時事新報社説問題の最終的解決――『福沢諭吉全集』改訂の試み

last updated: 2018-04-29

このテキストについて

平山氏からの依頼により、2016年10月30日に大阪府吹田市関西大学で開催 された日本思想史学会での発表「時事新報社説問題の最終的解決-『福沢諭吉全 集』改訂の試み」の発表要旨と資料及び音声を、平山氏の了解のうえアップロー ドします。

発表要旨

時事新報社説問題の最終的解決-『福沢諭吉全集』改訂の試み

 現行版『福沢諭吉全集』の「時事新報論集」の社説選択に関する疑義についての最初の発表は、日本思想史学会二〇〇一年度大会(関西大学)においてであった。福沢全集に収録されている社説の多くが編纂者石河幹明の手になるものであることを明かしたその発表は反響を呼び、三年後に刊行された『福沢諭吉の真実』によって一般に知られることになった。 

 石河が時事新報の主筆となったのは福沢が脳卒中の発作に倒れた明治三一年(一八九八)一〇月以降のことである。明治一八年四月の石河入社までの分については、二〇一三年度の本学会大会で発表した。時事新報が創刊された明治一五年三月から明治一八年三月までの該期間分三三八編について福沢と推定できる全集未収録社説は四二編あった。二〇一四年度はそれに引き続く明治一八年四月から明治二四年九月までの社説一〇八六編の起草者推定を行った。該期間の推定福沢直筆社説は一七三編であった。さらに二〇一五年度は続く明治二四年一〇月から福沢が脳卒中の発作に倒れる明治三一年九月までを扱った。研究費の都合により網羅的なテキスト化はできなかったが、六七二編中六八編が福沢と判定された。

 二〇一五年度の発表以後新たに三五三編がテキスト化され、福沢健全期の社説二四四九編を網羅的に扱うことが可能となった。福沢語彙に再検討を加えて、新基準で判定し直したところ、抽出されたのは二七八編であった。これらの全集への増補により社説問題は最終的に解決するはずである。

資料

時事新報社説問題の最終的解決―『福沢諭吉全集』改訂の試み
静岡県立大学 平山 洋 
The university of Shizuoka,  Hirayama Yo, PhD
日本思想史学会大会発表
於関西大学・2016年10月30日

①「福沢健全期『時事新報』社説起草者判定」ー研究の経過ー

  • 1.明治15年3月から明治18年3月まで3年1ヶ月分のテキスト化(338編)と判定(科研費2013年度)
  • 2.推定福沢起草社説42編(338編の12.4%)の発見(2013年10月日本思想史学会大会発表)
  • 3.明治18年4月から明治24年9月までの6年6ヶ月分のテキスト化(1086編)と判定(科研費2014年度)
  • 4.推定福沢起草社説173編(1086編の15.9%)の発見(2014年10月日本思想史学会大会発表)
  • 5.明治24年10月から明治31年9月までの7年分のテキスト化(非網羅的672編)と判定(科研費2015年度)
  • 6.推定福沢起草社説68編(672編の10.0%)の発見(2015年10月日本思想史学会大会発表)
  • 7.明治15年3月から明治31年9月まで16年7ヶ月分のテキスト化(2449編)と判定(本務校研究費2016年度)
  • 8.推定福沢起草社説278編(2449編の11.5%)の発見(2016年10月日本思想史学会大会発表〔本学会〕での分析対象)

②平成28年度の判定作業上の留意点

  • 1.福沢語彙の再検討:91語彙から96語彙に(「竊に」と「扨」は石河使用が確認されたため削除)

    身躬から、視做す、冀望、在昔、一系万世、然りと雖、之を譬へば、果たして然らば、三五、落路、際限ある可らず、決して然らず、會釋に及はず、惑溺、朝鮮政府、支那政府、滿清政府、頴敏、直段、成跡、駁撃、知る可らず、捷徑、氣の毒、官民調和、甲鐵、懈怠、憂患、鬱散、繁多、國事多端、談天彫龍、彷彿、實學、盲目千人、目あき千人、囂々、輻輳、恣にする、喙を容る、懶惰、無妄、信向、閑を偸まん、大機關、扨々、坐作、莫逆の朋友、折節、鄙見、慥に、羸弱、妄慢、榮辱、情誼、損毛、緩巖、鼓腹、撃攘、放頓、入組、相會釋する、ならんなれども、屋漏に愧ぢず、缺乏、三舎を讓る、眞成、男子の事にあらず、穎敏、愈愈、計較、敗衂、須臾、覿面、宿昔青雲の志、看做す、鞏固、芽出度、偏頗、小心翼翼、果たして然らば、囂々、王政維新、維新革命、恊議、恐惶、奸智、(以下平成28年度追加語彙)一年三百六十日、姑く擱き、錯雜、一倍、効蹟、桑滄、陳套、覆轍、自尊

  • 2.「語彙使用テキスト抽出ツール」の使用:フォルダに収めたテキストファイルから、各語彙が使用されている

    • テキストを自動的に抽出するツール(次に説明)

③「語彙使用テキスト抽出ツール」について

  • 1.仕組:同一フォルダ内のファイル中の任意の語彙を抽出しCSVで出力し、さらにエクセルで加工処理する
  • 2.効能:きわめて単純な操作で確実に抽出できる
  • 3.長所:windowsのサイト内検索より効率的である
  • 4.短所:テキスト群を収めたフォルダからの抽出のため、本研究代表者(平山)しか運用できない

④平成28年度の判定作業の概略

  • 1.明治15年3月から明治31年9月までの紙面から、全集未収録の2449日分のテキスト化
  • 2.「語彙使用テキスト抽出ツール」によって、福沢語彙・各社説記者語彙使用テキストを抽出
  • 3.2449日分中、福沢語彙7語(1)・6語(1)・5語(18)・4語(62)・3語(196)・2語以下(2171)
  • 4.3語以上を含む278日分を推定福沢起草社説とする

⑤推定福沢起草社説278編の一覧

社説情報 福沢語彙の数
18820309朝鮮国の変乱・1516字 3
18820329言論自由の説・595字 3
18820408立憲帝政党の組織を論ず・板垣退助君の変報・3807字 4
18820420花房公使赴任・1630字 3
18820513一友亞國より歸る・1908字 3
18820620郡區長公撰1・文字数2087字 5
18820622郡區長公撰3・文字数1701字 5
18820722地方の學校・1950字 3
18820817人和論・2061字 5
18820828竹添大書記官歸京・1775字 4
18820907朝鮮交際の多事に処するの政略如何・2029字 3
18820921石川縣會の紛議を論す・3316字 3
18820926不愉快なる地位・2486字 3
18820927朝鮮滞在の兵員・2022字 3
18821020眞宗の運命久しからず・2242字 3
18821108銕道敷設/重ねて賣藥論・2996字 3
18821109養老金の制を設く可し・2131字 3
18821201日本支那の關係・1978字 4
18821214朝鮮開國の先鞭者は誰そ・1979字 4
18821222朝鮮の獨立覺束なし・1922字 3
18821228政治社会の多事・1854字 3
18830110参議長を置くの風説・1892字 3
18830410日本人民の政治の思想・2033字 3
18830503士族の授産宜しく其精神を養ふ可し・2504字 3
18830505文明の交通法は必ずしも高尚ならず・2346字 6
18830614伊太利政府紙幣引換を實行す・2199字 4
18830706清佛の談判如何・1976字 3
18830716江越鉄道敷設に就ての問題・2152字 3
18830806文明の進路を遮ることなかれ・2039字 3
18830813公債証書の騰貴・2119字 3
18830829伊藤參議の心中喜憂孰れか大なるや・2114字 3
18830921朝鮮政務監理の派遣如何・1981字 3
18831019米の輸出正に緊要なり・1628字 3
18831117日本生糸の下落・文字数2564字 3
18840228外國の資本を借來りて銕道を興し以て内國の富源を深くすべ 3
し・2245字
18840303大に鉄道を布設するも商業顛滅の来る気遣ひなし・3169字 3
18840322国の栄辱は必ずしも大事件のみに在らず・1817字 5
18840626税法の未来を想像して今日を警しむ可し・2344字 3
18840627治外法権撤去の直訴・3052字 3
18840715清佛兩國の和戰如何・2315字 3
18840718米國商家の氣風・2159字 4
18840820支那國の運命・2795字・ 3
18840826佛蘭西と支那と戰爭の譯柄・2829字・ 3
18840903攻防の軍畧・2901字 3
18840906東洋國・2447字 3
18840910黒船打ち拂ひ・2396字 4
18840911清廷の忠臣は君命に違ふ可らす・2245字 3
18840916滿清政府を滅ぼすものは西洋日新の文明ならん・2557字 4
18840919佛清事件は歐洲の政治論に關係あり・2024字 3
18840929俎上の肉・2419字 4
18841004必ずしも愛親覺羅氏の祀を絶たず・2028字 3
18841010滿世界に信を失へり・2570字 3
18841014黴毒の蔓延を防止すべし・2478字 3
18841020外情を知らざるの弊害恐る可し・2462字 4
18841022開國の準備遲々すべからず・1853字 3
18841031商機一刻價千金・2678字 4
18841117其利を享る者に其費用を均分すべし・1892字 3
18841118淡水亦陷りたり・2273字 3
18841229榮辱の决する所此一擧に在り・1654字 3
18850105談判は有形の實物を以て結了すること緊要なり・2114字 3
18850110二度の朝鮮事變・2794字 3
18850112日本男兒は人に倚りて事を爲さず・2895字 5
18850116支那の暴兵は片時も朝鮮の地に留む可らず・2418字 3
18850123京城駐在日支の兵は如何す可きや・2210字 4
18850128主戰非戰の別・2189字 4
18850202國權擴張は政府の基礎たり・1741字 4
18850212日本を知らざるの罪なり・2663字 4
18850213朝鮮に行く日本公使の人撰・1736字 3
18850225北京の談判・1832字 3
18850304京城の支那兵は如何して引く可きや・1968字・ 3
18850307條約改正と北京の談判・2102字 3
18850310日清談判、英國の喜憂・1568字 3
18850331朝鮮變亂の禍源・2400字 5
18850403佛國内閣の更迭其影響如何・2637字 4
18850415仏清の和議、支那の幸不幸・1857字 3
18850421拂清の媾和は以て仏蘭西を軽重するに足らず・1880字 4
18850505日本人の外國行は其利害如何・1929字 3
18850615支那貿易に關係する日本の商民と商船・2761字 3
18850625英國の東方政畧・2523字 3
18850915新聞廣告の利用・1944字 3
18851022開國雑居一日も遅疑すべからず・3242字 3
18851104優勝劣敗恐るゝに足らず・2283字 4
18851116人力車夫の取締如何・1850字 4
18860102東洋豪傑の嘆・1574字 3
18860106朝鮮国小なるも日本との関係は小ならず・1746字 4
18860215衣食住の改良・2161字 3
18860216逓信事務の改良・2638字 3
18860219條約改正の必要は獨り日本人の爲めのみに非ず・1770字 3
18860306朝鮮事情・2288字 3
18860309外國に行く者は其往くに任す可し・1734字 3
18860311米國と支那との紛議・2328字 3
18860607華族は不景氣の最も濃厚なる処に住す可し・1767字 3
18860619日本條約改正の影響・1710字 5
18860628金利の説・2188字 3
18860630商売社會の勝敗は正に今日に在り・1814字 4
18860722政府は相塲所に課税干渉す可らす・2046字 4
18860723秘密は何人にも秘密たるべし・1575字 4
18860814演劇改良論續・2357字 3
18860817演劇改良論續(昨日の續)・2707字 3
18860901支那人の活溌なるは文明の利器に由るものなり・2245字 7
18860902今後支那帝國の文明は如何なる可きや・2221字 5
18860908朝鮮の國難は日本の國難なり・2021字 3
18860916官費を歎願するよりも外資を利用す可し・2521字 3
18861013支那の貿易・1650字 3
18861019支那の交際亦難い哉・1973字 3
18861022整理公債の募集に逢いて金穴の去就如何・2865字 3
18861023共同相塲會所設立の噂あり・2300字 4
18861103相塲の陋風は一掃す可し・商賣社會の安寧は重んぜざる可ら 5
ず・2124字
18861108内外商人の交際・1589字 4
18861111今の新聞紙條例・3106字 4
18861116ノルマントンの事變をして日英の交際を妨げしむる勿れ・21 3
17字
18861127偉なる哉英國人の擧動・1709字 3
18861211官廳公務の取扱を商賣風にする事・2491字 4
18870201私立鐵道は名の如く私立ならしむべし・1778字 3
18870203長崎事件、支那の外交官に告ぐ・1588字 3
18870208言ふ可くして行はる可らざる乎・2077字 4
18870215新桑田の租税を免すべし・1849字 3
18870222所得税論の參考・1759字 3
18870414商賣難・2278字 5
18870509小學の教育を僧侶に任する事・1753字 3
18870525閔泳翊氏復た朝鮮に歸り來らんとす・2224字 3
18870803洋行學者の注意・1750字 3
18870903日本社會論・2179字 3
18870924支那朝鮮の外國交際・2481字 3
18871007總理大臣の訓示を讀む・1929字 4
18871015共進會品評會の目的手段・3145字 3
18871018法官の正廉を維持するの説・1733字 3
18871102生絲製法の改良を望む・1776字 3
18871105朝令暮改咎む可らず・2373字 3
18880111時事新報に謝す・1225字 3
18880127米價論・2188字 4
18880308米國の鉄道家に望む・1927字 3
18880309生命保全會社創立・2637字 4
18880403眞成の政治思想を養成すべし・1872字 4
18880516教科書の檢定・1725字 3
18880611獨立の精神・2712字 4
18880614人生の快樂何れの邊に在りや・1896字 4
18880711德育の説・1546字 5
18880712政費の增加・1762字 3
18880725上海事變・1403字 3
18880910政略一變せざれば政費を省く可からず・1995字 3
18880912製〓權の疑問・2050字 3
18881019文學の隆盛は經世の爲に祝すべきや否や・2211字 3
18881020國會は討論會に非ず・1797字 4
18881109ハリソン氏の政策・1487字 3
18881213商賣の廣告法・2287字 4
18881222公立中學校の廢止・1617字 3
18881224日本銀行の株券騰貴・1568字 3
18890109輸出品の免税・1145字 3
18890121宗教家の運動・1501字 3
18890123徴兵令・1970字 3
18890226リヴァプールの歳暮・1659字 3
18890325狂言筋書・1798字 3
18890328實業社會・1968字 3
18890410法律は掛念するに足らず又恃むに足らず・1863字 3
18890417政治壇上には利を説く可らず・讀メール新聞・2684字 5
18890420外國政府は思ふて他日の計に至らざるか・2003字 4
18890518日米の新條約將に成らんとす・2486字 3
18890528官設鐵道賣拂の風説・2030字 3
18890529公園地・芝居の時間・1896字 3
18890601日本の萬國博覽會・3807字 3
18890627僧醫の説・2489字 5
18890720大資本家の要用  1728字 5
18890723法典編纂の不容易・1864字 4
18890919工業社會の名譽・2305字 4
18891005官吏の國會議員・1727字 4
18891017内閣の方向・1738字 3
18891028舊内閣の辭職新内閣の組織・1351字 4
18891031社會の風景を殺了する勿れ・1677字 3
18891130橫濱の運命・1591字 3
18891230警察法・2375字 3
18900306米價をして自然の平準に在らしむ可し2064字 3
18900307明治二十三年度の歳計豫算  1704字 3
18900308東京市區改正  1704字 3
18900319農商務省・2258字 4
18900528國會開設後の内閣・2242字 4
18900609法律の始末・1936字 3
18900618論爭の順序・1836字 3
18900620日秘鑛業會社の失敗・1883字 4
18900711須らく無學なる可し・1800字 3
18900718林政論・2056字 3
18900731二重の撰擧權・輿論は如何・1754字 3
18900802衆議院の議事・2112字 3
18900825重ねて大坂米商會所・1613字 5
18900920壯士を如何せん・1758文字 4
18900930土耳其に使節を遣て條約を訂結す可し・1766字 3
18901027勤儉政略・1401字 3
18910105政府の歳計・2777字 4
18910113擧動を謹む可し・1471字 4
18910326六百萬圓の剰餘金・1424字 3
18910411尚商時代・1460字 3
18910422牧羊業・1868字 3
18910423伊藤内閣も亦見る可きものあり・1525字 3
18910517東京商業會議所・2041字 4
18910601社會復古論・2867字 4
18910623領事・2428文字 3
18910625筋書の趣向・2109字 4
18911006信任投票・1905字 3
18911023軍艦の遭難・1763字 4
18911024聯立内閣組織の手段は如何・2369字 3
18911125議會の論勢・1918字 3
18911126第二期議會の開院式・1274字 3
18911128鐵道買上・2200字 3
18911213議會の成行如何・2171字 3
18920103恩威と愛嬌・1933字 3
18920113衆議院議員の撰擧・1173字 3
18920212輿論の向背・1912字 3
18920227社會の耳目は甚だ聰明なり・2018字 3
18920403都て斷行す可し・文字数1705 3
18920417教育衰退の時機・文字数1695 4
18920709黑幕の運命・1798字 4
18920723民黨の方針・1824字 4
18921202施政の方針・1636字 4
18921215朝鮮國紙幣の發行・1728字 3
18930126今日と爲りては致方なし・3872字 3
18930207官民の交際に就て・1240字 3
18930302政費節減・1355字 4
18930303傳染病研究所の補助費・1206字 3
18930524論より證據・1596字 3
18930530海陸の運輸交通・1575字 3
18930803一時の虚影に非ず・1717字 3
18930808米國の臨時國會に就て・1868字 3
18930823方今の對外思想・1951字 3
18930826政技者の時代・2501字 3
18930913京濱鐵道・2245字 3
18930921利子補給問題・2335字 4
18931110海軍將校の技倆如何・3628字 3
18931208新聞紙條例の改正・1674字 3
18940621ペスト病原の發見・1362字 4
18940624支那兵増發の目的如何・1531字 5
18940626彼れ果して何を爲さんとするか・1535字 4
18940628支那人の心算齟齬せざるや否や・1542字 4
18940718故岩倉公の紀念に就て・1899字 4
18940731平和を破る者は支那政府なり・2106字 3
18940802支那人民・1770字 5
18941011有志の壮丁を使用す可し・1405字 3
18951020大に取る可し・1500字 3
18951024大に散ず可し・1415字 4
18951225第九議會・1012字 3
18951231護國心の消長・1275字 3
18960105植民地の經略は無用なり・1533字 3
18960205英國の擧動如何・1206字 3
18960225東京の地面・1438字 3
18960304國勢擴張は百年の業なり・859字 3
18960327朝鮮國王と露國公使・朝鮮の暴徒を鎭壓す可し・1907字 3
18960530黨員の不平聞くに足らず・1601字 3
18960625斷じて非奬勵法たらしむ可らず・1460字 3
18960929治水の計畫急にす可し・1579字 3
18970204進歩黨の紛議・1889字 3
18970224政黨の主義・1866字 3
18970320定期航海の特別助成金・希臘果して開戰するや否や・2802字 3
18970325希臘の擧動・列國の去就・會計檢査院の爭論・3276字 3
18970331米國の關税改正に就て・人材登用・2978字 3
18970404佛敎の革新・1931字 3
18970423戰爭の成行如何・1387字 3
18970424次は外債募集なる可し・1780字 3
18970427文部省の紛紜・東歐問題の成行如何・3214字 3
18970428大學の始末・露兵傭聘の議に就て・2273字 5
18970725自から時勢を制す可し・1687字 3
18970820伊藤の歸朝を待つ可らず・2005字 3
18970902臺灣鐵道の事業・1712字 3
18970923逓信事業を獨立せしむ可し・1716字 3
18970926圓銀處分法の改正に就て・1755字 3
18971123保證凖備の制限に就て・1679字 3
18971210經濟社會の危機・2096字 3
18971219日本の文明未だ誇るに足らず・1677字 3
18980302紡績業者の覺悟如何・1935字 3
18980413教育の方針・2240字 3
18980504朝鮮獨立の根本を養ふ可し・國民の負擔・2776字 3
18980512沙市の暴徒・京釜鐵道は朝鮮文明の先驅なり・2815字 3
18980518外交の大要を語る可し・1136字 3
18980630何故に男女を區別するや・3113字 3
18980703政治商賣・官吏の任免・日本銀行の公債買入れに就て・4607字 4
18980811又も償金の繰入れか・裁判所の暑中休暇廢す可し・2712字 3
18980820政黨内閣の試驗石・3110字 3
18980902今の政府に分裂の勇氣ありや・1911字 3
18980908繁文縟禮の最も甚だしきもの・4667字 3
18980928支那の政變に就て・憲政黨の長短・3220字 3

⑥推定福沢起草社説278編の概観

  • 1.18890123を除き大事件に関する社説が含まれていない(全集収録済であることを示唆)
  • 2.18820907、18820927、18821201、18821222、18830921、18840820、18850105~18850421、18940624など対外関係関する社説を多く含む(アジア諸国の立場にも配慮したもの)
  • 3.18820620、18820921、18851116、18860814、18900308等、発表当時の生活に密接に関係する社説を多く含む1930年代には無意味化した社説を全集に収録しなかった可能性を示唆)
  • 4.18821214、18840916、18860106、18980504等、1930年代の現実と齟齬する社説を多く含む(全集収録にあたって時局迎合を示唆)

⑦福沢語彙7語・6語・5語使用社説の紹介

  • 18860901支那人の活溌なるは文明の利器に由るものなり・2245字 (2014紹介済)7
  • 18830505文明の交通法は必ずしも高尚ならず・2346字 (2013紹介済)6
  • 18820620郡區長公撰1・2087字(2013紹介済)5
  • 18820622郡區長公撰3・1701字(2013紹介済)5
  • 18820817人和論・2061字 (2013紹介済)5
  • 18840322国の栄辱は必ずしも大事件のみに在らず・1817字 (今回紹介)5
  • 18850112日本男兒は人に倚りて事を爲さず・2895字 (2013紹介済)5
  • 18850331朝鮮變亂の禍源・2400字 (2013紹介済)5
  • 18860619日本條約改正の影響・1710字 (2014紹介済)5
  • 18860902今後支那帝国の文明は如何なる可きや・2221字(2014紹介済)5
  • 18861103相塲の陋風は一掃す可し商賣社會の安寧は重んぜざる可らず・2124字 (2014紹介済)5
  • 18870414商賣難・2278字 (今回紹介)5
  • 18880711德育の説・1546字 (2014紹介済)5
  • 18890417政治壇上には利を説く可らず・讀メール新聞・2684字 (2014紹介済)5
  • 18890627僧醫の説・2489文字 (2014紹介済)5
  • 18890720大資本家の要用・1728字 (2014紹介済)5
  • 18900825重ねて大坂米商會所・1613字 (2014紹介済)5
  • 18940624支那兵増發の目的如何・1531字 (今回紹介)5
  • 18940802支那人民・1770字(2015紹介済)5
  • 18970428大學の始末・露兵傭聘の議に就て・2273字(今回紹介) 5
  • 18840322國の榮辱は必ずしも大事件のみに在らず

外國の交際は虚々實々とは云ひながら人事の實際に於て到底虚を以て成る可きものなし左れば外面を装ひ体裁を飾り以て外國人の歡心を取り以て其膽を奪ひ以て其喜憂を制するが如きは仮令ひ或は一時の策の當るに似たるものあるも僅に少しく前後の照應を考るときは唯是れ無益の勞にして小兒の戯たるに過ぎず政治上の交際に於ても商賣上の取引に於ても其果して然るは古今の實驗に着々見る可き者なり

右の次第なるを以て我輩は日本國民の名義を以て常に日本國の榮辱と利害とを負擔する者なれとも苟も我國の實に無きものを虚飾して外國人の耳目を瞞着せんと欲する者に非ず唯小心翼々自ら省みて其足らざるを足さんとして自家の固有を修るのみならず近時世界の文明に向て國を開たる限りは他に學ぶ可きを學び、傚ふ可きを傚ひ、一切の人事、世界万國に對して後れを取ることなからんとて只管熱心勉強するのみ蓋し有形の事物に於ては實に西洋を師として傳習す可きもの多ければなり

然りと雖ども又一方より考れば文明繁多の今の世界に於て欧米諸國の人が他國の情實を洞察し〓すの明ある可きに非ず殊に東洋の事に關しては目下直接の利害も薄くして随て其観察に精神を勞する者も少なきが爲に東洋の國々に於ては實に大切至極なる事柄にても之を外にしては漠として西洋人の眼前を通過し其思案〓留まらざるもの甚だ多し例へは我日本の開國既に三十年其間に吾人は常に西洋の真面目を知らんことを勉め、西人も亦日本の情實を探らんことを求め、交際日に重さなると雖とも時に或は吾人は西洋人の爲に度外視せらるるにや西人の我事情を知るは吾人が西洋を知るよりも疎なるものあるが如し其實証を得んとならば彼の國人にして久しく日本に在留し最も日本の情に通明なりと稱する文客が其日本の事情を記したる横文の著書を見るに書中或は注意の穎敏にして感心す可きものなきに非ざれとも事の情實を誤るは概して十中の七八と云はざるを得ず我輩の常に遺憾とする所なり

我國情を誤るは尚忍ぶ可しと雖とも爰に忍ぶ可らざるものは我過去現在の有様を評して徃々事實より下たることあるの一事なり我日本國の政事なり商工なり又學問なり開國三十年來大に面目を改め其由て來る所は西洋諸國の文明を師としたるものなりと雖とも凡そ人間社會の一事一物たりとも、無より頓に有を生す可きに非ず、變形は易しと雖とも創造は難し、左れば今日我日本國が今日の文明に達したるは三十年來の創造に非ずして數千百年の舊文明を三十年間に變形せしめ今尚變形の〓中に在るものたるや明なり然るに其變形の際に當ては種々様々の風雨に逢ひ進むに鋭くして却って輕躁の〓を招く者あり、守るに固くして頑陋の咎を蒙る者あり、人事に免れざるの常なれとも西洋の人が片眼を開て此事情の表を視、又裏を察し、表裏孰れか其一面の得失を擧けて性急に判断を下たすが如きは我輩の常に憂る所なり此事情は日本國人が自國に居ては左まで感すること少なしと雖とも外國寄留の店に於ては更に其感覺の切なるものあり万里孤客の身と爲るときは眼中唯日本と外國とあるのみ常に外人に交りて朝々暮々其言を聞き其書を読み其日本國に對して如何の情を抱くやと之を窺ふ其状は恰も子弟にして近隣の人に接し其人々が我骨肉の父母兄弟を評論するを聞て之に耳を欹るものの如く他の片言も身の喜憂たらざるはなし政治商賣教育等の如き大事件は無論、極めて些末の事にして自國の文明に殆と由縁なき箇條にても苟も我日本國人が曲を蒙るものあれば之を見聞して感する所の刺衝苦痛は芒刺〓ならざるなり例へば本日の雑報欄内に掲けたる「見本違ひの相撲」と題したる條は米國在留の我一少年が紐育の「トリビューン」新紙に投書したるものなりと傳聞せり日本の力士が相撲に如何なる勝負するとも意に介するに足らざる譯けなれとも本國を思ふの至情この些末事にまで溢れて自から禁する能はず遂に一筆の勞を取りしものならん其事柄は兒戯に近しと雖とも其情は則ち深し我輩は今少年の痴情を憐むの餘りに兼て我同胞の愛國心を喚起し仮令ひ其身は日本國に留るも苟も我本国の榮辱に関するものは事の大小輕重を問はずして熱心以て自から保護し敢て虚を構えて外人の耳目を瞞着せんとするには非ず唯我國にありのままの事實をありのままに示して外人の妄評を免かれ我至當の榮名を損するなからんことを冀望するのみ

  • 18870414商賣難

今の商賣は難し、ソハ何故に難きやと云ふに世事文明の進歩と共に商賣の區域は次第に廣まり其關係も亦次第に複雑して此間に周旋奔走せんとするには廣く其知見を要すればなり徃昔未開の世の中には商業の規模も小に其仕組も簡單にして商人に限りて別して先見遠畧を要せざりし其一例には我國徳川封建の時代を見るべし、當時商賣取引の區域は單に日本國内に限り代々の製造元が代々の得意先と取引して年々歳々秩序依然毫も變更することなく商賣上の見込を立つるにも亦遠方を見渡すを要せず例へば今日廣く米商賣を爲すものは日本國内の豐凶を知り又時としては西貢ベンゴル等南亞細亞米の相塲をも知り或は之れを輸出せんとすれば英國のロンドン及び濠洲のシドニー等の市塲にて米價の高低する其割合をも知らざる可らざるが故に廣く其知見を要することなれども昔時の米商は狭き米産地の豐凶と狭き米市塲の需要とを視察するを以て十分なれば其商賣に知見を要するの多少廣狹は今昔日を同うして語る可らざるなり英國の學者 ダブリユー カンニンガム氏著英國商工業發達論(千八百八十五年即ち明治十八年ケンブリツヂ大學校出版)中にも熟練の力と思慮の明とは人間の希望を達するの基なれども此力と明とを用ゆるの大小多寡は時と處とに隨て大に異なる所あり例へば遊牧の民の熟練は甚だ粗末なる者にして今日の機關師建築師の精巧緻密なるに比す可らず又彼の耕作人民の思慮は今日の鐵道管理者の思慮の更に周到なるに及ぶ可くも非ず且つ天然力を使用するの氣力と遠大なる報酬を求むるの希望とは今日に至りてますます激切なるを加へたり云々とあり即ち今日文明の人事は規模遠大にして關係する所頗る廣く之を處分するには十分なる熟練と周密なる思慮とを要し此熟練思慮を欠くものは今の人事を支配して身自から出世すること能はざるのみか斯かる人物を以て組織したる國も亦共に出世すること能はざるべし凡そ何事に限らず事の複雜なるものは之を取扱ふ者の智愚如何に因て大に其巧拙を異にすれども其簡單なるものに至りては殆んど其巧拙を辨す可らず例へば今詩を作るに古詩長篇などに至りては押韻用字等の工合を見て直に其巧拙を辨じ是れは初歩の作なり、其れは波瀾老成なりとて市に定價ありと雖ども五言絶句や七言絶句などに至れば詩語碎金をヒネクリ廻はすものが時として殊の外の名詩を作りて忽ち詩の相塲をくるはせることなきに非ず即ち五七言絶句の如き簡單なるものにては老手初歩其巧拙を分つ程の塲所少なきが故ならん商賣の事も先づ其通りにて未開の世の簡單なる商賣は其筋道一定して一應テニヲハを心得れば何人が之を取扱ふも左まで巧拙の差を見ざれども近年世事進歩して商賣の區域ますます廣まり特に外國貿易の繁多なるに隨ひ商賣の性質一層複雜したるに就ては此商賣の事を取扱ふ者の智愚如何に因て大に其巧拙を異にし亦隨て其損益を異にするは勢の自然と云はざるを得ざるなり

智勝愚敗は人事の原則、何れの世にても免る可らざるの數なれども文明複雜の世の中にては其應報特に的面なることは前段陳述する所の如し斯くて今の文明複雜なる世の中にて我國の商人と歐米諸國の商人と兩々相對して孰れが商賣上の思慮熟練に富みて孰れが其所知所見に饒かなるやと云へば我々日本人は赤面の至り又殘念の至りなれども此一問に對しては盖し左右を顧みて他を言はざるを得ざることならん我輩は昨今横濱邊の生絲商賣を見るに付けても亦聊か此に感なきこと能はざるなり抑も昨年中生絲の景氣は實に上々吉にして其向きの商人は滿面の春風空もほんのり櫻色と見迷ふばかりの得意なりしが近來歐洲戰亂の風説ありしより以來生絲の景氣は俄に衰へ一時は殆んど其取引を絶ちたる程の始末なりしに地方生絲荷主の狼狽大方ならず差向き金の工面に窮するものは勿論或は買持の力量ある者までも無暗に賣り急ぎの氣合ありしかば當時横濱の紳商連は斯くては全體の損毛も容易ならず特に歐洲戰亂の説は如何に歸着するや固より豫言すること能はざれども國と國と戰端を開かんとするに其事を秘せずして囂々市に聲言するなどの形跡より察すれば果して事實の戰爭ある可しとも思はれず今少し我慢して徐に景氣の回復するを待つ可しとて口に之を説くのみならず自から奮發して地方荷主の爲めに日歩の割合を下げて其投賣を防がんとすなど頗る周旋苦慮したる由なれども如何せん生絲荷主の面々は文明の世事に迂濶にして海外の知見に乏しきが故に疑心暗鬼、前後の考もなくして唯其商品を賣り去るの早からざらんことを是れ恐れ一二具眼者の盡力も亦其甲斐なかりしのみか外國商人は早く既に此等の情實を看破して一同申合せたるが如くに其手を引き恰も投賣の時節到來を待つの策を建てたるが爲めに我國の商人は知りつゝ巨利を奪はるゝの趣を成したりと云ふ現に昨今爲替相塲が少々下りたるに就き外國商人は少々づゝ生絲の取引を催うする間もなく堪へ堪えし地方の荷主は又々例の投賣を始むるの模樣ありとて其向きの有志者は昨今頗る苦心し居る由に聞けり盖し生絲商賣は商機の最も頴敏に關係の最も複雜したるものにして外國爲替の相塲と云ひ歐洲市塲の景况と云ひ之を觀察して其好商機に投ずるには自から周密遠大なる思慮知見を要することなれども我生絲商人一般の智識は大抵前陳の如しとすれば如何ぞ相率て外國商人の玩弄する所と爲らざるを得んや我國の商人は今の商賣の難きこと復た昔日の比に非ざるを知りて自から其知見を廣むると同時に後進の小壯輩を養成して身の爲め國の爲めに複雜なる商賣の局に當るの覺悟あらんこと我輩の今日に切望する所なり

-18940624支那兵増發の目的如何

支那政府が我國出兵の報に接して驚愕啻ならず更に兵隊を増發するの計畫中なるよしは既に讀者に報道したる所なるが一昨日芝罘發の電報に據れば李鴻章はいよいよ六千の兵を發して朝鮮に向はしめ直に京城に入る筈なりと云ふ曩に牙山に上陸したる支那兵は東學黨鎭壓の爲めと稱して内實は兎も角も名目は自から明白なれども今度の増發は果して何の爲めなるか或は我國の出兵と同樣、人民保護の爲めにてもあらんには他人の與り知らざる所なれども我輩は昨今の事情に照して其目的何れの邊に在るや大に疑なきを得ず聽く所に據れば日本兵の京城に入らんとするや彼の李氏の代表者とも云ふべき袁世凱は大に狼狽して朝鮮政府の官吏をして其入京を止めしめんと試みたれども目的を達せざるより更に親から大鳥公使に向て日本兵の撤去を要求したりと云ふ思ふに我公使は必ず一言の下に彼の要求を拒絶したることならん我輩の敢て疑はざる所なれども去るにても彼は如何なる理由を以て日本の撤兵を要求したるか我輩の不審に堪へざる所なり或は朝鮮官吏の口吻に傚らひ東學黨は支那の威力を以て全く鎭定したり朝鮮の内地は最早や安全にして駐兵の必要なしとの口實を以てしたることならんか日本の出兵は固より人民保護の爲めにして他に挾む所あるに非ずと雖も其進退は我自由にして他の干渉を許す可きに非ず果して自から駐兵の必要なしと認むるときは自から撤去することもある可し彼等が漫りに喙を容るるが如き入らざるお世話とこそ云ふ可きのみ况んや他の撤兵を求めながら自から兵を増發するとは前後不揃の始末にして我輩はますます彼の擧動を疑はざるを得ず抑も朝鮮は獨立自主の國にして其事實は文明諸國の等しく認むる所なれども支那人は中國所屬の邦と稱して之を屬國視し或は漫に其國父たる人を捕へて本國に拘留し或は其内政に干渉するなど年來、不法の擧動少なからず現に李氏の如きも過般の出兵に就ては屬邦の内亂鎭壓の爲め云云と他人に向て公言したることもあるよしなれば或は今後の機會に大兵を發して其威力を以て朝鮮の主權を蹂躙し眞實屬邦たらしめんとの實を行はんとするの計畫にてもあらんか支那人の無法なる是種の事なきを期す可らずと雖も今の文明世界の輿論は决して斯る暴擧を許さざるのみか現に朝鮮とは隣交唇齒の關係ある條約國もありて其陸海の軍隊は既に凖備を整へて自國の利害を保護するに怠らざるのみか萬一の塲合には他に對して隣國の主權を擁護するも正當防禦の手段として已むを得ざるの處置にこそあれば若しも支那人が兵力を以て兼ての野心を逞ふせんとするには其力よく他國の陸海軍力を壓服し併せて文明世界の輿論を制するに非ざれば不可なり彼に果して其决心ありやその實力ありや我輩の覺束なく思ふ所なり去れば支那兵増發の目的何れに在るや知る可らずと雖も或は他の撤兵を要求して意の如くならざるにぞ大に兵隊を發し其兵力を後楯として更に要求する所あらんとするの計畫ならんかなれども恰も是れ小兒を嚇すの筆法にして苟も彼の國情兵情を詳にするものは其虚勢に嚇さるるものはある可らず盖し大膽なるが如く臆病なるが如く果斷なるが如く因循なるが如く曖昧模稜の間に空しく時日を經過して他をして倦厭懊惱の情に堪へざらしめ以て有耶無耶の間に利を占むるは支那人固有の手段なれども今回は然らず恰も平素の反對に出で少なからざる兵員を發して京城内數歩の間に敵愾の情殆んど禁ず可らざる他の軍隊と相對峙せしむることなれば機一瞬、間髮を容れず固有の手段も施すに術なくして勢窮し形露はるるに至れば止むを得ず最後の窮手段に出でて自から耻辱を取らざるを得ず明白の成行にして此一事、以て彼等の狼狽を知るに足る可し我輩は餘所ながら支那人の爲めに謀りて竊に氣の毒に堪へざるものなり

  • 18970428大學の始末・露兵傭聘の議に就て・2273字

文部省部内の更迭に大學の敎員輩が關係して紛紜を釀すが如き學者の本分にあるまじきことにして以ての外の擧動なり我輩の斷然排斥する所なれども其原因を尋ぬれば年來の事情自から偶然ならざるものあるが如し抑も學問技藝は獨立の事にして時の政府の力などにて左右す可きものに非ず而して高尚の學藝を授け又その薀奥を研究して發達進歩に益するは即ち大學の任務なれば國家の爲めに其獨立の必要は勿論にして一般に希望する所なれども從來の有樣を見れば政府は大學を自家の私有物と心得て恰も官吏の養成所と爲したるの觀なきに非ず即ち敎員の如きは夫れ夫れ官等を付して官吏同樣に待遇し又その卒業生には官吏に任用の特權を與へて一般の學生に區別したるなど其意向の所在は自から知るに難からず左れば其敎員たるものも學者の本分を忘れ官吏を以て自から居るの有樣を呈したるも無理ならぬ次第にして敎員既に斯くの如くなれば其門下生たるものも亦自から然らざるを得ず其氣品自から低くして卒業の輩が官途の出身を唯一の目的とし續々入門して官庭に〓〔皐+羽〕翔したるは政府の部内に大學派など云ふ稱呼を生じて一種の團結を成したるにても知る可し其職を求むるが爲めに官に入ると然らざるとは銘々の自由にして差支なけれども兎に角に大學の全體が純然たる官風を帶び恰も俗政府の出店と爲りて其間に自から俗臭の腥きは實際の事實なり文部々内の更迭談などにも出店の俗輩が云々するが如き畢竟右の事情より生じたる必然の結果にして今更ら怪しむに足らざれども斯くの如きは學問獨立の道に非ず國家の爲めに謀りて斷じて取らざる所なれば大學は眞實學問技藝專門の學校として獨立せしむるこそ必要なる可し本來獨立とあれば自から基本金を具へて維持法の如きも全く政府の手を離るゝこと肝要なれども目下の實際に其邊までの斷行は尚ほ容易ならずとあれば經濟の一點は從來のまゝとして姑らく他日を期し其組織に一變を加へて校長敎員を政府にて敍任することを止めにして大學内の事は一切その自治に一任せしむ可し眞成の獨立には非ざれども自から其端を開くものにして斯くの如くするときは敎員の輩も自から學者の分に安んじて政府の關係を離るゝと共に校内一般の氣風も隨て一新することならん大學の輩も學問獨立の必要を認めて其本分を盡さんとならば今回の如き俗事に頓着することを止めて大學獨立の端緒を開くことに盡力す可し若しも然らざるに於てはますます學者の品位を損すると共に大學の信用もいよいよ地に落ちざるを得ず大學の存亡は我輩の關せざる所なれども學問獨立の一事に至りては默々に付するを得ず一言敢て勸告する所なり扨又文部省の一方は如何と云ふに本來政府が學問技藝の事に干渉するは大間違ひにして是れまでは全く餘計のお世話を演じたることなれば大學その他高等專門の學校の如きは只會計上の世話に止め一切手を離して其自由に一任せしむ可し斯くの如くするときは文部省の仕事は皆無と爲りて無用の長物に歸す可し或は廢止するも差支なきが如くなれども普通敎育即ち小學校の事は本來政府に於て干渉すべき性質のものなれば國家事業として大に其實を擧げんとするには政府の力を要す可きもの甚だ少なからざるのみか其他敎育上に視る可きもの尚ほ多々なれば眞實責任を盡さしめんとするには自から之を存するの必要ある可し我輩は敢て遽に其廢止を唱へず只餘計の事を止めにして充分に其本職を全うせんことを望むのみ

  • 露兵傭聘の議に就て

朝鮮政府にては今度兵隊訓練の名を以て露國の士官兵卒合せて百六十餘名を傭聘するの契約を結ぶの議を生じて既に决したりとも云ひ又は未だ决せずとも云ふ目下京城には兵隊訓練の爲めに傭聘したる露國の士官二十名ほどもあるよし果して實際の必要とあれば其二十名を增して何名と爲すも差支なきが如くなれども訓練の敎師に百六十餘の多數を聘して然かも各地方にまで分遣す可しとは如何なる必要あるや既に日露協商の議定書には外援に藉らずして云々の個條さへあるに斯る多數の外國兵を傭聘するは穩當の處置とは認む可らざるに似たり尤も右の議には彼の政府の部内にも反對の説あるよしなれば果して行はるゝや否や知る可らず或はいよいよ議决して契約を結ばんとするも露國政府に於て果して承諾するや否や是れ又知る可らず抑も朝鮮政府に於て斯る議を生ずるに至りし其内情は自から他國の事にして推測の限りに非ざれば姑く擱き若しもいよいよ議决して露國に照會するに至らんか日露の間には協商の條約ありて朝鮮軍隊の組織に就ては外援に藉らずして云々の明文も存することなれば或は他の見解に於て訓練の爲めに軍人を假すは其明文に差支なしと認むるも協商本來の精神より一應は日本政府の代表者に照會して同意を求むるこそ事の躰を得たるものなる可し如何となれば彼の協商の公文に明記したる個條は僅々數項に過ぎざれども何れも双方和親の精神に出たるものにして殊に其末文には尚ほ一層精密詳細の定義を要するか又は後日に至り商議を要す可き事項の生じたるときは友誼的に妥協すべし云々と規程したることなれば若しも今回の如き事抦にして一方の承諾なしに行はるゝこともあらんには協商の精神は遂に求む可らざるに至るの恐れなきに非さればなり我輩は本來彼の公文に重きを置かざるものなれども既に其明文の存する限り又双方友誼の繼續する限りは其精神に從て事を處理するの必要を認めざるを得ず傭聘云々果して事實ならんには我輩は外交の當局者が此間に處して協商の精神を全うせんことを希望するものなり

⑧福沢署名著作の原型社説の抽出状況

  • 『時事大勢論』(188204刊)、原型「国会開設の準備」(18820318・全集未収録)2語彙
  • 『帝室論』(188205刊)、原型「立憲帝政党を論ず」(18820331,18820401・現行版収録)
  • 『学問之独立』(188302刊)、原型「徳育余論」(18821220,21・大正版収録)
  • 『通俗外交論』(188406刊)、原型「外国宣教師は何の目的を以て日本に在るか」(18840602・全集未収録)0語彙
  • 『日本婦人論後編』(188507刊)、原型「A我国には男尊女卑の風習あり」(18850520・全集未収録)0語彙、「B男尊女子の風習破らざる可らず」(18850521・全集未収録)0語彙
  • 『士人処世論』(188512刊)、原型「処世の覚悟」(18850829・全集未収録)1語彙、「農工商人たるは志士の恥辱にあらず」(18850910・全集未収録)0語彙
  • 『尊王論』(188810刊)、原型「帝室の緩和力」(18860227,28・全集未収録)2語彙
  • 『国会の前途・国会難局の由来・治安小言・地租論』(189206刊)、原型「帝国議会の開院式」(18901129・全集未収録)0語彙、「国会は万能の府にあらず」(18880523・全集未収録)0語彙、「超然主義は根底より廃す可し」(18920223・全集未収録)0語彙、「地租軽減」(18910829・全集未収録)0語彙
  • 『実業論』(189305刊)、原型「後進の方向」(18921009・全集未収録)0語彙
  • 1.内容の点からは署名著作と密接な関係が指摘できる原型社説も、語彙の観点からは、福沢語彙2語以下の使用に留まっている
  • 2.福沢ならではの語彙を使わなくても社説は書けるので、語彙がなくても福沢でないことにはならない
  • 3.1.と2.の事実は福沢語彙0から2までの社説にも福沢真筆があることを示唆している

⑨今後の予定

  • 1.無署名の社説のテキスト化がまだいくらか残っているので、さらに完璧を期する
  • 2.署名入りの社説のテキスト化を進める(福沢ではない社説の語彙・文体の特徴をより出す)
  • 3.⑧で指摘した事実を踏まえて、より的確な福沢真筆抽出基準を考案する
  • 4.以上により推定真筆社説一覧を新たに作成し、草稿新発見社説と署名著作原型社説を合わせて「全集未収録社説」を刊行する

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