「偶感」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「偶感」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

偶感

夜陰に會はざれば破燈を補はす暴風に遭はざれば朽柱を支へざるは是れ尋常人の怠惰なる状態にして天の未だ陰雨せざるの前に〓戸を〓〓するが如き〓防の至れるは希有の注意と稱す可きなり然るに〓に人あり夜陰至るも破燈を修めず暴風来るも朽柱を支へず遂には燈將に滅し柱將に倒れんとするを知れども猶之を修補支持するの着手を聞かず仍て其庫中□       就〓紙片木材の有無を問ふときは家計固より富饒ならざれども全く紙片木材の欠しに非す〓に存する所の紙片は未た破れざるの窓戸を補ひ其木材は未だ朽ざるの厨廐を修るに用ひ破燈朽柱は目下之を修補するの償なしと答はは人將た之を何とか〓せん必すや経済に任きものと云はん又〓の具内情を探れば一家數日意氣相〓〓〓好悪各殊なるが爲め一葉の紙片も各人所用の目的を異にし甲の是とする所は乙の非とする所となり終に破燈を措て窓戸を補ふの〓策に出づ是以て元来の不如意は愈不如意の外相を示し隣里の非識を招しに至れども若し此数口の家人をして同心協力一家の盛衰を先にし各自の好悪を次にせしめば家計必しも困頓せず破燈朽柱時に及て之を修支するの餘裕なるに非さるなり夫妻反目すれば素封の家も衣食の〓乏を告るものなり況んや一家数口各好悪を殊にするに於てをや

前記は我隣甲の一小鎖事なれも亦以て當路〓の鑑戒と爲す可きものあり〓や我邦〓土至大をなすと雖も製作貿易至盛ならすと雖も人口衆多にして敢爲の氣象に乏しからす數百年の後に生れを一躍世界の文明を〓し又一躍して東洋に雄飛せんと人も許し己れも信して〓翔を試るの際〓戸の綢〓果して陰雨の前に在りや否を問ふ〓は頗る世の希望に背けるものあるに似たり尚甚しきは我隣人の如く夜陰に破燈を修めす暴風に朽柱を支へす僅存の紙片木材は他の厨廐窓戸を補繕するに用ひふるゝの憾なき能はさるゝの惜む可きの極ならすや海洋四周の邦土に居れは政府の着手す可き事業中至急を要するものは船艦〓造より先きなるはなし故に卅年來識者の論する所千言万章建議に著書に新聞に演説に既に已に論究を竭せり且我〓紙の如きは国〓〓張を主眼とすれは三月一日〓刊の后累篇重〓大に政府の着手を促し〓れは今〓〓々の〓を聚せされる妙機の到来又一官の鄙見を〓するの際會を得たり〓〓目下我国に大〓係を有せる事變の作與せる朝鮮國は何等の〓り〓東洋の一小國にして而かも久しく海外の交通を絶ち世界の兵〓に何等の沿革ありしやを知らざるものなり獨り我國の誘掖を以て近〓交通の緒〓て〓き文明の事業を学はんとして〓に一歩を〓めて目下一大〓〓を爲したるものなれば之と兵革を以て相見るが如きは恰も戈を執るの大人と棍を持つの小兒との如く易中の易なれば顧慮を要せされども今般の事變に遭ひ我兵傭の厚薄如何を顧る〓は〓を朝鮮に問ふに餘りあるも事支那に連り事〓國に及はゝ如何と遠く將來を憂るときは必しも獨り船艦の脆弱是れ憂と云ふには非されども先つ心〓を縮小するものは兵艦の脆弱なり三十年來の用意〓に實用に供すへきもの七八艘に遇〓すとすれは過去の實績將來の〓げとなすへし當局者の用意周到ならざる可らす

頃日我政府は船艦の寡少を憂ふるより共同運輸會者の創設に百三十万圓の資本を貸し治乱兼用の船舶を〓造し大に時〓を濟ふの擧あらんとす〓し?船〓帆〓十艘を〓送し有事の日は裝砲した軍備を助く或は彈藥或は兵十の運送を爲さしめ無事の日は貨物梱載旅客徃來の用に供し一擧両便の事業なりと余輩の所見にては是或は上古屯田の遺想に出るものなる可し居ては〓〓の〓を〓り出ては戰鬪の用に供し所謂自から衣食するの兵なれは經濟上消費を省くの一點より論する〓は此に超ゆるの〓策は世に無かる可きが如しと雖も經濟上〓世の一大發明と稱〓する夫の分業の一點より論するときは余輩其利害孰れか大なるを知ること能はす分業の理に從へは軍艦は軍艦たる可し商船は商〓たる可し搆造に始て使用に至る迄軍艦商船各其方を殊にし之を兼用すれは其効用を遲飩にするの失なきを免れす屯田兵の近世に行はれさるも蓋し此理に由るならん經濟上の理論は之を〓〓政府の此擧あるは海軍擴張に在りと聞けは余輩の希望は既に達するか如くなれども〓を得て〓て望むは人の常情なれは余輩我政府に向て希望する所を論するも敢て不可なかる可し余輩は目下の事變に際し又將來の事變を思へは未た兼用の軍艦を以て滿足すること〓はす又更に專用の軍艦搆造あらんことを欲するものなり夫の共同運輸會社の如きは目下必要の〓なりと雖も政府に在ては他の鐵道會社の如く金〓と年賦とを定め到底の利子を保証し以て起業者の勇を皷するに止る可きのみ然るに尚之に貸すに百三十万圓の資本を以てせんとするは海軍の薄弱を憂ふるに出る可けれは専用軍艦の購買するの資金は既に已に〓なる可し偶々余輩の之を知るに及はさるのみ

之を要するに目下軍艦を搆〓購買するは〓夜〓に〓〓を修め暴風に朽柱を支ゆるが如し〓に及て之を修理するは當局者の任する所なれは必すや〓策なかる可しと雖も國計逼迫の今日に當ては事の緩急を測て着手の前後を定むるに尤も〓〓の取捨を要す夫れ緩急は好〓に制せられて取捨は情實に〓さる、木石に非ざる人生の常態なり〓〓〓讀者はよく此好〓情實を脱して國の長計に着〓し十年の後に〓て果して今日に遺策なかりしの實を〓〓るを〓〓〓〓〓隣人の事に感して此論を作る