「日本銀條例(前号ノ續)」
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時事新報に掲載された「日本銀條例(前号ノ續)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
日本銀行の條例(第十七條)には日本銀行は総裁一人副總裁一人理事四人を以て綜理する者とす此外に監事三五人を置く可しとあり(第十八條)には總裁副總裁は任期五ヶ年とし總裁は勅任副總裁は奏任とす但し任期中は他の官職を兼任するを得ずとあり(第十九條)には理事は株主総會に於て撰擧し大藏卿の命する者とす但し創立第一回は五ヶ年の任期を以て大藏卿之を特命す可し監事は株主總會に於て之を撰擧し理事監事の任期は定款を以て定む可しとあり(第二十條)には理事監事は任期中他の銀行又は會社等の役員たるを許さすとあり(第廿一條)には大藏卿は特に監理官を日本銀行に派出し諸般の事務を監視せしむ可しとあり以上皆銀行の役員に關係したる諸條なり然るに此各種の役員は其性質頗る雜駁なるが如し総裁は勅任官にして副総裁は奏任官なるを以て此二人は天皇陛下の御沙汰に由て其職に任し株主に對しては直接の責任もなく亦情誼もなければ恰も當時の府知事縣令と府縣人民との間柄に髣髴たるものなる可し、理事四人は株主總會に於て撰擧し大藏卿の命する者とあるのみにて其意味明瞭ならずと雖ども既に大藏卿の命する者と云ふからには株主は唯大藏卿の顧問とも云ふ可き資格にて何某こそ適任の人ならんと指名せんに大藏卿は必す其者に命するの義務あるものとも解し難し兎に角創立第一回五ヶ年間は大藏卿の特命する者たるを以て先つ大藏省の判任官とも云ふ可きものなる可し、監事三五人は單に總會にて撰擧すとのみあるゆえ是必ず純粹の株主総代人なる可し此外に大藏卿は監理官なる者を派出し銀行諸般の事務を單純せしむとあれは是亦一種の役員なり〓に日本銀行の〓〓む前記各役員の〓〓議決に由るものなりとするに如何せん此條例中には総裁以下各員の〓〓を明記したるものなきを以て各員相互に何等の關係に立つものなるやを知ること能はす我輩の考にては總裁は規約に據りて銀行諸般の事務を統理し副總裁以下に命令して事務を分擔せしめ一切の責に任する者なる可しと思ひの外條例第十一條には銀行にて貸金を爲すに其金額及ひ利子の割合は総裁副総裁理事監事に於て決議すとあり第十七條には日本銀行は總裁副総裁理事を以て綜理すとあるなどを參考すれは此總裁は一省の卿一會社の頭取等の如き職權責任を有せさる者の如く然り果し斯る仕組ならんには此任に當て事務を整理するは頗る困難事ならんと想像するなり〓〓の監理官なる者が大藏卿の命を受て諸般の事務を監視するとあるは何等の點迄を監視するものにや或は大藏卿の代理たるが如き資格を以てせんには隨分其干渉す可き程度深かる可し我輩此條例を見るのみにては詳に銀行役員の職制を知ること能はざるなり(第廿二條)には日本銀行は本支店出張所及ひ約定店等の營業上百般の景況を調査し少くも毎月一回之を大藏卿へ報告す可しとあり此報告を爲さんとするには日本銀行は各「コルレスポンデンス」を約したる銀行又は取引店等に對して帳簿檢査等不斷嚴密の報告を得るの手段を求るなる可し(第廿三條)には日本銀行は本條例の旨趣に基き銀行定款を作り政府の許可を受く可し但し定款を改正し又は定款外の事を處する時は株主総會に於て決議し政府の許可を受く可しとあり我輩未た定款を見す故に所見の述ぶ可きものなし(第二十四條)には政府は日本銀行諸般の事務を監督し其營業上條例定款に背戻する事は勿論政府に於て不利と認る事件は之を制止す可しとあり是重大至極なる箇條なり銀行營業上に付政府が何様の事を干渉するも銀行は之を拒むこと能はす政府は銀行の哀訴に答へて我は之を不利と認定するなりと云ふ迄の事なる可し無上の權力なり(第二十五條)には此條例を改正搓する時は其施行の日より三ケ月以前に之を布告すへしとあり甚た好し唯我輩は此三ケ月を改めて六ヶ月若しくは一ヶ年と爲る方穩當ならんかと信するなり以上は日本銀行條例二十五ケ條に付逐條我輩の所見を述へたるものなり我輩は不十分ながら字画上に現はるゝ丈けの見解は是を以て足れりと爲し〓に銀行〓〓上に關する一二の所見を記して此篇を終る可し我輩此銀行の〓〓を察するに明に普通有限責任合資會社たることを知るなり然して日本人民又は政府に於ても大藏卿の〓〓する限りは随意に其株主と爲り此銀行を監査するに及び〓〓其総裁服総裁を命し〓〓五ヶ年〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓