「石川縣會の紛議を論す」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「石川縣會の紛議を論す」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

本邦に於て府縣會の創設ありしは實に明治十一年にして爾来既に四箇年の星霜を經過した

り其際三十有餘の府縣會中には議事の捗取らざるあり論議の紛擾するあり縣官と折合惡し

きあり政府に訴て審理の請ふありて殆と枚擧す可らざる種々樣々の顯象を表示すと雖ども

其最も紛擾を極めたる者は石川縣會なるが如し既に讀者諸君も知らるゝ如く石川縣會は本

年五月に於て現職の縣令を解任するの建議を議し其論議府縣會規則第二十九絛を犯したり

とて遂に解散を命ぜられ爾後更に議員を撲擧して今回再び開會せしが既に去る十六十八?

日の本紙上に記載しあるが如く該縣會議員稻垣示氏は去る八日縣會の議塲に於て縣令の職

務に對し侮辱したる科を以て拘引せられたるより忽ち議塲の一大問題となり紛議百出頗る

沸騰を極めたりと雖ども遂に會論は縣令の所量を至當とすると之を不當とするの二岐に分

れ至當論者は不當論者の十七人に對する十九人の多數を以て勝を制し漸くにして一旦は平

穩に歸したりと謂ふ

抑も縣令の所量を不當とする論者の説を聞くに歐米の立憲政体國に在ては國會議員は十大

なる罪を犯すに非れば開會中に拘引せられざるの特權を有するが故に我府縣會議員も亦斯

の如き特權を有せざる可らずとの主義なるが如し又此所量を至當としる論者は府縣會の規

則中は府縣會議員は斯の〓〓特權を有するとの明文なければ府知事縣令は固より犯罪議員

を拘引せしむるを〓〓しとの説を固就するが如し蓋し今此二説に就き其可否を論定するに

は二樣の法あるべしと我輩は思惟するなり其第一法は今の政治の有樣を論定の根據と爲す

者にして其第二法は今の政治の傾向を論定の基本と爲す者なり今の政治の有樣とは本邦現

行の政治即ち専制政治を謂ふなり我府縣會は本〓立憲政治國の制度に摸倣したる者なりと

雖ども其最上の〓柄は我政府の專ら掌握する處なるを以て政府は獨府縣會規則を增補改正

するの權を有するのみならず該會の自由に興廢するの得可きは既に世人の知悉する所なり

故に其規則中に府縣會議員は斯の如き特權の有するとの明文又は習慣のなき以上は無論之

を有する者に非ざる〓〓是を以て之に據り之を論定するときは今回石川縣令の所置は敢て

不當なるに非ざる可けれは至當論は可にして不當論は否なりと謂はざる可らず又今の政治

の傾向とは我政府は維新以來鋭意以て改進の主義を執り既に國會開設の大詔も降りたるこ

となれば現行の政治は專制政治なるにも拘らず漸次立憲政治の域に近つくの勢あるを謂ふ

なり我府縣會は其最上の權柄は素より政府の掌握する所なれども其設立の本意は民權を擴

張せしむるに在るを以て社會の秩序安寧を破壊せざるの限りは可成丈け民權の擴張を計る

は蓋し政府の本旨ならん是即ち我輩人民が政府の外より傍觀して今の政治の傾向とする所

なり且夫れ國會議員が輕少なる罪を犯せばとて之を開會中に拘引するときは之に代議を委

囑したる數多の人民は爲めに貴重なる發議の權を〓奪せらるゝに至るを以て歐米の立憲政

治國にては重大なる罪を犯すに非れは開會中に議員を拘引することなきに非すや是れ一人

の罪よりも公衆の權を重するものにて苟も民權を擴張せしめんとする者の最も深く注意せ

ざる可らざる者なり是を以て之に據り之を論定するときは今回石川縣令の所量は敢て策の

得たるものに非るべければ不當論は可にして至當論は否なりと謂はざる可らず

我政府は今回石川縣令の所量に就き果して右二法の孰れに據て判断を下だすことならん之

を至當とする歟不當とする歟其判斷の趣を見て政府の意の所在を〓〓し得べきなり然りと

雖ども今一歩を進めて考しは此縣會の紛議なるものも其實際を尋れば素と唯學校費の一事

より起りて其費用を右にすればとて差して縣民全体の疾苦に係るにも非ざる可し又左にす

れはとて縣廳の施政に大利益あることにも非ざる可し畢竟する所縣政中の至大事件と稱す

可き程のものに非ず、至大の事件に非ずして至極騒はかしき紛〓を起したるは何そや縣廳も

縣會も昨今は實際の事柄よりも寧ろ〓〓の議論に忙はしきものりと云はざるを得ず事實の

利害が主と爲りて議論の〓したることなれば〓〓の爭も亦至極尤なれども〓と〓理の〓が

主にして其爭の序に事實に及ふものは我輩に於ては唯これを官民不調和の〓症として見ん

の〓左れば今回石川縣會の紛擾も其原因は遠く此不調和の〓に胚胎したるものなれば其遠

因を除くに非されは仮令ひ今回の一紛議を治ルむるも亦〓つて〓の二紛議を生す可きのみ

我輩は唯この一事に逢ふて特に之に着眼する者に非ざるなり

豐公論 第三

今夫れ民權と云ひ官權と云ひ互に其主義を爭ふと雖ども孰れも皆小局部に跼蹐し官權中に

幾多の官權あり民權中に幾多の民權あり小異の爲に大同を離れ其有樣は元龜天正の其際に

群雄割據の相猜忌したるに殊ならず然れども今日の日本は昔日と殊れり速く富強の基を建

て國權の振興を〓さる可らす速く官民の不調和を撲滅して平穏に合同一致せさる可らず豐

公の世に當ては群雄互に相呑併するも畢竟日本國中甲に得れば乙に喪ふものに遇きず敢て

一國の安危として憂ふるに足らさるなり然るに今の時は正に之と相表裏するが故に若しも

官民の益相不和なるに赴き之に加ふるに官權なり民權なり各派の人物孰れも小局部に局促

し一方は西に奔り一方は東に走り共に其方向を異にすれば寸分の差は千里の〓を致し遂に

際限なきに至り思さる事變に逢遇することなしと謂ふ可らず夫れ此の如のなれば今日は官

民調和全國合同の益以て須要さるに滔々たる天下之を憂とせす一の豐公の志望を抱持して

國内を調和するを慮るものあらず余輩は國の爲に惜まさるを得さるなり

曰く官曰く民固是何言ぞ皆其本を同ふし其利害を共にするものなれども惟塲所の差違に由

て僅に此別を來したる〓己官は民に由らずんば立たず民亦官なくんば安らず故に民權中に

官權なかる可らず官權中又民權あるべきなり要するに全國悉く和暖の春風に調和せらるゝ

にあらずんば天下安からさる事なるに當今の状態にては茫々たる天下皆是群雄割據の舊套

に彷彿すること多く其問に温和の氣あるなく寛大の量あるなく政府は政府にして一天地を

なし人民は人民にして一乾坤をなし?者相容れさるのみならず之を〓け之〓に〓かり不和

の其度を增すあるが如し〓る不調和の起る、其咎元より一方に歸す可らず其實を受たるに至

ては?方共に分擔せさる可らず蓋し全國の相調和する天下無上の快樂なるへしと雖ども孰

れも〓度量狭隘の人間にして朝野の官民の其〓に一人の豐公なきは嘆ずべきの至りならす

や若しも公をして地下に知らしむれば千歳の下〓の〓〓を〓くの〓已なしと言ふ〓〓〓〓

〓〓るゝなり

豐公が日本の土地は之を他人に與ふるも兵〓は之を何人に移すとも少しも憚る所なく剰へ

外國に徃て封土を拓す〓〓するの〓〓何ぞ夫れ壯快なるや苟も男子〓〓〓〓〓か〓て〓の

大丈夫なるべきに方今の官〓〓〓〓甞て〓〓〓〓を憂うふるものなく却って其勢いに〓任

〓去る〓果して何の意づ方今不調和の起るは固〓〓〓〓〓〓〓〓りと雖ども源に溯て之を

考ふれば官〓本〓し〓民は〓〓〓甲は主にして乙は客なるが如し則ち〓〓〓わを〓〓〓に

も政府より其端を發くべきなり其度量を寛大〓し其氣風を温和になし〓く天下の人才を求

め〓く政敵をして政友に化せしめ以て公明正大の政を施さんこと其國に尽すの本職ならず

や豐公は匹夫より出〓〓天下に覇たれども甞て天下を私す〓〓念な〓〓〓〓〓〓垂る其朝

鮮を征するに當ては日本を〓〓〓〓し〓〓〓〓して明智に入らんとし〓〓〓なれど〓〓〓

老い齢傾き滿腔の雄圖意の如くなる能はざるを以て事遂に止みたり乃ち豐公の志は天下〓

狭しとするものなり天下を狭しとす故に能く〓〓を建て夫れ苟も天下の爲になすあらんと

欲せば天下を〓〓とせざる可らず政府を小なりとせざる可らず權勢を喪ふも憚る可らず爵

〓を辭するとも惜むに足らず其歸する所は己れが天下を人以ての天下を〓し人の天下をし

て己が天下を憚らしむるに在るのみ是れ予〓の在朝諸人士に希望する所なり獨手に天下を

握て天下を狭〓とする者すら尚且之れ有り苟も豐公の〓〓を〓ひ且國家調和の已む可らざ

るを知〓〓〓〓〓〓〓に〓はざるや(畢)