「郵便法改良(前号の續)」
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時事新報に掲載された「郵便法改良(前号の續)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
目下文明諸國に行はるゝ全國一價郵便法は其價を廉にして其用を廣くし隨て又出入相償ふを得るの仕組にして國庫のために貨殖するの主意に非ず重税等の方法を以て郵便を妨碍するの害は學校に課税し新聞發行を停止し挾書の禁を布くの類にて一國の命脈を縮むるものたることは我輩既に前段に於て之を縷述したり今我驛遞局に於て郵税增加の議ありと風説するも其增税の主意や智識開發人間交際の要具たる文書徃復に徴税して國庫万一の不足を補はんとするにはあらず唯郵便は一個の私業なりと視做し商人の計算法に依りて驛遞局の歳出入を差引し當時尚且つ得る所を以て失ふ所を償はず此上幾分の改良を加へんとすれば更に幾分の費用を增すなり到底郵税を增課するに非ざれば事務の擴張改良を期す可らずと云ふに在るなるべし果して斯の如くなりと云はゞ我輩又今の驛遞局の歳出入に付て論せんに決して出入相償はざるものと云ふことを得ざるなり明治十五年度會計豫算表を見るに驛遞局の歳出は百九十四万圓にして歳入は百八十六万圓とあり歳出の歳入に超過すること八万圓なり而して其歳出の部を〓するに三菱會社へ上海航路の助成金として渡すもの廿五万圓露領浦潮港の航路同斷一万圓沖繩縣の航路同斷九千圓合計廿六万九千圓なるものあり然るに此等の各地方には何等の理由ありて定期航海を必要なりとし之を維持するがために日本政府現時の會計に比しては隨分巨額なる金員を費して之を顧るに遑あらざるや書状、新聞紙、圓書等遞送のために此航海を要し此費用を要すと云ふか決して然らざるべし強ひて附會の説を作り單に郵便用のために此航海を要すと云はゝ好し數個の郵便布嚢を搭載するに足るの船室と風浪の險を凌くに足るの船体を具へたる快駛無比の小蒸氣船を使用すべし何ぞ速力の十分ならず進退の自在ならざる數千頓の大船を使用して故らに費用を增加することを爲さんや然るに此大費用をも顧みすして斯る航海を維持する由縁は決して郵便用の爲のみに非ず他に政治〓に商業上の大目的あるを以てなり政治上の目的は郵便局の關する所にあらず政治は政治を爲し郵便は郵便を爲すべきに啻に郵便の名を濫用するのみならず遂に其實をも奪ひ政治用の助成金のために郵便用の税金を使用し強ひて其事務の擴張改良を〓〓〓智識開發人間交際の〓に大妨碍を加へんとす實に數に〓らざる始末と云ふべし我輩は此助成金を驛遞局の損益計算表中より除去して之に換るに數千圓の郵便布嚢遞送賃を以てして正確なる計算表を得べしと信するなり即ち驛遞局十五年度の豫算は支出百六十七万圓餘収入百八十六万圓差引収入の方過剰十九万圓なり日本政府が郵便を設置してより以來未だ十年を出でず創立の際事務の容易に整頓せざりしものも多からん或は高給の外國人を傭使する等にて其費用甚だ少なからざるに早く既に一年十九万円の益金あり日本人民の教育既に高等の地位に在り能く郵便法を利用して書状新聞等の遞送多數なるに非ずんば何ぞ能く斯の如き好結果を得ることあらんや驛遞局は益々郵便法を改良し十九万圓の利益をも収むるを要せずとて大に奮發從事すべしと思ひの外却て增税の企ありと風説するは我輩當局者のために大に遺憾とする所なり
今我國の郵便法を以て外國のものに比するに他の諸物價の下直なるにも拘はらず不相當なる高價の郵税を課するの實あり其比較左の如し
日本内地郵便税
書状 一個に付重量二匁迄 二錢
新聞紙 一個に付同十六分迄 一錢
書籍 重量八匁に付 二錢
英國内地郵便税
書状 一個に付重量四匁迄 二錢
新聞紙 一個に付(重量制限なし) 一錢
書籍 重量十六匁に付 一錢
米國内地郵便税
書状 一個に付重量四匁迄 三錢
新聞紙 毎日刊行新聞(一週間に六度刊行)一部の遞送税三ケ月に付き三十錢(一ケ月十錢一日三厘八毛餘)〇毎週一度刊行新聞一部の遞送税三ケ月に付き五錢〇毎週一度刊行新聞にて其の郡内に配達するもの(一人に一部)は無税
書籍 重量十六匁に付 一錢
右の表に依れば米國の郵税書状一個三錢は少しく不廉なるに似たりと雖ども其〓〓〓〓〓〓〓亦大に然らざるものあり其人口を問へば日本英國より多〓〓一千万内外なるに其國土の廣きは北亞米利加大陸の過半を占め日本英國より大なること二十三乃至二十八倍なり此廣大なる土地に此少數なる人民を散居せしめたるものなれば必ずしも日本英國の如き小國の例え〓〓之を論ず可らず寧ろ割合にしては大廉なる郵税と稱す可き依て日本の郵便税は自今左の如く〓〓〓〓〓なる可き
日本内地新郵便税
書状 一個に付重量二匁迄 一錢
端書 一個に付 五厘
新聞紙 同〓 五厘