「秋田縣會」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「秋田縣會」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

秋田縣會

各府縣の樣子を見るに相變らず經費節減知事攻撃など時候おくれの論のみにして甚だ感服

せざる其中に秋田縣會にては去る四日大多數を以て同縣内に於て汽船を購入し航海業に從

事す可き會社を起したるものあるときは奬勵費として其資金に對する年五朱の利子を縣税

より補助し又資金の額は十萬圓を度として東京北海道及び近縣の航路に對し大小二艘以上

の汽船を購求し得べきものには一個年五十圓づゝ五個年間補助す可しとの事を縣知事に建

議するに决し又五千四百餘圓の經費を以て物産陳列所をも設置することに議决したりとの

報あり我輩は同縣會の事情を詳にせざれども兎に角に議决の表面に現はれたる事實を見る

ときは紛々擾々たる府縣會の中に一頭地を抽んでたるものにして近來の快事と認めざるを

得ず抑も國の安寧進歩に大切なるは地方政の始末にして古來經世家の最も苦心したる所な

るに維新以來の有樣を見れば地方の施政は頗る不始末にして我輩の意を得ざるもの少なし

とせず其始め知事の全權を以て一府縣の事を左右したる折には智識も足らず經驗にも乏し

き一人の所見を以て漫に事を斷行し或は道路の開鑿と云ひ或は勸業の保護と云ひ或は敎育

の奬勵と云ひ銘々の所好に任せて一方に趨りたるが故に目的は強ち咎む可きに非ずと雖も

實際に全體の發達を妨げて結果の見る可きものなきのみならず時としては官威を以て人民

に臨み無理に金物を納付せしめたる強迫手段さへ行はれて大に民心を激せしめたることも

なきに非ず然るに府縣會の設置、政黨の流行、引續て國會の開設より地方民の勢力次第に

發達して官吏が權威を弄んで事を斷行するの弊は止みたる其反對に恰も前年の反動として

民權濫用とも稱す可き奇體の風潮を催ほし其氣焔は近年來ますます增長して止まる所を知

らず府縣會の議事は實際その事の要不要を問はず唯經費の節減を以て毎會の例と爲し或は

譯けもなき事に知事の不信任を議するなど殆んど小兒の戯にして前年の反動とは云ひなが

ら暴を以て暴に代はりたるに過ぎず一般の人民こそ迷惑至極にして誠に呆れ果てたる次第

なり本來地方の事は人民の自治に任ずるより善きはなし政府の法律を以て自治の法を示し

強て之を行はしめんとするが如きは實際に無効なれども人智の發達に隨ひ人民が自から地

方の事を始末するは銘々の家を治むると同樣の譯けにして日本の地方民も年來地方官の專

斷に懲り又府縣會議員の亂暴に呆れて次第に自から始末するの必要を感じたることなるに

其人民を代表する議員輩が獨り自から悟らずして尚ほ依然たる擧動とは既に時候におくれ

たるものにして我輩の甚だ感服せざる所なり然るに秋田縣會今回の議决、果して眞實々行

の精神に出でたるものならんには他に一歩を先んじたるものにして先陣の功自から掩ふ可

らず一花春を〓〓〓〓〓を知る他の府縣會員は申す迄もなく國會議員〓〓〓と雖も早く目

下の時候を察して自から悟らずんば〓〓ら殘花〓〓、世間に見捨てらるゝの末路なきを〓

〓〓らず呉れ呉れも注意す可き所のものなり