常裁判所の権内に属す、国会は王位継承の事を規定することを得べく、国教を変更することを得べく尚お進んで国家及び国会其ものの組織を変更するが如きも亦其権内に在り、之を要する国会は人力の及ぶ限りは総ての事物一として為し能わざるものなし、 此権力を比喩して「国会の万能」と云う、此の如く国会の権力に抵抗する権力は天下に存在せざるが故に、此権力を運用するの任に当たる国会議員は常に誠実剛毅知識共に尤も卓絶せる人ならざるべからざるは我王国の事情の為めに必要欠くべからざる事なり、何となれば曾て大蔵大臣パーシー氏の言いし如く、国会の外に英国を亡ぼす力を有するものなく、又サー、マシウ、ヘール(注6)の言いし如く、国会は最高の法廷にして他に之を監督するの法廷あらざるが故に万一其政治に誤あるときは王国の臣民は全く救済の途を得ざればなり、 又言少しく過激に亘れども碩学モンテスキュー氏の言を引用せんに氏は言えり「羅馬スパルタカルセージが其自由を失いて亡びたる如く英国も早晩其自由を失いて亡ぶべし、而して其亡ぶるは立法部の腐敗が行政部より甚しきに至るの時に在るべし」と、 更にデ、ローム氏は奇言を以て本論の全旨を尽せり、 而して其言は今や殆んど一の諺と為れり、曰く「英国国会は女子を変じて男子と為し、男子を変じて女子と為すの外何事と雖も為し能わざることなしとは英国法律家の有する根本的原則なり」と、

右の説明を見るときは充分に英国国会の権力を知ることを得べし、然れども余が茲に英国法律家の意見に対して聊か異議を挟むは国会なる文字(注7)の意義に関してなり、彼等は国会の普通意義を変更して国会を以て国王及び上下両院を総合したる名称なりと云うと雖も、之を国会なる文字の起源に徴するに、 此文字は千二百四十六年マシューバリスが当時の国民会(National Council)を言い表わす為めに始めて用いたるものにして爾来一般の用語と為るに至れり、 去れば此語の起源より正当に解するときは此語中には国王を含まざるや明なり、而して余の見たる範囲内に於ては国会なる文字に国王を包含せしめたるはブラックストン氏を以て始となす、 氏は有名なる其著英法註釈(注8)に於て国会を組織する要素は国王、貴族院及び庶民院なり、と説明すれども其理由に至ては別に見るべきものなし、 唯上下両院は集会するも国王自身に於て又代理者を以て開会を命ずるにあらざれば国会は其職務を行う能わずと附加すれども是れ国会なる文字の意義を拡張する理由と為すに足らず、思うに氏が此の如き解釈を為すに至りたるは氏が後に論ずる所の英国の主権は普通君主国の如く君主のみに在らず、又民主国の如く上下両院のみにも在らず、 此三者を合併したる共同団体に在るものなりと認定し、此団体を言い表わすが為めに従来用い来りたる国会なる文字の意義を拡張したるものの如し、 然れども何が故に此共同団体に附するに国会なる文字を以てせざるべからざるや、従来慣用し来りたる文字の意義を変更して此団体に附するの必要何くに在るや、 国会は国会、共同団体は共同団体として各々特別意義を保有せしめ、英国の主権は国会のみにあらずして君主と国会との共同団体に在りと云うに於て何の差閊か之れ有らん、 ブラックストン氏の如き法律の大家が此の如き法語を用ゆるが故に後生英国の学術界に於て国会なる文字に二様の意義を包含し、攻学者の思想に鮮なからざる混雑を来すに至れり。

更に進で論ずるときは国会なる文字を広義に解釈し英国の主権は国会に在りと云うは毫も珍しからざる普通の論定にして之を以て英国制度の特質となすに足らざるなり、 苟も憲法の明文を以て立法権に関与するの権利を国会に与うる立憲君主国に於ては君主と国会と共同して主権機関の地位を有するときは第二章に於て詳論せし所なり、故に法律上より論ずるときは此点に関して英国の制度は他の立憲君主国と異なる所なし、 唯英国の制度が他国の制度と異なる点は政治上の点に在り、政治上より観察するときは英国の主権は君主より貴族に移り、貴族より庶民に移り現今に於ては庶民院は多年伝わり来れる習慣の勢力に依て主権者たるの実権を獲得し君主及び貴族院は庶民院の最後の決定権に服従せざるべからざるの状態に在ることは英国の制度が他の立憲君主国の制度と異なる点にして又英国制度の特質とする所なり、之を要するに英国制度の特質は政治上の点に在りて法律上の点に在らざるなり。

英国国会の権利に関して特に注意すべきは憲法改正の方法なり、何れの国に於ても憲法の改正と普通法律の改正とは手続上に於て多少の差異あれども英国に於ては此間に何等の差異なし、 故に国会は普通法律を改正すると同一の方法を以て何時にても憲法を改正することを得べし、元来形式上より云うときは英国には憲法なるものなし、英国法例全書を始めより終まで捜索するも「コンスチチューショナル、ロー」なる名称を以て発布せられたる法律は一として見出すこと能わず、是れ仏国の或る学者が英国に憲法なしと放言したる所以なり、 然れども実質上より見て其名称如何に拘わらず国家の根本法を以て憲法なりとするときは千二百十五年大憲章マグナカアーターの発布以来此種に属する法律は数うるに遑あらず、 而して此等の諸法律集りて英国憲法を構成するものなるが、此等の諸法律と他の一般法律との間に於て其改正手続に何等の差異なきは特に注意すべきことなり。

次に述ぶべきは貴族院の司法権なり、英国貴族院は三ヶの場合に於て司法権を行う、即ち第一は貴族の犯罪を審判する為めに刑事裁判所を構成す、貴族院の裁判権に服従する貴族は普通の貴族ピーアのみにして所謂僧貴族及び法務貴族なるものを包含せず、 又貴族の犯罪は総て貴族院の裁判管轄に属すべきものにあらずして単に叛逆罪、重罪及び其隠匿罪のみに限らる、而して此等犯罪に関する管轄権も独占的のものにあらずして若し国会閉会中に告訴の提起あるときは「ロード、ハイ、スチュワード」(注9)の法廷に於て之を審判せざるべからず、此法廷に於ける陪審官は国会の貴族中より組成し、其罪状にして叛逆罪及び其隠匿罪なるときは僧貴族を除きたる全議員を以て陪審官と為す、 貴族院が刑事法廷として開会せる場合に於ては其裁判長は議長たる大法官にあらずして臨時に選任せらるる「ロード、ハイ、スチュワード(注10)」なりとす、 第二に貴族院は或る種類の事件に付最高控訴院と為ることあり、此場合に於て総議員は裁判官と為れども特に法務議員三名以上の出席あるにあらざれば裁判を為すことを得ざるの制限あり、 第三に貴族院は弾劾事件を審判する為めに弾劾裁判所と為る、弾劾事件は庶民院の決議に依て開始せらるるものにして、庶民院に於て此決議を為したるときは委員会に於て総議員は裁判官と為れども特に法務議員三名以上の出席あるにあらざれば裁判を為すことを得ざるの制限あり、 第三に貴族院は弾劾事件を審判する為めに弾劾裁判所と為る、弾劾事件は庶民院の決議に依て開始せらるるものにして、庶民院に於て此決議を為したるときは委員会に於て弾劾状を認めて之を貴族院に提出す、 貴族院に於ては被告人が貴族なるときは「ロード、ハイ、スチュワード(注11)」を以て裁判長と為し、被告人が平民なるときは大法官を以て裁判長と為す、貴族院に於て有罪と決定するも庶民院議長の要求あるにあらざれば判決を宣告することを得ず、 弾劾事件は千七百八十八年より七ヶ年間に亘りし有名なるヘスチング事件に続て千八百五年より六ヶ年間に亘りしメルヴィル卿の審判を以て最後と為す、此制度は最早英国に用なく事実上に於て廃絶に帰したるものと云うべし。

第二節 合衆国国会の権利

一、憲法修正に関与するの権、 合衆国国会は単独にて憲法を修正するの権利を有せずと雖ども他の機関と共同して修正を完了することを得べし、 而して憲法修正に関して現行憲法の規定する所は稍々複雑に亘れども最も了解し易き方法を以て之を説明せんに其方法は分れて二段と為る、 即ち第一は修正案の提出にして第二は修正案の批准なり、而して修正案の提出及び批准にも亦各々二ヶの方法あり、

一、
両院は何時にても憲法の修正を発議することを得べし、而して其修正案は両院に於て三分の二の多数決に依て通過せざるべからず、
二、
各州三分の二の立法部の要求あるときは国会は別に憲法修正会議を召集せざるべからず、而して此会議の構成并に召集の方法等に関しては憲法上何等の規定なきが故に国会制定の法律を以て自由に之を定むることを得べし、

以上二ヶの方法中何れか其一に依て憲法案を可決すと雖も修正案は未だ其効力を生ぜず、之を有効ならしむるには各州四分の三の立法部に於て之を批准するか、 又は各州四分の三の人民会議に於て之を批准せざるべからず、而して其修正案を批准せしむるに二者何れの方法に依るべきやは国会の決する所にして国会は其選ぶ所に依て自由に之を定むることを得べし、 去れば憲法修正は左の四ヶの方法に依て成し遂げらるることを知るべし、

一、
国会に於て修正案を提出し之を可決し、各州四分の三の立法部に於て之を批准したるとき、
二、
国会に於て修正案を提出し之を可決し、各州四分の三の人民会議に於て之を批准したるとき、
三、
各州三分の二の立法部の要求に依り国会の召集したる憲法修正会議に於て修正案を可決し、各州四分の三の立法部に於て之を批准したるとき、
四、
各州三分の二の立法部の要求に依り国会の召集したる憲法修正会議に於て修正案を可決し、各州四分の三の人民会議に於て之を批准したるとき、

千七百八十七年現行憲法の発布以来今日に至るまで之に修正を加うること六回に及びたるが何れも第一の方法に依て完成せられたり、 茲に一疑問の生ずるは国会に於て可決したる憲法修正案は普通立法の如く大統領の不裁可権の支配を受くべきものなるや否やに在り、 憲法の明文に依れば両院を通過したる総ての決議は休会決議を除くの外は大統領の不裁可権に服従すべきものなるが故に、憲法修正案の如きも此規定に包含せらるるものなしとも従来の実際は之に反するを以て、米国憲法学者は法文と実際との矛盾を非難するに至れり。

前述せる憲法修正の一般規定に一の制限あり、即ち各州が元老院に於ける平等代表権は其州の承諾あるにあらざれば之を奪うことを得ず、故に憲法の此条項を改正せんとするときは普通手続の外に其州の承諾を得るにあらざれば改正の効力は生ぜざるなり、 元老院に於ける平等代表権とは各州が其大小に拘わらず平等一様に二名ずつの議院を選出する権利を意味す、 此権利は憲法の明文に依て鞏固なる担保を受くれども、理論上より見るときは或る一州の意思を持って国家の意思に抵抗するものにして必要あるときは実力を以て一州を圧迫する革命行為を誘導するものなるが故に政治学上の批難を免るる能わず、 千七百七十七年の連邦憲法第十三条は憲法の如何なる条項と雖も連邦議会の議決と各州立法部の承諾あるにあらざれば之を変更することを得ずと規定せしに拘わらず、 現行憲法を制定せし憲法会議は必要の為めに此規定を無視して革命行為を遂げたることは曾て述べたるが如し。

二、立法権、 合衆国憲法は国会の職務に関して列挙主義を採用せるを以て国会は明文に規定なき行為を為すことを得ず、 今法文の規定する順序に従て其権限内に属する立法行為を述ぶれば左の如し。

一、歳入に関する立法、
凡そ歳入を得るが為めに租税を賦課徴収し及び合衆国の信用に於て他より金銭を借入るるの権利は国会に属す、故に如何なる目的に向て課税すべきや、 如何なる税率に依て課税すべきや、如何なる方法に依て課税すべきや、如何なる条件を以て借入るべきや等の事項に付ては国会は自由に之を決定することを得べし、唯憲法は之に関して二箇の制限を設く、 第一は輸出税に関する制限にして、諸州より輸出する物品に向て租税を賦課することは憲法の絶対に禁止する所なり、 第二は課税の方法に関する制限にして人頭税其他の直接税は人口調査に依て定まりたる人口に比例して賦課せざるべからず、 又間接税デューチー輸入税イムポスト及び物品税エキサイズは全国を通じて均一に賦課せざるべからず、憲法上の制限は以上二ヶに過ぎざれども、 合衆国高等法院は別に宣言して曰く「憲法上の一般原則は各州官吏の俸給地方行政団体等の如き諸州の必要なる政治機関に対して課税することを許さず」と、 而して其理由とする所は斯る機関に課税するは即ち国会をして諸州の組織を破壊せしむるものにして、 連邦制度の下に於ては憲法修正権即ち主権以下の敢て為す能わざる所なりと云うにあり、而して其政治機関の何たるやを定むるは合衆国裁判所の権限内に在り
二、歳出に関する立法、
国家の歳出を定むるは国会の権利なり、故に国会は歳出の数額、種類其他方法を自由に決定することを得べし、而して一切の公金は法律の定むる充当の方法に依るにあらざれば国庫より之を支出することを得ずとは憲法の特に規定する所なり、 唯憲法は歳出の充当方法に関して一の制限を設く、即ち陸軍を募集し、及び之を扶持する為めに使用する金銭の充当は、二年以上の期間を以て定むることを得ず、海軍に関しては何等の制限を設けず
三、外国通商に関する立法、
外国との交通及び貿易に関する法規を定むるは国会の権利に属す、 此権利は大統領の条約締結権と衝突することなきにあらず、一方に於て大統領は各国と通商条約を締結するの権利を有し、他方に於て国会は自由に通商に関する規定を定むることを得るが故に、 国会制定の法律は後に締結したる条約の為めに廃止せられ、又条約は後に制定したる法律の為めに無効に帰せらるることあるは理論上に於ては容易に想像することを得べし、 然れども大統領及び元老院は条約の締結にも立法にも共に関与するが故に実際上に於て此の如き衝突は生ぜざるべし
四、国会通商に関する立法、
各州間の通商及び印度種族との通商に関する法規を定むるは国会の権利に属す、故に諸州及び中央政府の他の機関は此事項に関して関渉することを得ず、但し諸州は各自通商に関する警察規則を設くるの権利を有するは憲法の明文に規定せざるも従来の判決例の認むる所なり
五、帰化に関する立法、
帰化は外国の臣民をして合衆国の臣民と為らしめ之に依て種々の公権を得せしむるものなれば国家の政治に大なる関係を有するものなり、 故に帰化法は統一的なるべく区別的なかるべからず、是れ此法律の制定を各州の立法部に一任せずして中央立法部たる国会の権利に属せし所以なり
六、破産に関する立法、
合衆国全体に通ずる破産法は独り国会の制定し得べきものにして、各州立法部の関与すべきものにあらず
七、貨幣及び度量衡に関する立法、
貨幣を鋳造し其価格及び外国貨幣の価格を定め又度量衡の準位を定むるは国会の権利に属す、 憲法は此権利を国会に与うると同時に他方に於て諸州に対して貨幣を鋳造し紙幣を発行し及び負債弁償に金銀貨幣以外の物件を提供する法律を設くることを禁止せり
八、犯罪に関する立法、
合衆国の証券通貨の偽造に関し、又は外海に於て犯したる海賊重罪及び国際法上の犯罪を定め、之に対する刑罰を設くることは国会の権利に属す
九、郵便事務に関する立法、
郵便局及び郵便道路を設くることは国会の権利に属するが故に、国内の如何なる場所に於て、郵便局を設くるも又如何なる道路を以て郵便道路と為すも其他之に附随して生ずる犯罪を定むる等の事は全く国会の権内に在り
十、著述及び発明に関する立法、
著述者及び発明人に一定の期間其著述及び発明品に対して独占権を担保し学術技芸の進歩を計ることは国会立法の範囲に属す、故に国会は此権能に基きて版権法及び専売特許法等を制定することを得べし
十一、裁判所の設定に関する立法、
合衆国高等法院は憲法の明文に依て直接に設置せらるるものなれども其以下の裁判所を設置するは全く国会の権利に属す、故に国会は其制定法律を以て自由に裁判所を創設し廃止することを得べし
十二、外交、
合衆国大統領は宣戦の権利を有せず、宣戦を為すは国会の権利に属す、但し此権利も他の立法行為と同じく大統領の不裁可権に服従するは論を俟たず、 其他国会は捕獲免状レター ヲブ マーク エンド レプライサル(注12)を附与し、又陸海上捕獲物に関する法規を設くることを得べし(注13)、捕獲免状とは何れの場所を問わず発見次第外国の人民若くは財産を捕獲するの権利を合衆国の官吏若くは私人に与うる委任状にして、捕獲物とは戦争に依て獲得せる総ての人及び物件を意味す
十三、陸海軍制に関する立法、
陸軍を募集し且つ之に扶持すること、海軍を具備し且つ之を扶持すること、陸海軍の法制を定むること、連合の諸法律を執行し内患を鎮圧し外患(注14)を拒くが為めに民兵を募集すること民兵の編制武装軍律を定め且つ合衆国の兵役に充つべき規則を定むるは国会の権利なり、但し将校の任命権及び国会の規定する軍律に従い民兵を操練するの権利は各州に之を留保せざるべからず
十四、連邦制度の下に立たざる地方に関する立法、
国会は次に掲ぐる地方に於て独占の立法権を有す、 (イ)合衆国政府の所在地但し其土地は十哩四方(注15)を超越すべからず、 (ロ)要塞、軍庫、造船所其他必要なる建物を為さんが為めに中央政府が州政府の承諾を得て其州内に於て買収したる総ての場所又は未だ州に編制せられざる領土是れなり
十五、行政命令を発するの権、
国会は以上列記したる権力及び憲法に依て合衆国政府又は其一部又は其官吏に委任したる百般の権力を執行するに必要なる諸規則を制定するの権利を有す、是れ所謂行政命令にして此の命令を制定するの権利は国会に属するが故に国会において適当なる法規を制定するにあらざれば合衆国の政治機関はその運転を停止せざるべからざるに至るべし、

三、元老院に特別なる権利、 元老院は三ヶの特別なる権利を有す、 第一は条約批准権なり、各国と条約を締結するは大統領の権利なれども之を有効ならしむるには元老院に於て出席議員三分の二の同意を得ざるべからず、而して元老院に於て同意せざるときは其条約は内外に対して効力を生ぜざるが故に、合衆国と条約を締結する国は合衆国憲法に此規定あることを知らざるべからず、 第二は任命承認権なり、憲法の明文に依れば大統領の官吏任命権は元老院の為めに一制限を加えらる、 即ち大統領が全権公使、領事、高等法院判事其他の官吏を任命するには元老院の承諾を得ざるべからず、然れども此の如きは実際に於て不便なるが故に憲法は国会制定の法律を以て此制度を除去することを許せり、別言すれば国会は法律を以て諸官吏の任命を所属長官に一任することを得べし、又官吏の停職及び免職に付ては何等の制限なきが故に大統領は自由に之を行うことを得べし、 第三は弾劾審判権なり、元老院の弾劾審判権に関して述ぶべきは何人が被告人と為るや、何人が告発者と為るや、如何なる手続に依て審判を為すや、如何なる宣告を為すやに在り、 (イ)弾劾被告人と為るべき者は合衆国の総ての文官にして叛逆罪、賄賂罪其他の重軽罪を犯したる者なり、故に武官は此裁判権の支配を受けず、是れ武官は別に軍事裁判所の管轄に属すればなり、 又各州の官吏は合衆国の官吏にあらざるが故に此支配の下に在らず、犯罪の当時官吏たりし者も審判手続中に官職に在らざる者は此裁判権に服従すべきや否やは一の疑問なりしが、ベルナップの審判事件は此疑問に対して裁判権に服従すべきものと決せり、 (ロ)弾劾事件の告発者の地位は代議院の独占する所にして其他何者も告発者と為ることを得ず、 代議院は告発を為すに必要なる方法を定むることを得べし、 (ハ)代議院が弾劾の告発を為したるときは元老院は之を受理して審判法廷を開かざるべからず、此場合に於ては特別に宣誓の式を履むことを要す、而して大統領が被告人なるときは、高等法院の裁判長を以て議長と為す、又出席議員三分の二の同意あるにあらざれば有罪の宣告を為すことを得ず、 (ニ)弾劾法廷の下すべき判決は被告人の職務を免し又合衆国に於て名誉信託及び利益を受くべき職務を行う権利を剥奪するに在りて其他に及ばず、故に弾劾法廷は被告人に対して罰金、体刑其他刑事上の処罰を加うることを得ず、但し弾劾の判決は普通法上に於ける被告人の責任を免除するものにあらざるが故に通常裁判所は普通法に従て、被告人を審問処罰するに於て毫も制限せらるることなし。

第三節 独逸国会の権利

一、憲法改正の権利、 独逸憲法の改正は普通立法の手続に依て行わる、 唯憲法は之に関して二ヶの制限を設けり、 第一は参議院に於て十四票の反対あるときは改正案は否決せられたるものと看做す、而して衆議院は二十五州を代表せる五十八名の議院を包含し其中の十七名は普魯西議院なるが故に、他の二十四州は憲法を改正せんとするも普魯西一州に於て之を拒むことを得べく、又普魯西を初めとして其他の諸州聯合して憲法を改正せんとするもバイエルンザクセン及びウユルデンブルクの三州合同して反対すれば改正することを得ず、代議院に関しては何等の制限なきが故に通常の法案と同じく出席議員の単純多数を以て之を決するものとす、 第二の制限は帝国と各州との関係に於て各州に対して特権を保障したる憲法上の規定は此特権を有する各州の承諾あるにあらざれば之を変更することを得ずと云うにあり、 憲法上に於て此種に属する権利は甚だ多し、例えば参議院に於て帝国の陸海軍制度及び租税の改正に関して意見の分れたるときに於ける普魯西の決定権、参議院内の外交委員会におけるバハリアの議長権及び同会に於けるサクソニー及びウルデンベルヒの上席権等の如し。

憲法の改正は普通の立法行為と同じく皇帝の不裁可権に服従するものにあらず、故に前述の方法に依りて改正案が両院を通過したるときは憲法の改正は完成せらるべし。

二、立法権、 独逸国会は合衆国国会と同じく憲法に列記せられたるものの外立法権を行うことを得ず、而して国会の立法事項に関する憲法の規定は逐一説明するの要なきが故に左に其条文を掲載すべし。

第四条

帝国の監督及び帝国の立法に属するものは左の如し、

  • 一、此憲法第三条の規定に於て許さざる移転の自由、本国及び滞在地の関係、国民権、施行権、外国人、警察及び商業保険に関する規定、但しバイエルンに於ては本国及び滞在地の関係并に独逸以外の国に殖民し及び移住することに関する事項を除く、
  • 二、関税及び貿易に関する立法并に帝国の政費に使用する租税、
  • 三、貨幣及び度量衡法の規定并に換不換紙幣発行に関する規定、
  • 四、銀行に関する一般の規定、
  • 五、発明品の専売特許、
  • 六、精神上の所有権保護、
  • 七、外国に於ける独逸人の商業及び航海并に船旗に対する保護の方法帝国の任命すべき領事組織、
  • 八、鉄道規則(バイエルンは此憲法第四十六条の規定に依る)并に国防及び一般交通の便益の為めに設くる道路及び水路の建設、
  • 九、数個国共有の水路に於て営む渡船業及び筏乗業并に水路営繕の体裁及び其他水路税並に航海目標、
  • 十、郵便及び電信法但しバイエルン及びウユルンデンベルク両国は此憲法第五十二条の規定に依る、
  • 十一、民事裁判の宣告を相互に執行すること、及び申請一般の指命に関する規定、
  • 十二、公正証書の公証に関する規定、
  • 十三、総ての私法刑法及び訴訟法に関する一般の立法、
  • 十四、帝国陸海軍軍制、
  • 十五、衛生并に獣疫警察規則、
  • 十六、出版及び結社に関する規定、

第三十五条

帝国は特に一般の税法連邦領地内に於て収穫する塩、煙草、火酒、麦酒、人参又は他の内国産物より製造したる砂糖及び糖蜜の租税并に連邦部国の消税の密売に対する相互の保護及び其同関税区画外の地に要する規定等に関する立法権を有す(注16)バイエルンウユルンデンベルグ及びバーデンに於ては内国の火酒及び麦酒の税法は各自の立法権に依る、 但し此の種類の物品に対する税法は勉めて等一の方針を取るを要す

第三十六条

関税及び第三十五条の消費税の徴収并に監督は連邦部国に於て従来実施し来りたるものに限り其領地内に於て之に委任すべきものとす、 皇帝は連邦議会委員の承諾を経て連邦部国の関税若くは租税局及び租税本庁に置きたる帝国官吏に依り税法上の施行を監督せしむ、 其同法律(第三十五条)の施行に関し此官吏が発見せる欠点に付き報告するときは之を連邦議会に提出して其議事に附す

第三十八条

関税及び第三十五条に規定したる帝国の立法に依れる租税の収入高は之を帝国国庫に納むべし、此収入高は関税及び其他の租税より左の諸項を引去りしものより成る

  • 一、法律若くは一般の行政規則に依り変換すべき租税額及び軽減すべき租税額、
  • 二、不当徴収租税の払戻権、
  • 三、租税の徴収及び管理費、
    • (イ)国税に在ては外国に接する国境及び郡に於て関税の保護及び徴収の為め要する費用、
    • (ロ)塩税に在ては塩税の徴収及び監督の為め製塩所に置きたる官吏の俸給
    • (ハ)人参糖及び煙草税に在ては時々連邦議会の決議に依り此税の為めに連邦部国の政府に支給すべき管理費、
    • (ニ)其他の租税に在ては収入全額の百分の十五、

共同関税区画外に在る領地は貨幣を支出し帝国の経費を負担すべきものとす、バイエルンウユルデンベルグ及びバーデンは帝国の国庫に納むべき火酒及び麦酒税并に前項の一定の貨幣を負担せざるものとす

第四十一条

独逸帝国国防の為め或は共同交通の為め必要と認めたる鉄道は其通過する部国の異議ありと雖も連邦部国の主権を害せざる限りは帝国の法律に依り帝国の経費を以て之を敷設し若くは一個人に之を許可し、土地買収権を附与す、 在来の鉄道会社は新に敷設する鉄道に対し其費用を以てする接続線を承諾するの義務あるものとす、在来の鉄道会社に附与したる並行線若くは競争線の敷設に対する拒否権に関する法律は帝国一般に之を廃止す、 但し既得権は妨害せらるることなし、将来許可すべき免許に於ても拒否権を附与することなし

第五十二条

帝国は郵便電信の特権公衆に対する権義関係、郵便税免除に係る立法権を専有す、 但しバイエルンウユルデンベルグ両国の内部交通に係る規則及び郵便税は此限りにあらず、 又電信往復手数料を定むることも此制限に依るべし、帝国は外国と郵便及び電信交通の事を定むるの権を有す、 但しバイエルン及びウユルデンベルグに於て帝国に属せざる隣国と直接交通の事を定むるは別事とす、 即ち千八百六十七年十一月二十三日の郵便条約第四十九条の規定を適用す、 バイエルン及びウユルデンベルグ両国は帝国国庫に納むべき郵便及び電信収入額に関係なきものとす

第六十九条

帝国の歳出は毎年予算を立て之を帝国歳計予算表に製すべし、帝国歳計予算表は年度の開始前に於て左の原則に依り法律を以て確定す

第七十条

共同の支出に充つべきものは前年度の剰余金并に関税共同の消費税及び郵便電信より生ずる共同の収入とす、 此収入を以て共同の支出を充すに足らざるときは帝国税を設けざる間は連邦部国の人口に応じて出金すべき分担額を以て補充すべし、其金額は予算の定額内に於て帝国宰相之を布達す

第七十一条

共同の支出は通常一年度に向て承認すべし、但し特別の場合に在ては数年度に渉り承認を為すことを得、 第六十条に定めたる期限内に於ける軍隊の経費予算は唯連邦議会及び帝国議会に参考として提出するのみ

第七十二条

帝国収入の支出に関し帝国宰相は承認(注17)の為め連邦議会及び帝国議会に決算を提出すべし

第七十三条

非常支出を要する場合に在ては帝国立法の手続きに依り帝国の義務に於て公債を起し公債証書を作り之に充べし

三、条約批准権、 各国と条約を締結するは皇帝の権利なれども、其条約が帝国立法の範囲に属する事項なるときは国会の批准を経ざれば覊束力を生ぜず。

四、参議院の裁判権、 参議院は四ヶの場合に於て裁判権を行う、 (イ)連邦間の訴訟にして民事にあらざるが為めに、管轄裁判所に於て判決すべからざる事件は当事者一方の申請あるときは之を処分せざるべからず、 (ロ)各邦間に起る憲法上の争議にして憲法に於て之を裁定すべき官衙の設置あらざるときは当事者一方の請求に依りて之を調和せざるべからず、若し其調和にして効を奏せざるときは帝国立法の方法に依りて之を処分す、 (ハ)連邦の一に於て何人に対しても裁判を拒絶し其他適法なる救済を与えざるときは参議院は被害者の請求に依りて適当なる救済を為さしむるが為めに其邦を強制することを得べし、 (ニ)参議院は連邦中に於て憲法上の義務を尽さざるものありや否やを決定し、若し其義務を尽さざるものあるときは皇帝に対して強制執行を要求することを得べし。

第四節 フランス国会の権利

一、憲法改正に関与するの権、 現行仏国憲法上に於ける憲法改正の規定を述ぶるに先立ち旧憲法中に規定せる改正の方法を述ぶるは多少の趣味なかるべからず、 仏国に於ては千七百九十一年以来千八百七十五年の現行憲法に至るまで憲法を改正すること十二回の多きに及び、之が為めに仏国は憲法不鞏固の名を受くるに至れり、今其改正せられたる憲法を示せば左の如し。

  • 一、千七百九十一年の王政憲法
  • 二、千七百九十三年の共和政憲法
  • 三、千七百九十五年の共和及び総督政憲法
  • 四、千七百九十九年の執政憲法
  • 五、千八百四年の帝政憲法
  • 六、千八百十四年の仮政府憲法
  • 七、千八百十四年の欽定憲法
  • 八、千八百十五年の憲法補則
  • 九、千八百三十年の欽定憲法
  • 十、千八百四十八年共和制憲法
  • 十一、千八百五十二年の第二帝政憲法
  • 十二、千八百七十五年の現行共和制憲法

千七百九十一年の王政憲法は一院制を採用したれども国会は憲法改正の権利を有せず、憲法の改正は別に構成する改正議会に於て之を為することと定めたり、而して軽忽に憲法を改正するの弊を防がんが為めに憲法は修正議会の召集を困難ならしめ、其権限を制限することに勉めたり、 即ち此目的を以て設けたる条項に依れば、通常国会議員の任期は二ヶ年にして憲法の修正は引続きたる三ヶの国会が憲法中の或る条項を修正するの意思を発表したる後にあらざれば之に着手することを得ず、而して三個の国会が引続て修正を決議したるときは次期の国会には別に二百四十九名の議員を増加し、之を合して修正議会を構成せり、此の如くにして構成せられたる修正議会は憲法の如何なる条項をも修正するの権限を有するにあらずして単に前国会に於て決議したる条項のみに付て修正を加うるの権利を有するに過ぎざりしが故に憲法全部の改正は憲法の許さざる所なりしなり、 修正議会は其職務を完了すると同時に二百四十九名の増加議員は退きて国会は再び通常に復す、 去れば此憲法の効力を有する間は如何なる事情あるも憲法の修正は最初国会に於て決議を為したる時より六ヶ年の後にあらざれば之を果たすこと能わず、憲法制定者は此の如き方法を以て憲法の修正を困難ならしめたるに拘わらず尚お之を以て満足せずして更に規定を設けて此憲法発布以来相続きて集会する二個の国会は憲法修正を建議する権利なきことを定めたるを以て、其予期したる目的に従えば爾来少くとも十ヶ年間は憲法の修正を見ること能わざりしなり、然れども此憲法は其後二年を出でずして革命の為めに破壊せられたり。

千七百九十三年の共和憲法も千七百九十一年の憲法と同じく憲法修正の権利を国会に与えずして他の機関に与えたれども其機関の組織并に修正の発議に関しては前憲法と大に其趣を異にせり、 千七百九十三年の共和憲法に依れば憲法の修正は人民の意思に依て起るものなり、即ち共和諸州の過半数に於ける第一民会の十分の一の要求あるときは国会は全国の第一民会を召集して憲法を修正するが為めに国民議会を開くべきや否やを問わざるべからず、 而して若し国会議会を開くべしと決定したるときは普通国会議員を選挙すると同一の方法を以て其議員を選挙し此の如くにして召集せられたる国民議会は特に召集の原因と為りたる憲法の条項のみに付て修正を加うるの権利を有せり。

千七百九十五年の共和及び総督憲法の制定者も其改正を困難ならしむることに勉めたることは前二憲法の制定者と異なることなし、 此憲法の下に於ては国会は元老院と五百人会との二団体を以て成立す、而して何れの場合に於ても憲法改正の発議は元老院に於て之を為し五百人会に於て之を承諾せざるべからず、其発議及び承認が九年間に於て毎三年を隔てて三回に及びたるときは始めて修正議会を召集す、 修正議会は三ヶ月以上開会することを得ず国会より特に議事に附せられたる事項以外に亘りて討議することを得ず、又修正議会は憲法修正に関する最後の決議を為すにあらずして其決議は更に全国第一民会の承認を経て始めて其効力を生ずるに至る。

千七百九十九年の執政憲法は憲法の改正は元老院のみにて決議し之を人民投票に附することを規定せり、人民は元老院の修正議案に対して可否の投票を為すのみにして討議を為すの機会を与えられざりしなり。

千八百四年の帝政憲法千八百十四年の仮政府憲法及び同年の欽定憲法は憲法の改正に関して何等の規定を設けず。

千八百十五年の憲法補則は同年三月一日ナポレオンジュアンに上陸したる後に於て急速を要する時事の必要よりしてルイ十八世の欽定憲法に補則を加えたるものにして、此憲法の下に於ても憲法の改正は元老院の決議と人民投票とに委したることは千七百九十九年の執政憲法と異なることなし、 唯特に注意すべき著しき差異は此憲法はボルボン王党を再興すること、封建的権利、十分一税及び国立教会を再設すること、国土の売渡を無効と為すの建議を為すことを絶対に禁止せり。

千八百三十年の欽定憲法は憲法の改正に関して何等の規定を設けず。

千八百四十八年の共和政憲法の下に於ては国会は憲法を改正するの権利を有せざれども改正の発議を為すの権利を有せり、 国会議員の任期は三年にして其第三年に於て憲法の全部又は一部を改正するの決議を為すことを得べし、而して此決議は少なくとも各々一ヶ月を隔てたる三回の会議に於て三回之を議決し五百名の議員の投票と其投票の四分の三の多数決に依るにあらざれば之を可決することを得ず、 此の如き方法を以て国会に於て改正の決議を為したるときは更に修正会議の議員を選挙し其会議に於て最後の議決を為す、 修正会議は三ヶ月を超過すべからず、又会議に附せられたる以外の事項に関して修正を加えうることを得ず。

千八百五十二年第二帝政憲法は千七百九十九年の執政憲法と同じく憲法の改正は元老院の議決と人民投票の承認とに依て決することとなせり。

以上述べたるものは旧憲法中に於ける改正の方法なるが現行憲法の改正方法は大に従来の方法と異なれるものあるを見る、現行憲法の下に於ては大統領及び上下両院は何時にても改正の発議を為すことを得べし、 改正の発議あるときは両院は之を討議に附す 、而して閣員絶対的過半数の同意を得るにあらざれば之を可決することを得ず、 両院に於て之を可決したるときは両院議員は共に集りて国民議会を構成し、此議会に於て総議員過半数の同意あるときは初めて改正案を可決することを得べし、 此の如く国民議会は普通の国会議員に依て構成せらるると雖も其資格は全く異なれることを注意せざるべからず、即ち一は普通立法機関の議員にして他は憲法を改正する主権機関の議員たる資格を有す、此改正方法の下に於て起るべき問題は各院が予め議事に附すべきことを決定せざりし事件に付ても議決することを得るや否やにあり、若し各院の議決にして一般的のものなるときは国民議会は如何なる事件に付ても改正の議決を為し得べきは論なしと雖も改正事件を特定したるときは如何或る仏国憲法学者は此の如き問題は単に理論上に止まるものにして実際に於ては何等の効用なきものと言えり、 其故は国会議長と国民議会の議員とは同一の人なるが故に国民議会に於て国会の特定せざりし事件を討議するときは国会は之に対して承認を為したるものと看做さざるべからずと云うに在り、 然れども余の考うる所に依れば此説は到底皮想の見たるを免れず、 何となれば元老院議員は三百十二名にして代議院議員は五百八十四名の多きに達せるが故に国民議会に於ける代議院議員は全く元老院議員を圧倒することを得べし、 従て各院格別に為したる議決と両院合同して為したる議決とは必ずしも一致するものにあらざればなり、 故に他の憲法学者は此の如き場合に於ては大統領は元老院の同意を経て代議院を解散し、従て国民議会を中止するの外他に良法なきことを断言せり。

二、立法権、 千八百七十五年二月二十五日の公権組織に関する仏国憲法第一条は国家の立法権は元老院及び代議院の両院に依り行使すと規定して其他之に関して何等の制限を設けざるが故に仏国国会は其適当と信ずる如何なる事件に付ても自由に立法行為を為すことを得べし。

三、条約承認権、 憲法は大統領に与うるに条約締結権を以てすると同時に、彼に負わしむるに国家の利益及び安寧に害なき限りは成る可く速に之を両院に報告するの義務を以てせり、 若し又其条約にして平和若くは通商に関するものなるか、仏国の財政に関するものなるか、若くは外国に於ける仏国人の身体或は財産に関するものなるときは両院の承諾を経るにあらざれば覇束力を生ぜず、又領土の譲与変更及び獲得は法律を以てするにあらざれば其効力を生せず、 故に仏国と条約を締結せんとする諸外国は憲法の此規定を詳知せざるべからず、此規定に該当する条約にして国会の承諾を経ざるものは国際法の原理に依りて仏国を強制することを得ず、而して吾人が想像し得べき殆んど総ての条約は此規定に関係せざるものなかるべし。

四、元老院の裁判権、 元老院は二ヶの場合に於て裁判権を行う、第一は大統領及び国務大臣に対して弾劾の審判を為す場合にして第二は国家の安寧に関する犯罪者を審判する場合なり、大統領は大逆罪を犯したる場合に限り弾劾事件の被告人と為り、国務大臣は其職務執行中の犯罪に限り被告人と為る、弾劾事件は代議院の告訴を待て受理すべきものにして元老院は自ら進で之を審判するの権利を有せず、 弾劾事件の手続及び其判決は国会制定の法律を以て自由に之を定むることを得べく従て官職を剥奪し自由刑及び体刑を科することを得べし、国家の安寧に関する一般の犯罪を審判する場合に於ては元老院は大統領の命令に依て裁判所を構成するものにして此命令なき間は自ら法廷を組織することを得ず、此事件に於ける訴訟手続及び判決も亦法律に依て之を定む。

第五節 日本国会の権利

一、憲法改正に関与するの権、 日本憲法の改正方法が各国憲法の改正方法と異なる主要の点は国会に改正議案の提出権を与えざるに在り、是れ恐らくは日本憲法の特質ならん、憲法第七十四条の規定に依れば憲法改正案を提出するは天皇の特権にして其他何者と雖も法律上此権利に関渉することを得ず、 唯国会は後に述ぶる如く上奏権を有し、上奏事項の範囲は限定せられざるを以て此権利に基きて憲法の改正を上奏するは自由なり、 憲法を改正するには勅命を以て議案を提出す、此場合に於ては両院各々其総議員三分の二以上出席するにあらざれば議事を開くことを得ず、 出席議員三分の二以上の多数を得るにあらざれば改正の議決を為すことを得ず、又摂政を置くの間は決して之を改正することを許さず、更に議院法第六十七条は各議院は憲法を変更する請願を受くることを得ずと規定せり。

二、立法権、 憲法第五条は天皇は帝国議会の協賛を以て立法権を行うと規定し、又第三十七条は凡て法律は帝国議会の協賛を経るを要すと規定せるを以て苟も法律なる形式を以て現わるる事柄は総て国会の議決を経ざるべからず。

三、建議権、 両院は法律又は其他の事件に付き各々其意見を政府に建議するの権利を有す、但し其の採納を得ざるものは同会期中に於て再び建議することを得ず、 建議とは議院自ら其意見又は希望を表白し政府に対して注意を与うるを云う、而して其建議すべき事項に関しては何等の制限なきが故に凡そ政府の事務に属する事は上は憲法の改正及び天皇の大権より下は軍事外交教育等の一国(注18)政略に関する事些細なる行政上の事に至るまで一として建議を為し得ざるものなし、国会が法律に関して建議することを得るに付ては一言の説明なかるべからず、 蓋し国会は自ら法律案を提出するの権利を有すと雖も或る場合に於ては議院自ら法律案を起草するときは繁雑にして甚だしき不便を感ずることあり、 此の如き場合に於ては其意見を政府に通知し政府をして法律案を起草せしむるを便利なりとす、是れ議院自ら法律案提出の権利あるに拘わらず尚お是に建議権を与えたる所以なりとす、而して建議なるものは之を採用すると否とは全く政府の自由なり、 又政府が議院の建議に依りて法律案を起草したる場合に於ても議院は必ずしも之に同意するを要せず、又同会期中に於て同一事項に付き再三建議することを得るとせば紛議強迫に渉るの恐れなきにあらざるを以て憲法は之を許さず。

四、上奏権、 両院は各々天皇に上奏することを得るべし、上奏は建議と同じく両院が各々其意見又は希望を表白する場合に於て用ゆる方法なりと雖も、其建議と異なる点は建議は政府に対して之を為し上奏は直接に天皇に対して之を為す、 而して上奏は議会開会の勅語に対する答辞又は外交軍務の如き天皇に属する事に付て之を為すを通例とすと雖も政府を監督するが為めにも亦之を用ゆるものなり、 日本憲法は国会に大臣弾劾権を与えざるが故に国会は上奏権を以て之を監督するの外他に途なきなり。

五、緊急勅令事後承諾の権、 緊急勅令とは天皇が公共の安寧を保持し又は其災厄を避くるが為め緊急の必要に依り国会閉会の場合に於て発する命令にして法律に代るべき効力を有するものなり、 此命令を発したるときは政府は次の会期に於て国会に之を提出し其承諾を得ざるべからず、若し国会に於て之を承諾せざるときは政府は将来に向て其効力を失うことを公布せざるべからず、 憲法起草者の独りは緊急勅令に関し四箇の疑問を設けて其解釈を試みたり、 今其大要を挙げんに第一、国会にして其勅令を承諾したるときは其効力は如何、曰く更に公布を待たずして勅令は将来に向て法律の効力を継続す、 第二、国会にして此勅令を承諾せざるときは如何、政府は此勅令の効力を失うことを公布すると同時に其廃止変更したる法律は総て旧に復す、 第三、国会が承諾を拒むときは尚お其前日に遡て勅令の効力を取消すことを得るや、曰く憲法已に天皇に緊急勅令を発することを許したるが故に其勅令の存する間は其効力を有することは論なし、故に将来法律として継続することを拒むを得るも過去に於て効力を抹殺すること能わず、 第四、政府若し次の会期に於て之を国会に提出せざるか、或は国会が其承諾を拒みたる後政府其廃止の命を発せざるときは如何、曰く政府は素より憲法違反の責を免れず然れども緊急勅令其効力を失うは其無効を公布したる日に始まるが故に斯る場合に於ても人民は之を遵奉する義務あるべし。

六、財政上の協賛権、 国家の財政に関し国会の関与する権利種々あり、 (一) 新に租税を課し及び税率を変更するは法律を以てするにあらざれば之を為すを得ざるを以て国会の協賛を要するは論を俟たず、 (二) 国債を起し及び予算に定めたるものを除くの外国庫の負担と為るべき契約を為すにも国会の協賛を経ざるべからず、 (三) 国家の歳出入は毎年予算を以て国会の協賛を経ざるべかず、 (四) 予算の条項に超過し又は予算の外に生じたる支出あるときは後日国会の承諾を求むることを要す、 (五) 政府は公共の安寧を保持する為め緊急の必要ある場合に於て内外の情勢に依り国会を召集する能わざるときは勅令に依り財政上必要の処分を為すことを得、此場合に於ては次の会期に於て国会に提出し其承諾を求めざるべからず、 (六) 政府は国会の歳入歳出の決算を会計検査院の検査報告と共に之を国会に提出せざるべからず、 (七) 国会に於て予算を議定せず又は予算成立に至らざるときは政府は前年度の予算を執行す。

第六節 伊太利国会の権利

一、憲法改正の権、 伊太利憲法中には憲法の改正に関して何等の規定なし、茲に於てか三ヶの疑問起らざるを得ず、 第一、伊太利憲法は絶対的に改正することを得ざるや、 第二、伊太利憲法を改正するは国王の特権にして其他何者と雖も之に関与することを得ざるや、 第三、伊太利憲法は普通の立法方法を以て之を改正することを得るや是れなり、絶対的に憲法の改正を許さざるは憲法本来の性質と相容れず、憲法は国家の根本法なれば国情の変更に伴うて之が改正を必要とするや論なし、若し絶対的に之が改正を許さずとするときは国家の利益を目的として制定せる憲法は却て其利益を阻害するに至るべし、 故に特別に明文を以て禁止したるときの外何れかの機関は憲法改正の権力を有せざるべからず、現行の伊太利憲法は伊太利統一前千八百四十八年に於て時のサルジニヤ王なるチャーレスアルバートの発布したるものにして欽定憲法の性質を有す、欽定憲法は特別の規定なき限りは改正の権利は独り其制定者若くは其承継者に属するものと論結せざるべからず、 然れども伊太利憲法学者は別に他の議論を唱え憲法中に改正の規定なきは普通の立法手続きを以て改正することを許したるものなりと主張するに至れり、 而して此議論は実際に於て採用せらるる所と為り、従来行われたる数回の改正は何れも通常の立法手続きに依て完成せられたり、故に伊太利は英国と同じく憲法の改正と普通立法の方法との間に何等の差異なきなり。

二、立法権、 伊太利憲法は多数の憲法と同じく国会の立法権に関しては概括主義を採用せるを以て苟も法律の形式を以て現わるる事は悉く国会の議決を要す。

三、条約承認の権、 各国と条約を締結するは国王の特権なれども若し其条約にして財産上の義務を負担するか又は領土の変更に関するものなるときは国会の承認あるにあらざれば効力を生ぜず。

四、元老院の裁判権、 元老院は二個の場合に於て裁判権を行う、 第一は国家の安寧に関する叛逆罪を審判するが為めに高等法院と為り、第二は国務大臣を弾劾するが為めに弾劾裁判所を構成す、 第一の場合は国王の命令に従て裁判所を構成するものにして命令なき間は自ら進で其事件を審判することを得ず、 第二の場合は代議院の告訴に依りて事件を受理す、而して国務大臣は如何なる事件に関して弾劾に附せらるるや又裁判所は如何なる手続きに依て如何なる判決を与うるやは一に特別法の定むる所に依る。

第七節 瑞西国会の権利

瑞西憲法第七十一条は「人民及び各州の権利を除くの外連合の主権は元老院及び代議院を以て成立する連邦議会に於て之を行う」と規定し、又第八十四条には「元老院及び代議院は此憲法に依て連合の権限内に属する一切の事項に付き管轄権を有す、但し他の官庁に附与せられたるものは此限りにあらず」と規定し、其第八十五条に於て国会の権限に属する数多の事項を列挙せり、 此等の事項并に憲法の他の条文に依て国会に附与せる権能を審査するときは、瑞西国会の権限は単に立法権のみに止まらず、行政権及び司法権に及び其権限甚だ広大なるものなり、今憲法中より国会に属する権利を集め之を分類すれば左の如し、

一、憲法改正の権、 瑞西憲法は普通立法の手続に依て改正せらる、故に両院各自及び連邦評議会は憲法改正案を提出することを得べし、而して憲法改正案が両院を通過したるときは可なれども若し一院に於て可決するも他院に於て之を否決したるとき、又は有権者五万人の請求あるときは憲法を改正するや否やに関して人民の直接投票を求めざるべからず、 而して人民投票に於て改正を可とするときは両院を解散し新に組成せられたる議会に於て改正案を起草す、如何なる場合に於ても憲法の改正は最後に之を人民の直接投票に附し其過半数の賛成と及び連邦を組成する過半州の承諾あるにあらざれば其効力を生ぜず、 而して州の承諾を表示するは其州内に於ける人民投票に依て決するものなれば結局憲法の改正は人民の二重投票に依らざるべからず。

二、立法権、 瑞西連邦の各州は憲法に於て制限せられざる範囲内に於ては其州内に於て自由に立法行為を為すことを得べし、 又国会の立法権には制限的なるを以て憲法に依て認められたるものの外立法行為を為すことを得ず、憲法の規定に依れば、 (一)連邦機関の構成其役員の選定并に其俸給に関する立法、 (二)憲法上連邦政府の権限内に属する事項に関する一切の立法、 (三)国家の安全独立及び中立に関する立法、 (四)国内の安寧秩序を保持するが為めの立法、 (五)陸軍制度に関する立法等は国会の権限に属す。

三、行政権、 国会は種々の行政権を行使す、即ち (一) 連邦評議会議員、連邦裁判所の役員、連邦諸機関、連邦陸軍の将校を選定し、其他法律に依て国会に委託せられたる官吏を任命し、又は其任命を承諾すること、 (二) 外国と同盟又は条約を締結すること及び各州が外国又は他州と条約を締結したる場合に於て之を承諾すること、但し連邦評議会又は他州が其条約に対して異議を申出でたるときに限る、 (三) 戦を宣し及び和を講ずること、 (四) 大赦及び特赦を行うこと、 (五) 行政権及び司法権の行使に関して一般の監督を為すこと、 (六) 予算を編成し決算の承認を為し及び国債発行の命令を為すこと是れなり。

四、司法権、 国会は二ヶの場合に於て司法権を行使す、即ち (一) 行政訴訟に関して連邦評議会の与えたる判決に対する控訴事件を審判す、 (二) 各官庁間に起る権限争議事件を審判す。

第八節 国会権利の比較論

一、憲法改正の権利、 以上述べたる七ヶ国の国会が憲法の改正に関与する権利は各々差異あり、其改正を尤も君主的ならしむるものは日本憲法にして尤も民主的ならしむるものは瑞西憲法なり、 憲法の改正に此の如き差異を生ずれば何れも其国体の異なるより生ずるものなるが故に各国の歴史と其政体を見れば此差異の生ずる所以を知るに難からざるべし、 学理上より観察するときは憲法改正の方法は之を二種に分つことを得べし、即ち一は普通法律の改正と同一の方法に依るものにして第二は特別に困難なる方法に依るものなり、英国憲法学者の一人は第一の改正方法に依るものを軟性フレクシブル憲法と云い、第二の方法に依るものを硬性リジット憲法と云えり、英国及び伊太利は第一の方法を採用せるが故に此等二国に於ては憲法の改正と普通法律の改正との間に何等の差異あるを見ず、普通法律を改正すると同一の方法を以て憲法を改正することを得べし、其他の五ヶ国に於ては特別の方法を採れるが故に普通法律に比して一層困難なる方法に依るにあらざれば之を改正することを得ず、 抑も憲法は普通法律の上に位する国家の根本法にして二者全く其性質を異にするが故に之が改正方法に付ても多少の差異を設くるは憲法上の原則と云わざるべからず、 然れども其方法にして厳に失するときは国家の進運を停滞せしむるのみならず、遂には革命の手段に訴えて其改正を促すに至るべし、凡そ社会の情勢が憲法の改正を必要とするに至るときは、如何に厳格なる方法を設けて之を防がんと欲するも決して其効を奏せず、仏国に於ける数多の憲法は種々の方法を設けて之が改正を防止せんと試みたれども其目的を達すること能わず、 何れも革命に依て破壊せられたることを記憶せざるべからず。

二、立法権、 国会の立法権は規定するに概括主義と列記主義とあり、概括主義は単一国の憲法に於て採用せられ列記主義は連邦国の憲法に於て採用せらるることは已に前述せし所なり、英、仏、日本及び伊太利は単一国なるが故に国会の立法権は概括的にして無限なり、苟も法律なる形式を以て現わるるものは如何なる事と雖も国会の議決を要せざるものなし、 之に反して米、独及び瑞西は連邦国にして其憲法は国会の立法権に関して列記主義を採用せるが故に国会は憲法に明定せる事項の外立法を為すことを得ず、此の如く連邦国が列記主義を採用せるに付ては其理由なかるべからず、 蓋し連邦国なるものは政治上の一致を計らんが為めに数箇の小独立国を結合して建設したる一大国家を称するものにして、此国家を建設せんとするに当りては憲法を制定して新国家の機関を創設し、此機関に委するに旧国家の機関に属せし政権を持てす、 然れども新国家の機関は旧国家の機関に属せし総ての政権を悉く取得するにあらずして新国家の政治上の目的を達するに必要なる部分のみに止め、其他の政権は之を旧国家の機関に留存するは近世に於ける連邦国家を組織する通則なり、 故に連邦国家の機関即ち連邦政府の有する政権は単一国政府の有する政権と其範囲を定むる原則を異にせざるべからず、即ち単一国政府は憲法の定むる方法に依て無限に政権を実行することを得れども連邦国政府は憲法上に於て特に認められたる政権の外之を実行することを得ず、 換言すれば連邦国を組織する各州の政府は憲法に於て制限せられざる一切の政権を行うことを得べし、是れ単一国に於ける国会の立法権は概括的にして無限なるも連邦国国会の立法権は列記的にして制限せらるる所以なり、然れども茲に附加して論ぜざるべからざるは以上の事実あるが為めに連邦国を組織する旧国家を目して尚お独立国なりとするは誤れり、 外形上より観察するときは旧国家は依然として其機関を保存して独立国の形体を備うれども実質上より見るときは其実権は已に新国家の機関に移転して僅に其残権を保存せるに過ぎず、而して其残権は新国家の承認に因く者なるが故に新国家は何時にても其全部を取得するの権力を有せざるべからず、去れば連邦国家の成立すると同時に旧国家は独立国たるの要件を失い其機関は其形体を変せずして新国家の地方機関と為りたるものなり、 唯其の権限が単一国に於ける地方機関の権限に比して一層広大なるは連邦国家の組織より生ずる当然の結果にして連邦国と単一国とを区別する主要の点なり、 之を国家学上より観察するも一国家内に数箇の独立国を包含するは国家学原則の許さざる所なれば旧国家を以て尚お独立国なりと主張する独逸公法家の議論は今日に於て到底維持すること能わざるなり。

国会の立法権に関して論ぜざるべからざるは予算の議定権なり、何れの国の国会と雖も予算案の議定権を有せざるものなし、然れども国会が予算案を議定するの形式に至ては二種の区別あり、一は法律の形式を以てするものにして他は法律の形式に依らざるものなり、現今多数の立法国に於ては法律の形式を以て予算を制定す、 英国に於て然り、合衆国に於て然り、独逸憲法第六十九条は「帝国の歳出入は毎年之を予算表に製す予算表は年度の開始前に於て法律を以て確定す」と規定し、千八百七十五年二月二十四日の仏国憲法第八条には「元老院は代議院と同じく法律の発案及び議決の権利を有す但し財政法案は最初代議院に提出し其議決を経ざるべからず」と規定せるを以て予算を以て法律となすこと明なり、 伊太利憲法は予算に関して特別の規定を設けざるが故に普通立法の方法に依て之を制定するものと解釈せざるべからず、 其他普魯西憲法第九十九条は「国家の歳出入は前年度に於て予算に編成す予算は法律を以て之を定む」と規定し、 白耳義憲法第百十五条は「両院は毎年会計法及び予算を議決す」と規定し、予算を以て法律以外に置きたるものの如しと雖も実際に於ては法律の形式を以て之を現定す、 之に反して日本憲法上に於ては予算は法律にあらず、予算は全く法律以外の形式を以て編成し発布せらる、予算は天皇の裁可を要するや否やに関して議論あり、憲法には法律は天皇の裁可を要すと規定して予算の裁可に関して何等の規定なきが故に法文上より論ずれば裁可を要せずと云わざるべからず、然れども実際の慣例は之に反し年々天皇の裁可を経て発布せらる、 瑞西憲法第八十五条第九項に於ては予算の制定に関して規定するも之を法律と為すことを規定せざるが故に日本と同じく法律以外の方法を以て制定せらるべし。

予算の制定に関して此の如き区別の生じたるは全く法律なる観念の異なるより生ずるものなり、予算を以て法律なりとする国に於ては国会を以て立法権を行うものなりとし、国会の議決を以て発表したるものは悉く法律なりとせり、 是れ形式上より法律の意義を定めたるものなり、日本及び瑞西に於ては此主義を採らず、故に仮令国会の議決を経たるものと雖も法律にあらざるものあり、実質上よりして法律とは如何なるものなるやを論ずるは法理哲学の範囲に属す、 然れども予算は国家の歳出入を予想して定めたる一種の見積書に過ぎずして実質上の意義に於ける法律にあらずとは多数学者と共に余の断言する所なり。

三、条約承認権、 英国及び日本に於ては条約を締結するは君主の特権にして国会は如何なる名義を以てするも法律上是に関与することを得ず、 合衆国に於ては条約締結の任に当るものは大統領なれども之をして効力を生ぜしむるには如何なる種類の条約たるを問わず総て元老院の承諾を経ざるべからず、独逸に於ては条約締結権は皇帝に専属すれども外国に対して帝国立法の範囲内に属する条約を締結する場合に限り参議院の同意を要し其条約に効力を有せしむるには代議院の承諾を要す、 仏国憲法は条約締結権を大統領に与うれども其条約にして和親通商に関し、国家の財政又は外国に在る仏人の身分若くは財産に関するものなるときは国会の議決を要すと規定せり、 而して吾人が想像し得べき殆んど総ての条約は此制限の何れかに関係せざるものなし、 伊太利に於ては条約締結権は国王に専属すれども其条約にして財産上の義務若くは領土の変更に関するものなるときは国会の承諾を要す、 瑞西に於ては条約締結権は全く国会に専属し、大統領は之に関して何等の権利を有せず、此の如く国会が条約に関与するの権利は国に依て異なるが故に此点に関して未だ一定の通則を看出すこと能わず、 然れども概して言うときは君主国の国会は条約の締結に関与せざるを定則とし、共和国の国会は之に関与するを通則と為すものの如し。

国会をして条約の締結に関与せしむべきや否やは法理上の問題にあらず、法理上よりして条約の締結権は行政首長に専属せざるべからざる理由を発見せざると共に国会の協賛を必要とする理由をも看出すこと能わず、 条約の締結は国家行政権の発動なるが故に行政首長に専属すべきものにして立法機関たる国会の干渉すべき性質のものにあらずと論ずるは非なり、 国会は立法機関なりとは国会の一般的性質を言い現わしたるものとすれば敢て批難すべきにあらざれども之を以て正確なる定言とするに至ては国会の実質を忘却せるものなり、 現今世界何れの国の国会と雖も単に立法事業のみに関与して毫も其他を顧みざるものは一として存することなし、 或る国会は行政権に関与す、又或る国会は司法権に関与するは已に述べたる所なり、国会を以て純然たる立法機関とするは三権分立説に胚胎するの誤謬の見解にして、啻に其説の陳腐に属するのみならず近世に於ける国会の実質に伴わざる無益の言論と評せざるを得ず。

国会をして条約の締結に関与せしむべきや否やは政略上の問題に属す、而して此問題に対しては総ての立憲国に共通する一定不動の答案を与うべきものにあらずして各国に特別なる事情を観察して格別の答案を附せざるべからず、 君主国の国会が条約の締結に関与する能わざるは歴史上の惰力に依りて君主の権力の尚お強大なるが為めなり、共和国の国会が条約の締結に関与するは民主主義の結果なり、 英国の如き其名は君主国と雖も事実上の民主国に於て条約締結権が独り国王に専属し国会の干渉を許さざるは一見不思議なるが如しと雖も、輿論の勢力強大にして政党内閣の習慣確立し内閣は事実に於て国会に於ける優勢党派の出張所にして君主の名を以て条約を締結するものは内閣なれば、国会は直接に条約締結に関与せざるも間接に而かも尤も確実なる方法を以て之に関与するものと云うべし、 日本憲法に於て条約の締結を以て天皇の大権と為し国家の干渉を排斥せるは欽定憲法より生ずる当然の結果にして憲法政治の初期に於ては免れざる規定なり、唯此規定を如何に活用するかは職に当る者の意識に在り、

四、緊急勅令の承認権、 余が論述する七ヶ国の憲法に於て緊急勅令なるものを認むるは独り日本あるのみ、日本憲法の緊急勅令は普魯西憲法の夫れに模倣したるものなることは二ヶの憲法の条文を対照すれば容易に知ることを得べし、

普魯西憲法第六十三条
公共の安全を保持する為め、又は非常なる災厄を避くる為め、緊急の必要ある場合に於て両院を召集する能わざるときに限り、内閣は連帯責任を以て、憲法に抵触せざる範囲内に於て法律の効力を有する勅令を発布することを得べし、但し次の会期に於て其承諾を求むるが為めに之を両院に提出すべし、
日本憲法第八条
天皇は公共の安全を保持し、又は其災厄を避くる為め、緊急の必要に依り、帝国議会閉会の場合に於て、法律に代るべき勅令を発す、
此勅令は次の会期に於て帝国議会に提出すべし、若し議会に於て承諾せざるときは政府は将来に於ての効力を失うことを公布すべし、

右二ヶの憲法に於て緊急命令を発する条件に於て異なる点は普魯西憲法に於ては「両院を召集する能わざる場合に限り」とあるを以て仮令議会閉会中と雖も両院を召集することを得る場合に之を召集せずして緊急命令を発したるときは違憲たるを免れず、 然れども日本憲法に於ては単に「議会閉会の場合」とあるを以て議会閉会中なるときは之を召集することを得ると否とは問う所にあらず、 緊急命令は国家非常の場合に処する救済方法として一時行政権をして立法権を侵かさしむるものなり、 民主国に於ては此の如き非常権を行政首長に委するの危険を恐るるが故に何れの憲法に於ても之を認めず英国には緊急勅令なるものなしと雖も「責任解除」なるものあり、 英国の君主は緊急勅令を発する憲法上の権利を有せざるが故に、国家非常の場合に於ては内閣は責任を以て憲法に違背する命令を奏請し、後に至り国会に対して其必要なりし理由を説明して責任の解除を求むることを得べし、 然れども是れ緊急勅令とは全く其性質を異にす、緊急勅令は憲法上の命令なれども責任解除は違憲命令に対して事後の承諾を求むる方法なり。

五、司法権、 日本国会を除き其他六ヶ国の国会は何れも或る種類の司法権を行う、但し其権限の範囲に至ては広狭の差なき能わず、 概して言うときは国会をして司法権を行わしむるは全く歴史上の遺物にして今日に於ては到底学理を以て説明する能わざるのみならず其必要をも発見すること能わず、 抑も昔時英国に於て政治機関の各部が国王及び大会議マグナム、コンシリアムより漸次発達せる際に於て、如何にして右二者の間に司法権の分配を為すに至りたるやと云うに、国王の司法代理官は重大なる犯罪を処分するの能力なきが為めに国会は此等大犯罪に対して直接に司法権を行うの必要を生ぜり、 又一方に於て国会は国王に対して責を負わしむる能わざるよりして弾劾を以て諸大臣の責任を定むるの必要を生ぜり、 然れども現今に於ては此等の方法を必要とする理由は全く消滅せり、何となれば司法機関は充分なる発達を遂げ、単に国王を除くの外は如何なる犯罪者をも処罰するに足るべき権力と能力とを有するに至り、 又政党内閣の習慣確立して大臣は庶民院の向背に依て進退するものなれば特に弾劾の方法を以て彼等の政治的責任を問うの要なく従て此方法は百有余年来全く廃絶に帰するに至ればなり、 合衆国憲法の制定者は英国に於ける慣例を模倣せることは疑うべからずと雖も其模倣の甚しからざるは彼等は二国間に存在する事情に差異あることを識別したればなり、 合衆国の元老院が英国の貴族院の如く貴族の犯罪を審判する機能なきは合衆国には貴族なるもの存在せざればなり、 又英国貴族院は最高控訴院と為りて或る種類の犯罪を審判すれども合衆国元老院に此の如き権利なきは此慣例を承継すべき歴史的事情の存在せざるのみならず、合衆国憲法の制定者は三権分立に関する仏国法理の為めに英国の慣例を採用する上に於て甚しく制限せられたることは疑を容れざるなり、 又英国貴族院の弾劾審判権は頗る広闊にして被告人に対して単に官職を剥奪するのみならず刑事上及び民事上の制裁力を加うることを得れども、合衆国元老院の弾劾権は被告人の現職を免じ且つ将来に於て合衆国の公務に就くの権利を剥奪するの二事に制限せられ、其他刑事上及び民事上の制裁は通常裁判所の管轄に属せしめたるは英国制度と大に異なる点にして又合衆国制度の長所なり、 現今英国に於ては弾劾制度の必要なきことは前に述べたる如くなるが合衆国に於ては憲法上此制度を維持すべき適当の理由あり、其故は合衆国には英国の如く政党内閣なるもの存在せざるが故に大統領大臣其他の官吏の非行に対して責任を負わしめ其職を剥奪するは弾劾の方法に依るの外他に途なければなり、 独逸参議院の裁判権は英、米の上院の裁判権と全く其性質を異にし、参議院は官吏を弾劾するの権利を有せず、又如何なる種類たるを問わず通常の民事刑事を審判するの権利を有せず、参議院の裁判権は連邦諸州が平和を攪乱し若くは正義を侵害するを抑制するが為めに一国の政策上より出づるものにして性質上之を通常裁判所の管轄に属せしむべきものにあらず、 之が為めに特別なる機関を設置せざる限りは参議院の管轄に属せしむるは尤も其当を得たるものとして之を賞揚せざるべからず、 仏国元老院の裁判権に至ては英国貴族院の裁判権と同じく現今之を維持すべき適当の理由を発見すること能わず、 憲法第六条には大臣は政府一般の政務に対しては連帯して又自己の行為に関しては各自に両院に対して其責に任ずと規定するを以て、大臣は憲法の明文上国会に対して政治的責任を負うのみならず、事実に於ては代議院の意思に依りて大統領及び諸大臣を辞職せしむることを得れば、 特に弾劾制度を設けて彼等の政治的責任を審判するの要なく、又彼等の刑事事件其他国安を妨害する一般人民の犯罪を審判するの権力を元老院に与うるに至ては到底学理上の説明を加うること能わず、 蓋し社会尚お幼稚にして政治機関未だ完備せず、通常裁判所が巨大なる犯罪人を処分するの能力を有せざる時代に於ては司法権の一部を割いて之を立法部に委するの必要ありと雖も、今日の如く司法制度発達し充分なる智識と独立なる地位を有する裁判官を以て司法の職に当らしむるの時に当ては、 立法部に司法権を委するの理由は已に全く消滅したるものなり、日本憲法が毫も之に類する権力を国会に与えざるは素より当然の事にして、此点に関しては各国の憲法に優ること確かに一歩なりと云うべし、 伊太利及び瑞西の国会が有する司法権に対しても同一の批評を加うることを得べし。

脚注

(1)
Queen-in-Parliament - Wikipedia, the free encyclopedia
(2)
A. V. Dicey - Wikipedia, the free encyclopedia
(3)
Online Library of Liberty - Introduction to the Study of the Law of the Constitution (LF ed.)
(4)
Parliamentary sovereignty - Wikipedia, the free encyclopedia
(5)
William Blackstone - Wikipedia, the free encyclopedia
(6)
Sir Matthew Hale
(7)
原文では「文学」と表記されている。
(8)
Sir William Blackstone, Commentaries on the Laws of England.
(9)
Lord High Steward - Wikipedia, the free encyclopedia. 『英米法辞典』(東京大学出版会)では「貴族院臨時議長」と訳出されている。
(10)
原文では「シチュワード」と表記されている。
(11)
原文では「バイ、シチュワード」と表記されている。
(12)
letter of marque and reprisal. 『英米法辞典』(東京大学出版会)では「捕獲免許状」と訳出されている。
(13)
合衆国憲法第1編8節11項。
(14)
原文では「外冠」と表記されている。
(15)
合衆国憲法第1編8節17項。原文では「十万哩」と表記されている。
(16)
この一文は意味不明。
(17)
原文では「解任」と表記されている。
(18)
原文では「一向」と表記されている。