「朝鮮談判後急施を要するの件々」
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本文
朝鮮談判後急施を要するの件々
花房公使が平和の談判を以て朝鮮事件を平和に終結したるは我輩が國の爲めに慶賀して措
かざる所なり然れども此慶賀は唯目前の一局を終結したるを喜ぶまでの事にて是よりして
天下は無事安樂なり高臥安眠妨なしと云ふに非ず今回の一擧大に日支韓交際の面目を改め
隨て今後東洋全体の氣運に影響する所大なるを以て之に處するの大計甚た多し我輩亦油斷
なく之を講究して當局者の注意を喚起す可しと雖ども今先つ目下實施を急ぐの數事を列記
して其注意を喚ひ一日をも空過せざらんことを希望するなり 日韓両國の交際は數千百年
の古より連綿絶るなく延て明治八年に至り江華灣に於て韓人我〓揚艦を砲撃し同年十二月
我問罪の使臣渡韓し同九年二月?國の修好絛約成るに及て其觀を一變したり此絛約締結以
前我日本が朝鮮に對するの所置は徃昔我國が未た近代の文明を輸入せざりし時の舊例に依
りたるが故に?國の交際毫も觀るに足るものなかりしは是非もなき次第なりと雖ども明治
九年以後は我新國是に從ひ進取活?の所置を以て大に?國の交際を親密ならしむ可きこと
なりし然るに其實際を顧れは或は未た然らさるもの多かりしなり韓京に我公使を駐在せし
むるが如きも九年十年十一年十二年を過きて十三年に至り始て花房辨理公使が韓京在勤を
命せられ元山仁川?所開港の如きも明治九年二月より起算し二十ケ月の後には必ず之を開
く可き絛約なるを一は明治十三年に開港し一は今十五年に將に開港せんとして未た爲ざる
なり公使を始め居留人民護衛の如きも一隻の軍艦を以て相距る各數百里の三ケ處を掛持ち
にせしめ居留地若干名の巡査は韓人の投石をも防禦し得可きや覺束なき有樣なりしが故に
人皆生命財産の安全に配慮して外交貿易等の當務に專心從事するを得ざるの塲合なきにあ
らざりしなり故に人あり我を評して日本國は外交第一の緊要に屬する朝鮮の交際を怠りた
りと云ふも我輩は之を辨疏するの辭なきに苦しむなり既徃は悔ゆとも及ぶ可らず唯之に鑑
みて後來を戒め其悔を復たびするなからんことを希望するのみ則ち今回談判終結後第一着
の要件を開列し片時の猶〓なく其實行を目撃せしことを欲するなり
〓〓〓〓の事
對馬を經て釜山に達するの海底電線を設る事は既に其〓に於て議決ありしと聞けば日なら
ずして其工事に着手することなる可し然るに此電線をして單に釜山に達するのみにして止
まらしめば其用極めて挟し故に此線を設ると同時に朝鮮政府に懇諭して數絛の陸線を架設
せしめ一は釜山より漢城に達し一は漠城より仁川に達し又一は漢城より元山に達せしむ可
し而して其工費の如きも我輩か既に時事新報紙上に論陳したる如く五十万圓の償金中より
其幾分を補助せんには十分に其架設を急ぐことを得可し
警備の事
目下朝鮮警備に必要の兵士軍艦巡査等の員數を明言するは或は尚ほ早しとも云ふ可き意味
なきに非ず彼の清國政府が今回日韓?國の交際事件に關し自家無關係の塲所に横合より立
現はれ軍艦を?ぎ兵士を上陸せしめ大院君を北京に拘致する等其所業甚だ分明ならず後來
も亦之に倣ひ朝鮮の小弱を利して自大の〓威を示さんとし六萬三千の兵士は依然として漠
城に據守して軍艦七隻は自今南陽灣を常?所と定め其擧動甚た不審に堪えさるものあらは
我警備も亦大に取捨する所ある可きを以て先つ清國を知るは此件に關する第一着なりと雖
ども彼とても飽まて曖昧の擧動に終始する者にあらさる可ければ不日兵を撒し艦を還し朝
鮮は又舊時の乾坤に復するものとして此際の警備を料るに漠城公使舘の護衛は一千以上の
兵員を要するなる可く仁川碇泊の軍艦は三隻より少なからざることを期するなる可し元山
釜山の如きは何樣の事あるも各必す一隻の保護軍艦を碇泊せしむること必要なる可し而し
て又各居留地の巡査は大に増員して内外の取締に遺憾なからしめんことを要するなり
郵船定期航路開設の事
長崎より釜山元山を經て露領浦潮港に至るの航路は昨年以来毎月一回の定期航海を爲す郵
船ありと雖ども仁川港の如きは僅に毎三ケ月一回の廻航あるのみ其不十分なること我輩の
論辨を俟たざるなり近年我國の外交は朝鮮清國を以て第一位に置くの時勢となりたれば毎
週一回清國上海に至るの航路並に毎月一回釜山元山を經て露領浦潮港に至るの航路共に緊
要必須のものたりと雖ども爰に又今一航路の其緊要至極なるにも拘はらず久しく我國人の
注意を漏れたるものあり
横浜を發し釜山仁川芝罘を經て天津に至るの一線路即是なり仁川は朝鮮漢城を距る最近の
海港にして天津は清國北京に入る必由の海口なり政務上〓〓上〓〓〓〓〓〓〓此〓〓に定
期郵船の徃來するを要すること〓論たる〓〓〓期日の如きはいい當分先つ一ケ月二回と定
め〓〓上海〓〓〓週一囘に増加して然る可し
目下の要件は以上列記する所の一二に止まるに非す例へば在韓公使舘附の書記を増員して
専門學科に精しき人〓を採用し内地旅行等の際に學問上の發明を〓て〓に〓することを謀
る等事甚た多端なる可し我輩が當局者〓〓〓〓〓〓〓小ならさるなり