「 地方の學校」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「 地方の學校」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

地方の學校

凡そ人間の百事乍ち之を興し乍ち之を中止して害あらさるものなしと雖ども尚其事の性質に從て害にも亦輕重大小の別あり家屋の建築器物の製作等に着手して乍ち之を中止するは多少に損害ありと雖ども草木の培養を中止し家畜の育養を中止するものに比すれば其害尚輕しと云ふ可し蓋し家屋器物は死物にして其建築製作を中止する間に舊

の姿を損すること少なしと雖ども草木獸畜の養を怠るときは其怠る間に發育の機を失ふて更に挽回す可らざるの損害を被るを常とす活物を御するの法と死物を取扱ふの法と自から區別あること知る可きなり

人生の敎育は定めて其年齡に關すること固より明白にして早くす可らず晩くす可らず、体格稍や成りて次第に成長する其形体の發達と共に智力をも發達せしめ二十五六歳形体發達の全きに至て智力の敎育も共に終る可きものなり啻に年齡の早晩あるのみならず敎育法の屢變革するも亦不利なりとす生徒の學校に在るや其學校の敎則に慣れ、敎師の敎授法に慣れ、入學以來學業進歩の程度もあり、前途卒業の望もあり、同學相互ひの

競爭もあり何れも敎育上に大切なる箇條にして苟も之を變動するときは必す多少の損害を被らざるはなし多年の實驗に據て之を見るに生徒が樣々の事情に妨けられ叉は本人の輕躁よりして屢就學の學校を去り多方奔走して修學の法を攺めたる者には業を成す者甚た少なし仮令ひ成業するも其間に徒に日月を費して生涯の所損たるを常とす故に學校にして俄に其敎則を攺め敎師を=陟し尚甚しきは乍ち學校を開き乍ち之を廢するが如きは其生徒生涯の行路を誤らしむるものと云ふ可し之を譬へば草木を培養====がら=====て植替るが如く家畜を養ふて乍ち飽かしめ乍ち備へしむるが如し其成育を欲するも得へからざるなり草木禽獸にして尚斯の如し况や發逹の顆敏なる人類に於てをや之を妨けて其害の大なるは想像の外なる可し

生徒敎育の爲に學校の容易に變革す可らさること斯の如し苟も文思ある士人にして少しく心を留めたらば他人の辨明を俟たすして自から發明することならん然るに爰に怪しむ可きは各地の府縣に於て動もすれば公立の學校を廢し叉は其費額を减少して一時の風波を起す者徃々是れあるが如し蓋し地方にて諸費目の多寡を議定するものは府縣會にして其議員は民情を察して增减するものなれば傍より喙を容る可きに非さるが如くなれども或は一時の事情に從ひ必すしも十數年の前後を顧みずして偶然に議定するものなきを期す可らず而して此費目なるもの、道路橋梁等に屬する歟叉は警察費の類なれば今年大に之を减少して爲に不都合を感するときは明年更に增加して舊に復するも大なる妨を見すと雖ども獨り學校に至ては則ち然らず地方の年少が其智力發達の期を誤らずして學に就き一所の學校を目的として餘念なく此校に學を此の校に成り畢生の行路其發端を此處に始めんとて正に熱心する其最中に議員の多數校費を支出せずと議决するとき其一决以て數百の生徒をして方向え迷はしめ敎育の年齡に最上なる日月を空了するのみならず假令ひ明年の會議にて舊に復することあるも事既に晩くして所損を償ふに足らず一地方の大計に於て策の得たるものと云ふ可らさるなり

右の次第なれば府縣會の議員がよく十數年の後を謀て此地方には斯る學校を要せず今の民情と民力とにては三年の後も然り十年の後も然らんと果して定見あることならば斷然これを廢して顧慮する所なかる可しと雖ども若しも然らずして地方の爲に敎育は大切なり今年其功を見ざるも明年は其要用なるを感することならん十年の後には益然ることならんとの見込あらば些少の事故に拘泥することなく勉めて之に手を觸れすして其存續を助けんこと我輩の冀望する所なり聞く所に據れば或る縣地にては頻年縣會の議を以て學校費を减少せられ生徒も敎員も大に失望して尚今後の災難を恐れ本年の議决は如何ならんとて縣會期塲の其日より毎日會議の景况に注意し期塲數十日の其間は生徒にして安んして書を讀む者なく殆と半年を空ふするの状ありと云へり誠に面白からぬ有樣と云ふ可し抑も近來は如何なる氣運にや府縣廳と===と動もすれは==の旨を缺き徃々相反對するものなきに非す茲に敎育の事に就ても=に其風を攺めんとして頻りに令する斯の乍ろ多ければ基布令の是非に拘はらず人民は之を======の思ひ敎育の法を===者=民なり=費の權は我れに在りとて聊か反動の意映なきにも非さる可しと雖ども畢竟是れは政治上の議論にして子弟の敎育は自から叉別のものなれば政府の筋も勉めて人民の不平を招からざんことに注意し人民も亦==の==に==は=く政治を離れて唯其地方の子弟の爲に情を盡すこと=老先賣の責任ならんのみ