「商況金融」
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時事新報に掲載された「商況金融」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
商況金融
昨今金融閉塞商売不景気とて歎息の声は〓〓〓喧し、其有様を見るに金銭不自由なるが故に物を買はず、売〓〓なきが故に品物は持主の手元に〓りて金に替はらず、金に替はらざるが故に重ねて仕入の方便なし、物持にして金持に非らさるなり、金持に非ざれば取りも直さず貧乏人なり、即ち都鄙に歎息の声の喧しきは此貧乏を歎息するの声ならん左れとも日本国中の人民〓に貧乏す可きに非す唯貧乏の様を〓するのみ之を譬へは〓〓〓〓〓宴の〓の杯の如し〓、十名の客に十〓の杯にても〓〓〓〓くして〓〓に〓〓すれば十分に行届くのみならず或は杯の余りて閑却することもある可し然るに爰にその三五名が鯨飲の酒客にて其杯を一個も二個も己が手元に留め置きて〓〓なかる可きの勢ならん〓は一座の客に杯の循環すること遅くして何れも
〓〓れて待ち詫ることならん故に偶ま杯の回りて来ることあれば其内心に謂らく今この杯を人に呈したらば再来は必す遅からん、我てに在るこそ幸なれ先ず之を手元に留め置かんとて人の手に渡さず甲に其様子あれば乙亦これを察して其趣向に倣ひ甲乙丙丁皆酔はずして之が為に宴席は誠に寂莫たるに至る可し然り〓して其実は一座杯なきに非ず又酒なきに非ず唯其無きが如き様を〓ずるのみ今其原因を尋るに最前三五名の客が鯨飲の為に杯を専〓〓んとしたるの罪なりと云はさるを得ず前年地租改正の以来豊年打続地租の金は少なくして収納の穀物は多く之に加るに紙幣下落の為に穀物の価は騰貴し農家は殊に千載一遇の富宝にして漸く生活の度を高くし、古来未た曾て食はざるものを食ひ未た曾て服せざるもを服し百般の商売品は恰も地主に向て流るる如くにして之が為に都下は無論各地方共に非常の景気を生したるは明治十三年の頃を最〓〓〓〓の商人又は工業者は此〓気の盛なるを見て
大に品物を仕入れまた新に工業を起し唯向後の利を期して現在の負債を恐れず、金銭の債を負ふて品物の持主と為り其止まる所を知らすして正に利益の入を企望したるは之を商工の過度と云ふ可きものなり然るに客年の央に至ては地方の人民も漸く衣食住の品に足り〓〓歟又は一時富宝の夢を醒ましたる歟恰も飽満したる有様にして次第に物品の需要を減し以て商況の〓〓〓〓〓し東京などは昨年の初夏大博覧会閉〓の後より著しく之を覚へたりと云ふ左れとも〓〓〓〓〓〓して品物を仕入れたる商人工業者は其物の〓〓ざ〓〓〓〓はらず其身に負ふたる借用の金銭を〓之を〓は〓〓を得ず即ち物持にして金持に非ざるの地〓〓居り之に何程の金を授るも負債を償ふに足らず其〓は鯨飲の客に杯を授るが如し多〓〓〓〓ある可らず加之此処に金の需要の〓なる〓〓〓彼処〓〓〓〓〓の不〓なるは自然の勢にして苟も金融を所有する者は一日も之を手離すを好まず甲の手に溜ること一日、乙の手に止まること半日、今朝渡す可きは明日に延はし、百円払ふ可きは先ず五十円に減し以て今日の〓〓に至りしものにして売買の不景気は金銭の不融通を致し其不融通は重ねて不景気の源と為り相助けて然るものならん我輩の〓るる所は斯く金銭の不融通よりして彼の所謂物持なる者が其物を持つの久に堪へずして遂に金の負債の為に品物の家産を破る可きの一事なり〓〓往々既に其〓ありとも云ふ誠ににがにがしきことにこそ