「日本銀行條例(前號の續)」
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時事新報に掲載された「日本銀行條例(前號の續)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
日本銀行條例の(第七條)には資本金額五分の一即ち二百萬圓の入金ある時は開業することを得但し資本金募集の手續は定款を以て定むとあり定款を作り募集手續を定め彌々株金募集に着手するに至らは二百萬圓の入金は容易なる可きに付不日に開業し得ることなる可し(第八條)には營業上に於て損失を生し資本現入金額の内幾分を減少したる時は其事由を審明し資本金入金殘額より其缺損に充る迄の金額を追募す可しとあり此條よりして考るに此銀行の一株は二百圓なれとも一時に全體を募集するに非す當分は内七十圓乃至百圓位のものを募集し殘額は入用の時即ち本條に在る如く營業上の損失より現入資本金を減少したる時の補缺に供する爲めか或は次の第九條に在る如く後來事業の伸張に由り現入資本金の揄チを要することあるか或は負債辨償の爲め株主の義務を盡さんとする等の場合に至る迄は不換資本として之を各株主の手許に收留し置くことなる可し此株金募集法は西洋ゥ國に在ては珍らしからずと雖とも我國の銀行にては新例なり(第九條)事業の伸張に由り資本入金の揄チを要する時は殘額より追募すとあり別に所見なし(第十條)純u金中より株主への割賦金を引去り其u金殘額の十分の一以上は積立金と爲し資本金の損失又は割賦金の不足を補ふものに充つ可しとあり別に所見なし(第十一條)には日本銀行の營業は左の如し(第一)政府發行の手形爲換手形其他商業手形等の割引を爲し又は買入を爲す事(第二)地金銀の賣買を爲す事(第三)金銀貨或は地金銀を抵當として貸金を爲す事(第四)據て取引約定あるゥ會社銀行又は商人の爲めに手形金の取立を爲す事(第五)ゥ預り勘定を爲し又は金銀貨貴金屬並にゥ證券類の保護預りを爲す事(第六)公債證書政府發行の手形其他政府の保證に係る各種の證券を抵當として當座勘定貸又は定期貸を爲す事但し其金額及ひ利子の割合は總裁ゅ`裁理事監事に於て時々決議し大藏卿の許可を受く可しとあり此條の第一項以下其他に政府の手形と云ふ新文字あり我輩の未だ見聞せさる手形なり西洋ゥ國には大藏省にて一時金融のキ合により大藏卿の發行する振出し手形なる者ありて民間に賣買すれとも我國に於ては未た此手形あるを聞かす然るに此條例中故らに此文字あるを見れは自今大藏省に於て此類の手形を發行するの議決ありしかと思はるゝなり第二第三項別に所見なし第四項取引の約定ある顧主の爲めに手形金の取立を代理するは甚た好しと雖も之を手形のみに限らす公債證書の利子受取ゥ會社株券の割賦金受取をも代理するに至らは更に一層の便利を揩キへし是また普通銀行事務の一部分なれはなり第五項別に所見なし第六項公債證書政府手形類の抵當として貸金を爲すに當り其金額及ひ利子の割合は總裁以下衆議決定の上にて更に又大藏卿の許可を受ることなるが是は實際の事務上に於て非常の手數を揩キことなる可し則ち據て取引の約定ある顧主來て公債證書を抵當に急に金を借らんと云はんに總裁以下は直に議決承諾すと雖も此取引に最大要點たる其金額と利子の割合とは大藏卿の許可を受く可きものに付他ゥ銀行の如く立談に此營業事務を瓣すること能はす商賣取引は斯る悠々緩々たる可きものに非さるを以て爲めに此顧主らの去て他の銀行に就て此取引談判を爲さしむるに至るやも知る可らす殊に金利の割合の如き金融急劇の際には時々刻々に變化して一處に靜止するものに非す大金の援受には双方一分時閧フ前後をも爭ふこと商賣社會の常態なるを以て貸金談判の際大藏卿の決裁を仰くに當り世上の金利は此指令の來るを待たす勝手に昂低することあらんには其損uの關する所容易ならす是即ち非常の手數ならんと思ふ所以なり又我輩の知る處にては銀行の營業事務は本條に記す所の六項のみにして尽す可きものに非す仮に一例を擧れは内地外國ゥ方へ爲換の如きも銀行事務なり目下我國に於ては西洋ゥ國の如く銀行の功用を熟知する者甚た少なく隨て又之を利用すること淺少なり西洋ゥ國においては商工農人の荷爲換手形を割引するを以て銀行の銀行たる第一著明の營業事務と見做すと雖も我國に於ては未た荷爲換割引の便法を廣く利用すること能はず纔かに遠地へ送金の爲換を取扱ふを以て銀行第一の營業事務と認るものゝ如し畢竟一人の罪に非す時勢之をして然らしむるなり此際に當りて日本銀行に限り爲換を取扱はすと云はゝ忽ち世人一般の怪ち招くのみならす銀行たる者に必要の一性質と其利uの一源とを併せ失ふたるものと云ふ可く決め有るまじき事なり故に我輩は本條並に次條の記載する所にも拘はらす各地へ爲換を振出すは日本銀行營業事務の一部分たらんかと信せさるを得す(未完)