「府縣債を論す」
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時事新報に掲載された「府縣債を論す」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
府縣債を論す
近來各地方に於て頻りに縣債を募集して土木の工事を起し以て運輸の便を開かんとするの議ありて既に宮城縣の如きは縣會の議決を經過し委員を派して之を政府に出願せり又福岡長野諸縣の如きも亦既に其考案を調整して縣會の議決を經過したりと云ふ今其縣債を起すの主旨を問へは或は運河を開鑿せんとするあり或は鉄道敷設の資金に充てんとするあり又或は道路を開通せんとするありて其工事樣々なりと雖ども其目的とする處は均しく一縣公衆の爲めに運輸の便を開て物産を增殖し地方人民の幸福を增進せんとするものの如し我輩は是等地方の實況に通曉せさるを以て其工事の果して實際に適切にして成功必す可きや否を知らすと雖ども其起業の目的に至ては大に之を賛成して政府の速に其願意を許可せんことを希望する者なり蓋し運輸交通の便を開くは我國今日の急務にして其利益も著明なれはなり
一國經濟の道に於て運輸交通の大切なるは固より世人の通知する所にして更に諜々の辨を費すを須ひす維新以來我國に於て郵便電信の法の如きは大に進步して其利益擧けて言ふ可からす海船風帆船の如き尚ほ未た隆〓ならすと雖ども漸く進步するの勢にして一國經濟の爲め甚た祝す可しと雖ども獨り〓〓の〓〓に至ては其進步最も〓〓にして見るに足るもの無しと謂ふも可なり元來〓〓は山國にして山脈疊々として國中〓漫〓從て道路に〓〓の箇所多く車馬の往來を遮斷し運輸の便を梗塞するもの固より少しとせす其不便不利も亦甚しと謂ふ可し此有樣にては迚も農業は進む可からす製造も興る可からす〓〓も〓なる可からす殖産の其〓に由てか立ち人民の幸福何に由てか增し而て一國の富强何に由てか致すを得んや今此妨碍を除て一國を富强文明の域に進めんと欲せは須らく陸路運輸の道を開きて交通を便にせさる可からす是れ我國今日の急務たるにあらすや而して之を開かんと欲せは府縣債の募集を公許せさる可からさるなり
陸路運輸の便を開くの急且要なるは前節に論するが如しと雖ども其事業は何れも容易ならすして資金を要すること少なからず鐵道の如きは暫らく之を措き其〓運河を開鑿し港灣を修築し道路を開通するが如きに至ても其事業甚容易ならす一事業にして或は幾拾萬圓の資金を要するものあり是れ固より一個私人の堪る所にあらす且つ其事業は元來公共の事業にして一人の私業にあらす既に之を一個私人の堪る所にあらす又一人の私業にあらずとせは則ち之を衆人公共の義務と爲し從て之を奬勵するにあらされは其事業決して進捗す可からさるなり然れども陸路運輸の事業擧て之を一國公共の事務と爲す可きにもあらす必すや各地方人民の負擔する所を定め其衆力を合し其公財に依て之を辨せさる可からす之を地方人民の公務と言も可なり政府に於て地方稅則を制して道路橋梁堤防等の土木費を以て府縣の負擔する所となすも之れが爲めなり然るに其道路普通の修繕の如きは固より一時に地方稅を以て之を支辨す可しと雖ども幾十百万の巨額を要する臨時の大土工に至ては迚も一時に地方稅を以て之を支辨す可きにあらす既に一時地方の収稅を以て之を支辨す可からさるものとし又其工事を以て地方の急務なりとせば則ち地方公共の公債を募集して以て其費を支辨せさるを得す是れ我輩が府縣債を公許す可しと言ふ所以なり且つ夫れ中央政府の干渉を省きて地方自治の基を開かんとするは現時我邦の公論にして政府も亦茲に見る所ありて既に明治十二年を以て府縣會を開きて之に地方稅を議決するの權を附與したることなれは今之に附するに府縣債募集の權を以てするも固より當然の事にして地方自治の主義を實際に擴充するに過きす歐米の諸國に於ても槪〓〓公債事業の權を以て地方議會に公許せさるもの無し是れ一は地方事務の便を慮り一は其自治の主義に基くものなり我國何ぞ獨り之を非拒するの理あらんや
我輩が府縣債を公許す可しとするの理由大〓此の如し然れども此公債事業の事を以て〓く地方議會の為す〓に任して毫も其制限を設けざるは我輩の希望する所〓〓〓さるなり何となれは則ち元來公債なるものは增すに易くして減するに難く負債積纍して〓に救ふ可らざるに〓〓ものあればなり議會多數の權力に〓〓〓〓〓地〓〓〓〓〓〓〓〓り他の部分を抑壓するの弊〓〓〓〓〓〓〓〓ればなり例へは英國の地方稅の如〓其〓年々增加して〓止する所を知らす地方の財政〓〓〓〓〓〓〓〓んと救濟す可からざるに至れり千人百〓十〓年〓〓〓て英國地方稅の収入高は三千三百余万にして此〓地方公債の增加するもの殆んと三千萬磅に達し其公債を總計すれは一億三千七百余万磅に登れりと云ふ以て地方公債の增すに易く減するに難きの一例として愼戒す可きなり故に我輩は府縣債を贊成する者なりと雖ども之を公許すれは則ち一般〓規則を〓して是等の弊害を豫防せんことを希望するなり其〓〓の詳細に至ては當局者の任にして我輩〓敢て論する所にあらすと雖ども其希望の大要を擧れは府県債は必す府縣會の議決を經過す可し彼の府縣〓〓規則に依り地方長官の議と府縣會の衆議と相合さるときは内務卿に上申して其指揮を受け之を議會の再議に附さずして直に之を實行する等の事ある可らさる事府縣債を募集するは其事業必す全府全縣の公益に關する臨時の大土工にして決して平常地方稅の不足を補充するものに非さるは勿論其議決は必す全會議員三分の二若くは四分の三以上の同意に取て議事を鄭重〓す〓事公債償却一般の年限及ひ其最多の額數か定〓〓〓〓〓〓す〓時は特に中央政府の裁可を乞はざ〓〓〓〓〓〓〓中央政府が全國の爲めに計畫する所〓〓〓〓〓〓〓と或は相抵觸するもの無きを保せさ〓〓以て〓〓其起債の目的方法を中央政府に開申して認可を得べき事の如き是なり是等の制限を定めすして漫に府縣債の募集を公許するは我輩の決して希望する所にあらざるなり