「一友亞國より歸る」
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時事新報に掲載された「一友亞國より歸る」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
一友亞國より歸る
本年三月下旬亞國「ニウヨルク」を〓して歸朝したる某氏は一昨年より彼の國に渡航して生糸賣込の業を營みし人なり氏の話に據れば日本と亞國と商賣の關係は日に繁多を致して彼の國人が日本品を用ること漸く多し一昨年渡航の時に「ニウヨルク」にて日本品のみを店頭に排列して商賣を營む者は僅かに六七軒なりしものが本年三月彼の地出發の前には殆と一倍して十二三軒にも增加したり
生糸の賣込みも〓々盛にして〓〓も次第に恢復したるが如し盖し我生糸商が前年より往々不正の品を渡して爲に意外の價格を〓したるに懲りて次第に之を改良したるの故ならん但し今日にても日本の生絲に不正の品を混するの弊はなけれとも其荷作に注意せずして且荷物の品位區々にして揃はさるが爲に實價を落すもの多し彼の國の絹布製作塲は何れも廣大なるものなれは糸を買入るるに假令ひ品位は上等なるも僅に三五■（てへん＋「困」）にては用に適せさるか故に品の良否に拘らず幾■（てへん＋「困」）も一捌ならされば自から糸の位に相當する程の價を拂はす誠に遺憾に堪へず之に引替へ瑞西人なとは橫濱にて日本産の生糸を買入れしかも其品は荷作の宜しからさるか爲に橫濱にて割合に價の低きものを揮てこれを輸出し一度ひ之を本國へ送て本國人の手を以て荷作を改め亞人の所望に適す可きものに仕立てて更に亞國に輸出するものあり日本人の不利遺憾に堪へす云々
尚これよりも遺憾なるは亞國一般の人民其學者博識と稱する輩を除くの外は大抵皆世界に日本國なるものあるを知らさる歟或は之を知るも意に介せさるが如し往來にて日本人を見しは彼の婦人小兒等は之を指して支那人支那人と呼ふ者多し唯婦人小兒のみならず某氏の如きは生糸賣買の爲に〓々彼の商人へ面會するに〓〓して迂闊なる者は氏を認めて支那人と誤るが故に之を辨解して日本人なること明にすれば重子て〓〓日本とは支那〓中の一〓〓〓と〓す〓〓〓誠に殘念至極なれば〓の〓〓にも非されば如何〓〓す可らず〓この上は我商賣〓〓大〓〓我〓〓を〓張して〓〓〓〓の大日本國〓〓るを知ら〓〓〓〓外方便なきことならん云々
右等の誤解は往々彼の國人に珍うしからぬことにて在留の日本人は常に之を遺憾に思ひ既に「ボーストン」の邊に留學する日本の學士は辨解の文を作て新聞社に投したることもあり又彼の上等の學者〓はよく日本人を識別し之を支那人に比して日本の人は活發にして威容あり其骨格を一望して支那人に異なる者を見る可しと云ふ者も少からず夫れ是れの影響にて近來は日本人も漸く聲價を增す其際に爰に一奇談は過般「ニウヨルク」にて演劇を催ふして其狂言に各國の男女集會して何か談話する其男女の中に日本國の貴婦人一名を裝ひ相互に懇親を通するの趣向ありければ見物の群集は始めて日本人の貴きを知り日本國の賤しからさるを悟りて頓に日本を重んするの情を生したるが如し盖し平生の交際に賤しむ所の者は自から劇塲にも之を賤しむの趣向を用るは萬國同樣にして例へば彼の劇塲にて彼の俳優が支那人を裝ふときは必す豚尾を領に附けて「カリフヲルニヤ」の鑛夫か又は天秤捧を擔たる卑賤下郞の体を表するのみにて支那人と西洋の紳士貴婦人と平等に齒するが如きは斷して見さる所なるに獨り日本人の然らさるは彼の國の人情に訴へて日本と支那との輕重を知る可し云々
僅に一塲の演劇にても影響を及ほすこと斯の如し都て外人に接するには形を以てすること緊要なるが如し稀に彼の國に携へたる我陸軍操練の寫眞などを以て日本不案内の輩に示すときは大に驚愕して東洋地方に斯る兵式を用る國はある可からずなどとて一見先つ之を信せず次て説明を聞ひて眞實讃嘆する者多し彼の國に在留すれば眼に亞國を見て心に日本國を思ひ一身恰も大日本國を代表するの心地にして晝夜片時も故鄕を忘るること能はず然かも其故鄕は何の國何郡何町村に非すして日本の全体を思ひ全体の國權如何を憂ひ、全体の貿易は如何、全体の〓〓は如何、又全体の兵備は如何、我故鄕の人民は何故に〓に來て大に貿易の事を行はさるや、殊に我海軍省が軍艦を〓出するが如きは易中の易ならん何故に二三の軍艦を爰に遣て日章の大旗を「ホドソン」の河畔に翻ささるや、假令一艘の軍艦を見るも我々在留商人の身は忽ち九〓大呂の重きを增す可き者をと〓慨の〓は〓〓〓に沈むのみ云々歸來橫濱に着すれば港内〓々唯僅に三々五々の〓船を見るのみ上陸放〓〓逢へば再會の挨拶未た終らすして先つ金融切〓不〓〓の〓を聞き次〓〓〓の〓へ則ち〓〓〓〓の〓〓〓〓の〓〓〓〓大〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓なり何とか此時に當て好〓段は〓〓〓〓々とて〓〓半日にして告別したり
右は昨日某氏の話のまま爰に記して以て本日の社説に代〓〓者も或は〓する所のものある可し