「日本銀行條例(前號の續)」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「日本銀行條例(前號の續)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

日本銀行條例の(第十二條)には此銀行は第十一條に記載する事業の外左に掲くる件々は勿論其他ゥ般の營業に関渉することを得す(第一)不動産及び銀行又はゥ會社の株券を抵當として貸金を爲す事(第二)本銀行の株券に對して貸金を爲し又は此株券の買戻を爲す事(第三)ゥ工業會社の株主たるは勿論直接間接を問はず工業に關係する事(第四)本支店出張所を開設する爲め必要なる者の外一切他の不動産の所有主たる事とあり第一第二第四項に掲る如く不動産、ゥ銀行ゥ會社の株券並に自家日本銀行の株券を抵當として貸金を爲さゞるなどは銀行法の禁制に適合するものにして無論間然する所なしと雖とも第三項に至て特別に工業會社の株主たることを禁すと明言したるは何故なるや他の各項中にも掲る如くゥ會社の株券を抵當として貸金するさへ銀行の正務に非すとて之を禁する程のことゆえ其株券の所有主たることを禁するは固より適當の事なりと雖とも單に工業會社のみを特書したるは我輩其理由を解せざるなり抄紙場、製鹽所、絹毛織物所、摺附木製造所、製紙會社、鑛山會社、造船所等の如きゥ工業會社は其盛衰損u毫も豫期す可らず銀行たる者は成る可く投機僥倖の心を遠さけ確實一片の營業たるを以て決して斯る危險の事業に關係す可らすとの趣意ならんか天下危險の營業何ぞ必すしも工業會社に限らん渡船帆船廻漕會社、直輸出貿易會社、海陸保險會社、勸農貸付會社。物産會社等は工業會社に非ずと雖とも銀行の眼より之を見れは其危險工業會社と攪ぶ所なく均しく投機僥倖の臭味を帶るものなり且つ銀行自家金融切迫の時に際し其會社の株券を賣り其貸付金を取戻して之を正貨の融通に加へんとするも咄〓にして瓣す可らず其危險にして不便なるの趣に至ては兩者の間に甲乙ある可らざるなり甲乙伯仲す可らさるものにして故らに其一を明記したるは我輩其意を解せさるなり加之此項の末段に於て直接は勿論間接にも工業に關係するを禁すとあるには我輩第一に其文義の解釋に苦しむなり株主にあらさるも直接に之に關係すとは或は公債証書等を抵當にして工業會社に貸金するの類を云ふなる可し左すれば間接とは銀行自から工業會社と取引せずと雖とも他銀行等の工業會社に貸金等を爲す者あらんに其銀行へ貸渡等を爲し間接に工業會社に關係する如き類を云ふなる可し是等果して直間接の關係にして之を禁するものとせは日本銀行營業の境界は極めて狹隘なる者と思ふなり例へは上州前橋の製絲會社にて數俵の生絲を製造し之を〓〓の織物會社に賣〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓受〓の爲め製絲會社には荷為換手形を〓の〓取引を銀行に依ョすることならん又織物會社は其製造の絹布を〓〓の〓〓〓に賣渡し亦荷爲換手形を作りて其割引を銀行に依ョすることならん而して呉服店が消費者に對するも亦斯の如く〓〓んとするに日本銀行は之を拒絶して割引せす間接には工業に關係せさることを勉るなる可し凡そ天下の商業にし〓工業に關係せさるものなし苟も商と稱する者は多くは皆工業の結果たる物品を賣買する者にして直接間接を問はす工業に關係なき者とては甚だ少なし故に銀行にして商人に貸金し其便u々工業に浸〓することなからんと欲するも人力の得て制す可きものに非す誓て之を斷行せんと欲せは銀行營業を停止するの外なかる可きなり(第十三條)には政府のキ合に由り日本銀行をして國庫金の取扱ひに從事せしむ可しとあり是即ち英倫銀行の英國政府に於るが如く日本銀行をして政府の出納局たらしむるの謂なる可し併し政府のキ合に由りてとある以上は必すしも開業の當日より然るに非すして期日又は其事の有無等も未定なるは勿論なりと雖とも他日果して國庫金の取扱ひて爲すの時節あらんには日本銀行の營業に一大件を揩キのみならず政府の理財法も一面目を改め隨て全國の金融上に大變化を來たすことならん(第十四條)には日本銀行は兌換銀行券を發行するの權を有す但し此銀行券を發行せしむる時は別段の規則を制定し更に頒布する者とすとあり是は此銀行にて兌換銀行券を發行するの權ありと雖とも政府は當時之を許すに非す追て之を發行せしむる時は更に規則の頒布あること知るなり然るに此銀行券なる者は現今の例の如く政府の下落紙幣と兌換するに止まる者なれは我日本人民は當時毫も其發行を要せずと雖とも若し濱正金銀行の銀行券の如く正貨との兌換券ならしめは一日も其發行の速ならんことを欲するなり(第十五條)日本銀行はゥ手形及び切手を發行するを得とあり別に所見なし(第十六條)日本銀行は公債証書を買入れ又は之を賣拂ふことを得可し但し此場合に於ては大藏卿の許可を受く可きものとすとあり我輩又此條を見て其手數の非常なるに驚かさるを得す第十一條の下に論したる如く貨金の金額及ひ其利子の割合に付大藏卿の許可を乞ふ時の手數程には非さる可しと雖とも苟も銀行普通の業を務む以上は手許に通貨の餘る日もあれは不足の時もある可く公債證書相場の昂低もある可し營業のキ合に由り買入て之を賣拂ふには大に其掛引ありて即坐の決行を要することあるは勿論なり然るに其賣買に當て先つ大藏卿の許可を受く可きものとすれは其手數は實に非常なるものと云はさるを得す(未完)