「郡區長公撰3」
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時事新報に掲載された「郡區長公撰3」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
郡區長公撰(前號の續)
官民全体の不調和は以て根本の原因と爲り又或る地方官が郡長を命するに意を用るの周密ならざるよりして直接の近因を醸し遂に今回郡區長公撰論の端を發するに至れり其端一度發するときは全國人民の心に印して之を忘る可らず殊に方今天下の政談客は閑居無聊に堪へざる時節なれば若しも政府にて之を許可することなくんば樣々に論端を立て直して復た之を論し恰も論者が長日を消するの料として變幻無極の奇觀を呈し以て政府を困却せしむることならん或は政府は大に奮發して斷然これを許さん歟之を許して其成跡如何を尋れば亦施政困却の不幸あらんのみ抑も此公撰の論たるや元と官民和熟の主義に出たるものならば誠に目出度次第なれとも今回の立論は之に反し人民宗と政治宗と二派に分れて人民宗派の者が郡區長をして他宗を離れて我宗門に歸依せしめんとの本願なるが故に若しも此本願を達するときは改宗したる郡區長は只管人民の方に力を盡して其歡心を求め一向一心に之を勉む可きや必然の勢なり人民も亦只管これに依頼するのみならず既に民撰とあるからには暗々裏に黜陟の權を握ることなれば心を虚にして之に交て容るゝことならん郡區長と郡區人民との交際は頗る親睦なるものと云ふ可し然りと雖とも此親睦たるや唯人民中一局部の親睦にして顧て官民全面の有樣を見れば毫も調和の〓を見ず、此全面の不調和の際に僅に一局部の親睦あれはとて何等の功能なきのみならず人民は恰も純然たる同宗派の味方を得て一層の勢力を增し地方の施政には却て一層の困難を增す可〓のみ例へば租税を徴収するも郡區長と戸長との關係なれは中央政府より〓出したる収税員の催促に從て之を人民に〓すは當然の職務なれとも納税〓怠るは人民の常習にして其督責に〓〓の〓〓甚た大切なるものなり然るに直に人民に接〓〓て之を促すに當り若しも困難なる〓情に逢ふたらは民撰の郡區長は官民の間に挟まりて何れの方に身を寄す可きや之を緩漫にすれば官の旨に逆ひ之を嚴急にすれば民の歡心を失ふ其去就如何を尋れば〓〓の人〓必す緩漫に流るゝも嚴急に失することはな〓る可〓即ち〓〓困難の一箇條なり是等を計れば枚擧に遑あらず結局今日の有樣にては郡區長を公撰にするも國事の全面より之を見れば益する所は少なくして之が為に隨て生する所の困難は次第に甚しきを致す可きのみ之を許さゝるも困難、これを許すも困難とは誠に氣の毒なる有樣と云ふ可し
右の如く論し去れば讀者或は誤解して此論旨は公撰を嫌う者なりと評せん歟決して然るものに非ず公撰は固より當然のことにして我輩は一日も速に其實施を見んことを願ふ者なれとも今の如く官民の不調和に際し其調和の〓をば求めずして唯人民が公撰を求るか故に之を評すとて誠に一日の姑息を以て一日を經過するが如きは我輩の〓らざる所なり官民調和の大計に至ては漠然として忘るゝ歟若しくは政府の權力を以て一方を〓倒し若しくは樣々の計略を以て鎮靜せんとして益上下の軋轢を增す其最中に頓に郡區長の公撰を許す等のことあらば事物の釣合ひを失ふを之を譬へば一方に穴を堀て一方に〓を埋め一手は之を推し一手は之を引き春風秋水一時に來るが如き奇觀を呈して却て一層の困難を引越す可きのみ故に曰く郡區長の公撰欲せさるに非ずと雖とも其欲する所の目的を〓せんが爲には先つ官民調和の豫備なかる可らず美酒〓肴我が欲する所なれとも之を飲食して歡を盡さんとするには先つ主客の心をして歡はしめさる可らず心歡はされば酒肴何そ須ひん酒肴は歡を助るものなり歡を造るものに非ざるなり〓〓今の官民の心をして歡はしむるは我國焦眉の急にして爲政の大計なり郡區長公撰の如きは此〓心を〓ふして傍より歡を助るものと知る可し然るに今日の天下を見に官民の歡心は日に增進する歟又退減する歟讀者の傍觀して知る所ならん斯る時勢に當ては人民の請願を許すも許さゞるも〓退共に困難なれとも今日の困難は今日〓〓に生したる困難に非す其原因は前年に〓〓〓〓〓に在り故に之を救ふの〓も亦今日此〓に〓〓〓して〓〓〓〓〓し大に斷して行ふ所なか〓可らざるなり〓〓〓に於ては此大計に就て果して所見す〓〓否我輩は刮目〓〓其〓〓を見んと欲する者なり