「人和論」
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時事新報に掲載された「人和論」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
人和論
天時地理は人和に若かずと言陳腐に似たれ〓真理は欺く可らず苟も〓こ干戈の事〓るきは攻ることも守ることも人氣調〓せざる可らず今回朝鮮の事變に就の我日本國は將さに干戈を海外に動かさざるとするものなり今日の勢に〓は最〓たる〓林恐るゝに足らずと云うと雖も戰爭の事は最も人の前言す可らざるものにして殊に近代世界中に運輸交通の道は便利にして〓〓各國交際の關係も甚だ繁〓なる時勢なれば或は朝鮮の關係唯朝鮮國に止まらずして支那に波及するやも測る可らず唯支那に波及するの〓〓止まらずして歐洲諸國に格別の關係を生ずるやも測る可らず何れにも今回の事は日本国内の事〓非〓し〓日本全國と外國と相對したる事なり既に日本全國の事とあれば全國の人が喜憂を共にす可べきは固より論をたず明治十年西南の役も日本の戰爭なれば西南の日本人と東北の日本人とは喜憂を共にするを得ざりき他なし内乱なればなり内乱と外戰とは其性質全く相異なるものと知る可し
今回の事に就て未來の憶測すれば未來の事甚だ繁多なるを覺ふ、事の繁多なるに當て先ず心に感ずるものは人物に乏しきを一條なり此事を斯の如くせし、其事を斯の如く慮せんと思うも其人物を求るに臨て當惑するは人事の當なる況や國に俄に事を生じ〓其前途の成行きは〓め〓定す可らざるに於てをや人物缺乏の感なきを得ざるなり斯る時にこそ國會を開くなどの説も随分これを心の中に考る者もある可けれども我輩は決して之と考を同くする者に〓ず唯今日の急務は今日の急に叶う可き在野の人物を政府に入るゝの一事なり〓常ならば〓常の人にて事足るとするも今日現に多事の時に當を多くの人を用いるに何も差支えはなき筈なり亦是れ官民調和の好機會たる可きの〓我輩は今の政府の官吏が愚なるか故に在野の智人を入れること云うに非ず智にも愚にも今日は國事多端と爲りて其〓の種類も様々なるが故に様々の人を入れて之を用いたらば都合好からんと云うまでの旨なれば讀者其旨を誤解する勿れ
人或いは云く今日政府に人を入るゝとあれば先ず重立たる慮にては會て官に在て今日閑散なる人物を入るゝことならんと雖も此種類の人は在官中の忠臣にして官を去れば其翌日より官に對して不深切にして心事甚だ面白からずとの説もあれども是れは誠に名論にも非ず奇説にも非ず明白なる事實にして誰れもよく知る所なり官を去りたる人は官に對して不深切のみならず〓〓兵を擧げて謀叛したる者もあり蓋し官を去りて不〓なるは人〓の常と見〓仮令ひ兵を擧げざるも或は政府に建白書を呈し或は民關に議論を唱えて不〓を鳴らし明治の初年より十五年の今日に至るまで落路の官吏一人として然らざるはなし辭職の後に政府に向を不〓を鳴らすは甚だ宜しからざらことなりと云いながら其人が辭職すれば必ず其先例に従て〓に倣うを常とす我輩は官途の事に付き甚だ不案内なれども此不〓の一條は何か其人の出慮の際、別に原因のあることならん何分にも是れまで辭職したる其人の天資が悉皆惡奸にして惡奸の〓か偶然に辭職したりとも思われず如何となれば其人が辭職の前〓まては實〓忠臣に〓朝野共に其忠を信じたればなり斯くまてに人に信ぜられたる者が一朝にして其心事を改めて恰も別人の如く變化するとの事は學問上に論ずるも人心の原則に於て見る可らざることなり今一歩を譲て〓人の説に従い辭職の人は其翌日より心事を改めて不忠臣たる不思議ありとせん、一朝に不忠臣に化したるものは亦一朝に〓中心に再化するの不思議なきを得ず試に今日不忠と思う其人を政府に入れよ明日は必ず忠臣たること昔年に異なることなかる可し故に辭職在野の人を論じて其心事の忠不忠を評するは俗〓が病客に接して前〓の短を發揚するものに異ならず人〓の常にして至極尤もなることなりとは雖も其實は唯自から己が凡俗を示すに足るのみ苟も政治社會に聞く可き言に非ざるなり
又政府に人を入るゝこと多ければ多々〓政府内の軋轢を生ず可しとて掛念する者なきに非ぜれども是亦無稽の説なり苟も〓に二人以上の人あれば軋轢なきを得ず五七人を以て軋轢するも五七十人を以て軋轢するも軋轢は即ち軋轢なり若しも此に區別あると云わば五七の聞の軋轢は其性質酷烈にして五七十の軋轢は少しく緩ならんのみ若〓も此緩なる軋轢にも堪えずとならば或は多數に決を採るも可ならん結局衆員の意見を集めて一定論となすの法は唯多數に決するの一策あるのみ
我輩が今日に限りて特に官民調和の事を云うものは蓋し亦其由〓あり〓常なれば調和の説美なるも其端を聞くこれ甚だ難し然るに今日は不幸にして國事多〓の時に際し事實目下に人物の要もあり又後日の事を深く心配すれば〓に人を要するの時節到來することもある可ければ其大に要するの時に臨て之を求めるよりも今日事の未だ來らざるの時に當て先ず人物を集め人心を〓〓せんことを〓るの微意のみ或は今回の事件大破裂は及ばずして局を結ばん〓誠に賀す可き次第にして然るも尚政府に入れたる人の無用の長物に非ず以て長く官民の調和を助成す〓〓偶然の美事にして〓禍爲〓不幸之幸と謂う可きなり