「新聞發行停止」
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時事新報に掲載された「新聞發行停止」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
新聞發行停止
國安妨害は國の大故なり世間若し國の安寧を妨害するものあらは容赦なくこれを撲滅し其根を絶ち葉を枯らし天下公衆をして其國安妨害たるの罪を明知せしめて其尤に效ふことなからしめんこと天下必須の政務にして當路者の日夜服■(まだれ+にんべん+ふるとり+「口」)して忘る可からさるものなり世人或は國安妨害の所業見を之を惡み之を恐るるを知ると雖ども之を根治するの法を講する者甚た稀なり之を根治せんとするには先つ何故に斯る所業を惹出したるやと其原因を求めて一々に之を撤去せさる可からす之を爲すこと甚た難し故に之を講する者甚た稀なることなる可し人あり若し其勞を憚らす詳に國安妨害根治法を講究して之を實施する者あらんには天下泰平國民永く其慶に賴るを得可しと雖ども世間常に其人に乏しきは國の不幸之より大なるはなきなり我輩又敢て難きを人に責めず到底國安妨害の所業を根治するは望む可くして行ふ可からさる事と爲して之を言はす退て其豫防法を求めて誠實に當路者に望むに其執行を以てせんと欲するなり
近來全國各地方に於て新聞紙の發行を禁止或は停止せらるるもの續々として其跡を絶たす何れも〓國安妨害の大罪を犯したるを以て行政上の處分に依り其發行を差止められたるものにして斯くてこそ一國の安寧も維持し得可く我輩も亦永く其慶に〓ることなれは毫も異議を容るることなしと雖ども唯我輩は此法を執行する方法に就て未た遺憾なきこと能はさるなり明治九年七月五日第九十八号の〓〓に曰く已に准允を受たる新聞紙雜誌難報の國安を妨害すと認めらるるものは内務省に於て其發行を禁止又は停止す可しと而して從來内務卿が此法を執行するに當ては何々新聞自今發行停止第何号以下發賣不相成此旨相〓候事と云ふ如き實に簡單至極の申渡を其新聞社限り達せらるるのみなれは其新聞の購讀者にして此申渡を聞かざる者は其何故に爾來配達なきやを訝り偶ま新聞社の注意に依り第何號以下發行停止申付られたりとの事を承知する者あるも其何等の爲に發行停止申付らるるに至りたるやを知る者なし又縱令何號以下發賣不相成と達せられはするものの其發行既に數日前に在るものもあり又萬を以て計る人々の手に渡りたる紙數を一々詮索して取上ることもなら子は其停止の當號と雖ども世人の之を講讀し得たるは尋常平穩の新紙に異ならず故に購讀者は其停止の沙汰を聞て大に驚き再ひ讀了の故紙を取出して何號以下何號に至るまて逐一之を■(てへん+檢の右側)閲するに毎號國安妨害の箇處に朱圓もなけれは此處づと指す可き條項もなし誌面より紙背に透し再三再四熟讀の後發明して云ふ此社説こそ國安妨害論なら〓と又讀て雜報欄内に至り忽ち又發明して云く前説は大に非なり國安妨害は社説に在らずして此第三項の雜報に在りと次て漫言寄書等を讀むに至て更に又二三の新發明を爲して前説の確實ならさるを疑ひ一思再考遂に其孰れか真なるを知る可からず國安を貴重する善良人民爭てか之を以て心に安んすることを得ん直に其新聞紙を携て本社に至り國安妨害の箇處を指示せられよと依賴するに本社編輯長其人と雖ども勿論之を明示すること能はす毎號二万五千言只應さに此紙上にあるなる可しと雖ども其何れの邊に伏在するやを知り得さるなり二人相見て空しく茫然たるのみ滔々たる天下皆此の如し故に偶ま國安妨害の大罪人を捕へて發行停止又は停止の嚴罰を申し渡其處分甚た當を得たりと雖ども其何々の條項が何々の理由に因り國安を妨害するなりとの事を詳知せさるを以て被告人自からも之に懲りて後來を愼み再ひ大罪を犯すことなからんとするに由なく全國の人民も此一例に鑑みて自から戒め其尤に傚ふことなからんとするに由なく過て改めて罪を避る両なから其道を得す唯徒らに陷■(こざとへん+「井」)に墮んことを憂懼して日夜惴々〓たるも更に其詮なく國安妨害の罪を以て新聞發行の禁止停止を蒙る者当時陸続たる所〓なら〓〓我輩〓思ふ此法を執行するに當り當局者にして今少しの〓〓取り發行禁止停止の都度其國安妨害たる〓〓〓〓〓〓〓〓被告當人をして再三絶の〓〓〓〓〓こと〓〓〓〓〓〓〓〓ならず他の良民も之に鑑みて自から戒しめて之を未然に豫防することあらんには國安も又必す容易に妨害せらるるの憂なかる可き歟